[1066]フフホト通信(山東省青島市から)

石井裕之 投稿日:2012/08/09 02:27

中国山東省の青島市から、石井裕之がフフホト通信をお送りします。

さて、今日は環境問題について取り上げてみましょう。

皆さんは下水道がどのように処理されているか御存知でしょうか。
日本では非常に便利な法律が出来ていまして、どんなに過疎地域であっても非常に高い工事費を計上して下水道管を埋設します。
私がこうかくと、過疎地域は衛生的な生活をする権利はないのか、というお叱りの声が聞こえてきそうですが、違うのです。もっと効率的なやり方がありそうなものだ、ということです。
その高価な下水道管を通って集められた下水道は、全国にある下水道終末処理施設へと流れ着き、そこでろ過され環境基準に適合するようにしてから「水」は放水されます。

中国では下水道管の埋設工事は整いつつあるようですが、肝心要の終末処理場がまだきちんと出来上がっていません。厳しい法律は公布されていますが、その法律を完璧に運用しようとすると、インフラが整っていませんから全てがストップしてしまいます。
大きな工場の脇を流れる用水路は、ちょっと信じがたいくらいに汚れています。これでは環境破壊も止む無しですし、人間も壊れていきます。
日本では1980年代以降、水俣病やイタイイタイ病の患者の例を繰り返し出して徹底的に学校で「環境破壊が如何に非道であるか」を教え込みます(これを洗脳教育と呼ぶのでしょう)。お陰で今の日本人は環境保護が大好きです。
ところが、その環境保護の美名の下で一体何が行われているかは全く知らされていません。地域によって多少の差はあれ、我々はどうしてあれほど高い下水道処理代を強制的に支払わされているのでしょう。疑問に思ったことはないでしょうか。

実は、下水道を綺麗にした後にゴミが残ります。「汚泥」と呼びますが、この汚泥が問題なのです。何と実に多くの重金属類を含んでおります。役所は分析結果を公表しませんが、どこも似たり寄ったりなのです。
そしてこの非常に有害な汚泥を「証拠隠滅」する為に、焼却処分してやる必要が出てくるのです。この設備が非常に高価で、しかも運用もバカ高いときます。
そうですね。もうお気付きのことでしょう。
ここに利権が発生します。
下水道汚泥は問題が多く、日本人の健康状態を守るためにも一番望ましい方法で処理する必要があり、それは役所の許認可によって方法が決められます。
要するに、お役所の認める方法でしか処理出来ないようになっているのです。一切の例外は認められません。それを認めたら天下り先が無くなってしまいます。
するってーと何かい?焼却処分以外に方法があるとでも言いなさるのかい?!
以下、御想像にお任せします。

さて、中国です。
経済成長の著しい国ですから、色々なところで辻褄が合わなくなってきているのは事実です。下水道処理問題も例外ではありません。
ところが、こちらは非常に柔軟は発想でこの問題を解決しようとしています。
例えば、とある地方都市の下水道の処理基準値と処理費用(単価)を決めます。そしてそれをクリア出来る技術を海外から広く募ります。安くて凄い技術を募集するのですね。
我こそはと思う企業はこのコンペに参加します。そして晴れてこの地方都市と相思相愛の関係になれたなら、技術を持った企業は自己資本でプラントを作り下水道の処理を商売として行うことが出来るようになれるのです。勿論期限つきですが、十分儲かる計算です。中国側も先進技術を吸収出来ます。

何が言いたいか。
我々日本は、GDPで世界2位という座に長年着いていました。国民一人当たりのGDPもそれほど悪い数字ではありません。
ところが、庶民がその豊かさを享受出来ているのか、ということなのです。
収入が如何に多くとも、支出がそれを超えて出て行ってしまっては元も子もない話です。日本の現状がそうだ、と言いたいのです。
そして規制でガンジガラメになっている役所に、安い方法を提案しても無駄です。法改正をしてからでないと、絶対に覆せないように作りこまれていますから。
もはやここまでくると、この行政システムは民草のためのものでは絶対にありません。役人の保全の為です。

例えば、動力機構を持たない(動かしようがない)船を海上に浮かべて、そこをレストランに見立てて営業許可を取りたいとします。非常に魅力的なプランが色々と浮かんでくるような、実に夢のあるレストランが想像出来ますね。
ところがわが国では一体どこの役所の許可で営業出来るようになるのでしょう。
興味のある人は調べてみて下さい。恐らく現在の法律や条令では、日本全国どこでも開業出来ません。
同様に、下水道汚泥の画期的な処理方法を思いついても、それが日本で採用されることは金輪際有り得ません。
生ゴミの革命的な再生利用方法を思いついても、世界の常識が変わるほどの発電方法を思いついても、非常に合理的な幼児教育システムを思いついても、それらは日の目を見ることはないのです。

我々は耳障りの良い統計数字だけを教え込まれて、世界でも有数の豊かさを誇っている、と勘違いさせられているのですね。
それに比べれば、行政システムにも資本主義の考え方を上手に織り込もうとしている中国のやり方に、私は惚れ惚れしてしまうのです。