古村治彦著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』を読む。ウクライナ戦争は日本にとっての「対岸の火事」ではない。アメリカに騙されないためには米政界を分析する必要がある。
※冒頭に、古村治彦(ふるむらはるひこ)が加筆します。今日は2024年1月11日です。SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の吉田祐二(よしだゆうじ)氏が、私の最新刊『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)の書評を事務所宛に送ってくれました。吉田氏に深く感謝いたします。以下に、書評を掲載します。参考にして、是非手に取ってお読みください。加筆終わり。
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「2105」 古村治彦(ふるむらはるひこ)の最新刊『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売 2023年12月15日
吉田祐二(よしだゆうじ)です。今日は2024年1月11日です。
古村治彦(ふるむらはるひこ)氏の新刊、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を読了したのでその感想を書く。
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2023年12月に刊行された本書は、前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)の続編である。『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』は2021年5月に刊行され、すぐに購入していたが未読のままになっていた。今回、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』を読むにあたって、『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』と合わせて一気に読んだ。
古村氏はアメリカの大学への留学経験もある、本格的なアメリカ研究者である。初の単著である『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年刊)以来、一貫してアメリカ政治についての著作をものしている。その手法は、アカデミックな専門書に目を通しながら、日々の新聞・雑誌記事を丹念に取集・整理していくことで、問題を発見していくことであり、英語でいうところのインヴェスティゲイティブ・ジャーナリズム investigative journalism である。「調査報道」と訳されると間が抜けた感じになってしまうが、ある事象について深く掘り下げるためなら専門書や新聞記事、最近なら動画まで、全てに取材して真実を明らかにしようとする態度のことである。こうしたスタイルは、文書の読解能力はもちろんだが、根気の要る仕事である。私も一時期、新聞記事を収集・整理していたが、数年でやめてしまった。なかなか出来ることではない。
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古村氏の強味(つよみ)は、学問的な基礎がしっかりしていることで、その辺の大学のアメリカ研究者よりも政治学、国際関係論の理論に詳しい。これは他の新聞記者には無い強味である。大手新聞社の記者が、ふんだんな資金を使って、人に調べさせて書いた記事はたしかに多くの情報を含んでいるが、その情報を整理して正当に解釈するだけの素養のあるひとはなかなかいない。古村氏は、個々の情報を、政治学や国際関係論の理論的枠組(theoretical framework, スィオレティカル・フレームワーク)にあてはめて解釈する。それにより、現在だけではなく、今後がどうなるか、未来の予想も出来るようになるのだ。これは、学問(science, サイエンス)の強味である。
●高級官僚たちの分析
古村氏の学問的な素養が遺憾なく発揮されているのは、登場人物たるアメリカ政財界の要人たちのプロファイル紹介だ。デヴュー作『アメリカ政治の秘密』以来、『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でもそうだが、古村氏はそうした政界の大物たちの学歴、経歴(career, カリアー)、そして交友関係を鮮やかに分析する。政府要人にとっては、学歴や経歴などは公開情報であり、簡単に調べることが出来る。しかし、その大学がどの程度の格(ランク)であるのか、どのような系統なのか、アメリカに住んでいない者にとってはただの固有名詞に過ぎないそれらの情報が、古村氏の分析にとっては主要な材料になるのである。たとえば、以下の説明などは好例だ。
(貼り付けはじめ)
(副大統領のカマラ・ハリスの説明)ハワード大学は黒人大学 black universities and colleges の名門として知られている。黒人大学とは、アイヴィーリーグなどの名門大学がアフリカ系の学生たちの入学を制限していた時代、高等教育を行うために設立された、長い歴史を持つ大学群である。ハワード大学は「黒人大学のハーヴァード」と呼ばれる、トップ大学だ。(『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』、22ページ)
(貼り付け終わり)
なぜ学歴が重要かというと、アメリカは日本以上に学歴社会であるからだ。大学で選別され、さらに優等で卒業して奨学金を受け、よく仕事をした者だけが上流階級に入り込めるようになっている。日本と違いアメリカは猟官制度(the spoils system、スポイルズ・システム)であるから、高級官僚は選挙に勝った政治家からの引きによって政府の中枢、要職に就くことが出来る。そのために、彼らは自らの経歴に磨きをかけ、権力者からの覚(おぼ)えが良くなるようにしているのである。
そうした、選挙の洗礼を受けない高級官僚たちこそが、タイトルにもある「バイデンを操る者たち」である。よく知られるように、彼らは、大学教授、コンサルタント、政府閣僚のあいだを、「回転ドア」(revolving door、リヴォルヴィングドア)によって行ったり来たりする。その中でも、とりわけ重要だと古村氏が書いているのが、「ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社」というコンサルタント会社である。軍需・航空産業の顧客を数多く抱えている会社でありながら、その役員が政府にも入り込んでいる。端的に言って癒着であり、かつてアイゼンハワー(第34代大統領。1890-1969)が「軍産複合体」(Military-industrial complex, MIC)と呼んだものの現在進行形である。
