スピリチュアリズムと自己信頼(self-reliance)

ジョー(下條竜夫) 投稿日:2024/10/19 10:52

副島隆彦先生が今年の1月に「自分だけを信じて生きる スピリチュアリズムの元祖エマーソンに学ぶ」を出版した。

本の中には、ほぼ一章にわたって、エマーソンの残した名言が副島先生の訳で載っている。これがすばらしい。ひとつひとつが心に刺さる感じだ。

「あなたは、自分自身よりも他に、信じるものを見つける必要なない。人は、自分自身が自分の星である。正直でまじめな人の魂は、すべての光と、力と自分の運命を支配している」

「今の自分の考えを信じなさい。自分にとっての真実は、他のすべての人にとっても真実なのだ、と信じなさい」

副島先生の本には書いてないが、エマーソンは1848年頃、スコットランドまで行って、講演を行っている。その時、観客の一人にギフォードという人がいて、このエマーソンの講義にいたく感激した。そして、自分の死後、遺言で、ギフォード講義(Gifford Lectures)という学術講義を、年に一度、スコットランドで開催している。ウイリアム・ジェイムズというプラグマティズムで有名な哲学者がいる。彼はアメリカ人であるが、このギフォード講義に呼ばれ、その講義録が『宗教的経験の諸相』という本にまとめられている。多分、このエマーソンのスコットランドでの講義を聞いたサミュエルス・マイルズがこれにヒントをえて、『セルフヘルプ』を書いたのだろう。

さて、今日書きたいのは、なぜ自己信頼がスピリチュアリズムにつながるのかという点である。多分、スピリチュアリズムを信じる人も、この点を納得していないと思う。最近、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を読んで、「ああそういうことか」と納得したので、ここに書いておこう。

 

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』には「優れた性格(=verture、徳のこと)と優れた知を得ることで、人間は幸福(エウダイモニア)になることができる」ということが書いてあり、ほぼ全文にわたってこのことについて説明している。ここでいう幸福とは一過性のものではなく、むしろ「豊かな人生」という意味である。

さて、スピリチュアリズムを信じる人に知ってもらいたいのは、この「エウダイモニア」、これは元々は、「よいダイモンと呼ばれる自分の守護霊(self-guardian spirit)に守られている」という意味だということである。よいダイモンと悪いダイモンがあるらしく、悪いダイモンの方がデーモン(悪魔)になったらしい。スピリチュアリズムを信じる人なら、「守護霊に守られていることと幸せな人生が同じ意味である」は、納得していただけると思う。なぜなら、スピリチュアリズムには、霊(sprit)の存在を信じることと共に、それを信じることで自分の人生が幸せに満ちたものになるというある種の確信があるからだ。

スピリチュアリズムを信じない人は、そんな守護霊なんか存在するのかと考えるかもしれない。しかし、ソクラテスは、何回も自分の守護霊(エウダイモニア)と会話をしていた。そういう文章が、クセノフォンやプラトンの本の中にでてくる。だから、ある種の人々には守護霊(エウダイモニア)が見えるのだと私は思う。

 

さて、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』では、最後の最後にアリストテレス自身が自説を変えてビックリする。最終章までは、ずっと、「優れた性格(venture、徳のこと)と優れた知を得ることで、人間は幸福な人生(エウダイモニア)を得ることができる」と書いてきた。

ところが最終章になって、「最高の幸福(エウダイモニア)は神の知(nous)を得て観想的な生活をすることにある」と上で書いたことを突然、変更する。ちゃぶ台返しされた感じで、ちょとびっくりする。私はこの部分だけ、後世の人が書き足したのかと思っていたがそうではなさそうだ。

ここでいうnousは「直観知」とか「神の知」と訳されている。私には、よくわからない。基本的には、人間が経験的に得た知識(フォニーシス、practical wisdom)でない、直観によって発見した、全く新しい知識だろうというのが私の考えだ。

この最終章は極めて変で、「人間は神にはなれない」「といって人間である我々は人間であるままでは神の知に近づけない」などと、神ということばが何度もでてくる。日本語の訳文では全く意味が通っていない。

最近BBC放送のIn our worldという放送を聞いていて、ここは次のように解釈できるということがわかった。「人間は神にはなれない、といって人間である我々は人間であるままでは神の知に近づけない、そこで第三のオプションとして、我々は人間であることを超越(transcendent)することで神の知をえることができる」この超越(transcendent)というのは超越主義として、まさにエマーソンが使ったことばである。

以上まとめると次のようになる。「我々は、守護霊と会話し、守護霊に守られていると感じることで、豊かな人生(エウダイモニア)を送ることができる。さらに、人間であることを超越(transcendent)し、観想的な生活を送り、神の知を得ることで、最高に豊かな人生を送ることができる」。

そして、人間であることを超越(transcendent)するために、たった、ひとつ重要なことが、「自己信頼(self-reliance)」だ、ということになる。これが、エマーソンの発見なのだろう。

最初に書いたエマーソンの文を再掲しておこう。

「今の自分の考えを信じなさい。自分にとっての真実は、他のすべての人にとっても真実なのだ、と信じなさい」

下條竜夫拝