アニメ「千。」で異端(heresy)を許さない権力の残虐に震え上がる
土曜の深夜にNHKで放映されているアニメ「チ。ー地球の運動についてー」が話題になっています。
ストーリーはこちらで読めます。
https://anime-chi.jp/story/
正直しっかり見ていないのでざっくり書きます。
16世紀のヨーロッパの架空の国が舞台です。そこには異端(heresy)として残虐な迫害をうける修道士たちを追います。
異端(ヘレシー)とは何か?
それは支配のために国民に根付かせている”神”を否定する考えのことです。
アニメでは断言していませんが要するにカトリックを指していることは明白です。
異端狩りや魔女狩りと称して、異端審問という残虐なショーで民衆を黙らせることをする。
理由はなんだっていいんです。ここでは地動説ですが、髪の毛の色が違うとか、男色(ホモ)であるとか、ありとあらゆる口実で集団リンチを行うことが16世紀から17世紀の初めのころまで確かにあった。
言論の自由などもなく、当然ながら「地動説」は従来のアリストテレスの宇宙観に対して、神を冒涜することだとして弾圧を執拗に加えていく。
このアニメ「チ。」では修道士らが秘密裏に研究していた地動説を何としても残すための物語から始まりました。
原作は魚豊(うおと)というペンネームの27歳。2020年から2年間ビッグコミックで連載されていた漫画なんだそうです。
科学(science)は宗教の理神論(かみさまの存在をしらべる学問)から分岐したものです
日本の研究者や科学者は”科学的”という言葉の本質をよく知らない
実は国や大学の研究機関で働いている友人に会った際に、(私が言っていた)宗教と科学の関連が最近になって肌で理解できるようになったと言われました。
たぶん、研究対象が先端的になるほど人の思想の本質に近づき、目に見えぬ壁となっていくからでしょう。
アニメ「チ。」は禁断の研究対象であった”太陽を中心とする地球の運動”がどれほど支配者たち(つまりはローマ教皇を頂点とする支配階層)に危険視されたかを人物群のストーリーとして描かれています。
まっ余談ですが実際、敵対視されたのは地動説だけではなく、ダーウィンの進化論もそうだし、一部の数字でさえ危険思想だと糾弾されていたのです。
有理数と無理数という数字の区別は神学論からうまれた
かつては数字には神から与えられたもので、当然円周率(パイ)や2の二乗根(ルート2)といった延々と小数点以下が続く数はあってはいけないとされたのです。
少数点以下の数は絶対に限度があるか、1/3のように分数で表せられるものでなければならないと神学者たちは決めつけたのです。
だから「神が宿る数」という意味で「有理数」と名付けられた。
そして「神がいない数」は「無理数」として蔑まれたのです。
でも、円周率や二乗根や三乗根など幾何学的(つまり図形の学問)には表せても、代数学(数式で表す学問)では重要になっていくのです。
無理数は他にも対数(log)や自然数(e;ネイピア数)といったものへとどんどん拡張して専門化していきます。(そして終始概念的だからだから数学嫌いが生まれるんです)
天文学から始まった物理学は巨大な宗教権力の反勢力へとなっていったこれがアニメ「チ。」のテーマです。弾圧される主人公たちの残酷な処刑で一幕が終わりました。
さて、この続きはどうなっていくのでしょう?
実はこのアニメの題材は天文学からカネに移ります。
次の主人公に神の言う平等は正しいのかという疑問が小さな共同体制(村社会)の枠組みに綻びを生じさせます。
実力あるものが富を得るべきだという信念が、教義(ドグマ)に縛られている社会に楔を打ち込んでいくという話へとつながります。
中世の資本主義はどのように発生したのかを宗教的な視点から描かれていく
資本主義はマックス・ヴェーバー(Max Weber 1864-1920「プロテスタント発生説」)によってプロテスタントにより生み出されたとしたり顔でいう人がいます。
学問道場では20年前に、『金儲けの精神をユダヤ思想に学ぶ』(2005年 祥伝社 2018年文庫化)でこの学説を全力否定しました。
ウェルナー・ゾンベルト(Werner Sombart 1863-1941)の「ユダヤ教発生説」が正しかった。
さあ、アニメ「チ。」では資本主義の発生がこれからどのように描かれ、封印された天動説はどのように暴かれていくのか楽しみです。
副島隆彦先生の著作群を多く占めるこれら人文社会分野の中枢を知るきっかけに、ぜひアニメ「チ。」をお勧めします。