ウエストエグゼク社が現在進行形であるとは、そこにビッグ・テック(Big Tech)と呼ばれる巨大IT(情報技術)企業群が絡んでいるからだ。20~30年前にはまったく存在感のなかった新興企業群が、アメリカ政治に大きな影響力を持ってきたことがよく分かる。そして、軍需産業とIT企業によって引き起こされるのが「サイバー戦争」である。
●分断する世界
軍需産業とIT企業を顧客にもつコンサルティング会社の役員がバイデン新政権の中枢にいる。だから「バイデン政権は戦争を始める」と古村氏は結論した。そうしたら、その8か月後には本当に戦争になった。『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』が刊行されたのは 2021年5月である。ここ数年の主要な出来事を以下に記す。
2020年2月 コロナウィルス流行。マスクが店頭から消える
2021年1月 バイデン大統領就任、連邦議会占拠事件
2022年2月 ウクライナ各地への攻撃が開始
2023年10月 ハマスのイスラエル急襲
コロナ騒動の渦中であったこともあるが、バイデン大統領の就任ほど目立たない就任式はなかった。世界はトランプ前大統領の動向ばかりに注目し、トランプの敗北が決まると次の大統領への関心は潮が引くようになくなってしまった。しかし、新政権の閣僚たちは着々と戦争の準備をしていた。新政権は「4年越しで成立したヒラリー・クリントン政権であり、第3次オバマ政権」であると古村氏は喝破した。外交政策はトランプの「孤立主義」(アイソレーショニズム、国内問題優先主義)から「人道的介入主義」へと取って代わった。それはつまり、他国への武力介入を辞さないということだ。
なかでも、古村氏はヴィクトリア・ヌーランドという女性外交官に注目する。彼女が10年以上前からヨーロッパ担当としてウクライナ問題に対処してきており、今回のウクライナ戦争の戦犯であるとはっきり指摘している。政府要人の分析から戦争の勃発を予言するだけでも素晴らしいが、古村氏はさらに今回のウクライナ戦争を通して世界情勢を分析する。
(引用はじめ)
今回の、ウクライナ戦争勃発によって、世界が大きな転換点に差し掛かっていることが明らかになった。それは、世界が2つの大きなグループに分裂しつつあるということだ。そのグループ分けが鮮明になってきた。それは、「西側諸国 the West 対西側以外の国々 the Rest」という新たな構図である。(140ページ)
(引用終わり)
アメリカはロシアを戦争に引き摺り込み、経済制裁をすればすぐにロシアは手を引くと計算していた。ところが、中国を始めとする「西側以外の国々」がこっそりロシアを支援したためロシアは屈しなかった。まだ戦争は終わっていないが、この時点でロシアはアメリカに勝利したことになる。世論調査でもヨーロッパもアメリカともに厭戦気分が出始めている。さらに、アメリカは想定していた武器備蓄も足りなくなり、日本を始めとする同盟国に武器の製造を指示したという。
私事ながら、私は機械業界で働いているのだが、去年あたりからアメリカ国内では軍需や航空機の部品の需要が増えているという情報や、日本政府が武器輸出についての規制緩和を検討しているという情報を聞いていた。ただ戦争が長引いているから足りなくなったのかと思っていたが、アメリカにとっては想定外のことで、彼らも慌てているのだと分かって愉快である。
また、中国とサウジアラビアが接近し、石油の決済を人民元で行う検討もしているという。ドルが基軸通貨の位置を明け渡すようなことになれば、アメリカは覇権国の地位を降りざるを得なくなる。アメリカの衰退のきざしが見える。
●ウクライナ戦争の教訓
さて、ウクライナ戦争を他人ごとと思ってばかりはいられない。明日はわが身である。
今回は対ロシアでウクライナが戦場になったが、対中国で戦争になった場合、日本か台湾が戦場になる可能性が高い。もともとヒラリー・クリントンは国務長官時代に「アジアへの回帰 Pivot to Asia」を謳っていた。つまり対中国強硬路線である。その外交政策がバイデン政権に継承されているならば、バイデン政権の本命はロシアではなく中国ということになる。
古村氏は国際関係論の理論、「バック・パッシング」(buck-passing)を紹介している。シカゴ大学の教授であったジョン・ミアシャイマーが提示した概念で、自分ではなく他人(他国)に代わって戦争してもらうことである。今回のウクライナがまさにそうである。アメリカはもはや自ら事を起こすような力はもう無い。だから、属国群を使って敵国と戦わせようとするだろう。ウクライナ戦争を予言した、アメリカ研究者の以下の警告を、日本人は真剣に受け取る必要がある。
(引用はじめ)
アメリカが、中国・ロシアと直接戦争ができないために国境を接する属国である日本が代理戦争(プロキシー・ウォー)をやらされる。このことを私は懸念している。アメリカが直接中国と戦えないために、まず、日本が中国を戦わされる、というバック・パッシングを、アメリカが行うことが怖い。最初に、南シナ海で、偶発的な事件が起きて、より正確に表現すれば、「起こされて」、日中間で死者が出て、そこから軍事衝突になることが怖い。アメリカは、このようなことを平気で仕組む。(291ページ)
(貼り付け終わり)
いかにもありそうな事態である。そして、踊らされてアメリカの意のままに騒ぐマスコミやSNS上での有名人が思い浮かぶ。国際関係を正確に理解している人は本当に少ない。専門家と称する学者たちが本当に分かっていない。テレビに出てくるような学者は皆アメリカの先棒かつぎと御用学者ばかりである。アメリカに唆(そそのか)されれば、かなりの確率で誘いに乗ってしまいそうである。しかし、『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』の「あとがき」を見るかぎり、そこにはとても難しいが、一縷(いちる)の望みはあるように読める。それを引用して本稿を終わる。
(引用はじめ)
本来、日本は米中どちらにも自分を高く「売りつける」ことができる位置にある。
より行動の自由があれば、中国に対しては「アメリカにつくぞ」という姿勢を見せて、アメリカに対しては「中国につくぞ」という姿勢を見せて、より良い条件を引き出すことも可能だ。しかし、悲しいかな、日本は敗戦国であり、アメリカの属国である。そのことを変えることは至難の業だ。(『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』 254ページ)
(引用終わり)
吉田祐二(よしだゆうじ)筆
(終わり)