隠語のクスリ(=覚醒剤・麻薬)が「薬」本来の正しい使い方である

4099 六城雅敦 投稿日:2014/05/23 12:37

人気歌手ASKAの覚醒剤事件報道でよく目につくと思いますが、週刊誌ではクスリというとあんまり良いニュアンスではありません。
薬と漢字で書けば処方箋が必要なものか大衆薬として薬局やドラッグストアで買えるものを指しますが、カタカナとなると一気に妖しげな代物(しろもの)の雰囲気があります。

ちなみにドラッグストアの商品でも「医薬品」「医薬部外品」「化粧品(雑貨)」と明確な区分があります。
「医薬品」と「医薬部外品」似たような容器で紛らわしいですが、医薬品は使用説明書がありますし、医薬部外品は外箱や容器に「医薬部外品」と表示されているはずです。

ところが英語で薬剤や薬を表わすDrug(ドラッグ)、Medicine(メヂスン)そしてPharmacy(パーマシィ)の語源はどれもにたりよったりなんです。

<h2>英語での語源はどれも麻薬や雑貨からきている</h2>

SNSI論文集「悪魔の用語辞典2 日本のタブー」から抜粋しておきます。(OXD:オクスフォードディクショナリー)

(貼付け始め:一部省略)
Drug、Chemical、MedicineそしてPharmacy
~クスリの大部分は疚(やま)しさで出来ています~

OXD Second Editionを開くと

【Drug】
1. オリジナルで単純かつ医学的な物質、有機物質、無機物質のこと。単体で用いられるか加工された物か、内服薬か薬剤などの区別はない。以前は化学・薬学・染色業、一般的技術用語としてフランス語で同様に広く使われていた。初期にはスパイスの類義語として使われていた。(14-19世紀)
2. 現在では無条件に麻薬、アヘン、幻覚剤を指す。接頭語や熟語として薬物乱用者、中毒者、中毒、依存・・・(19-20世紀)
3. もはや需要のないコモディティー(必需品)、そして価値はあるが、売ることができない物。(現在の市場で流通するドラッグ)(17-20世紀)
【Medicine】
1. 人間の治療、症状軽減、病気の予防、そして健康の回復と維持に関する知識と行為。現代の言葉に当てはめると、制限された意味で、医者の仕事の範囲の傍流。物質的な治療、ダイエットや習慣、コンディションの管理による人間の健康の回復と維持の手段。外科治療と産科とは区別される。(14~19世紀)
2. 病気の治療で使われるすべての物質や調合品。「a medicament(薬剤)」一般には「physic(薬剤)」現在では一般に内服薬のみを指す。(13~19世紀)
b.口語でパージング ポーション(一服飲み干す)(19世紀)
c.治療の方法またはプロセス(14世紀)
d.回復に有効な治療(14世紀)
e.14-15世紀ではキリストや聖母マリアへの祈願
f.薬を飲むこと(不愉快を受け入れるか耐える行為)。勉強すること。飲みにくさ、味など飲んだことによる不快を同じように味あわすこと。復讐、しっぺ返し(19~20世紀)
3. 治療目的以外の役目を薬に与えること。(例:賢者の石、万能薬、化粧品、毒薬、媚薬など)(15~17世紀)
4. 北米のインディアンでは万物、不思議な影響を備えていると想定されている儀式を表す言葉として使われている。スペル、魔除け、崇拝物(19~20世紀)
=マニトウ(超自然的神)
後の作家には、他の原始部族での類似した言葉の置き換えとして用いられている。口語や句「バッドメディスンは誰かか何かが不運か不吉である」
5. (俗語)酔わせる飲み物

(中略)

日本語で病気になった際に使われる「薬」は英単語でいくつあるかご存じだろうか。Pharmacy、Medicine、Drug、Remedy、Physic、Medicament、Agent、Prescription、これらは日本語ではすべて「薬」である。他にも形状から薬を意味する単語ではPowder、Pill、Potion、Ointment、Tablet、Capsule、Lotionなどが挙げられる。
逆に日本語ではクスリ、いわゆる医薬品としての薬は漢字一文字だけであり、その正確な定義もたった三行で定義されているだけに過ぎない。(薬事法冒頭より抜粋)
1. 日本薬局方(やっきょくほう)に掲載しているもの
2. 疾病の診断・治療に用いて、器具でない物
3. 身体の構造・機能に影響を与えることが目的で、器具でない物

株式相場の格言で「相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟する」
というものがあるが、クスリという意味のこれら英単語も時代の変遷に伴い、相場のような栄枯盛衰があるのである。
Medicine・Medicamentに続いてPharmacyという言葉が使われだしたのは業種として確立した近年以降というのが筆者の推測である。しかし後述するが、この業種・用語はまもなく変貌し、新たな単語が生まれてくるだろう。相場格言の通り、懐疑の中で育っている単語が次々と使われて始めているのだから。

(中略)
■ アスピリンから始まった製薬業
1897年(明治30年)に柳(やなぎ)の枝の成分をドイツのバイエル社が化学合成したことで初めて人工のクスリが誕生した。バイエル社はケミカル(Chemical)会社であるが、同時にクスリ(Pharmacy)という金鉱脈を発見したのである。アスピリン(アセチルサリチル酸メチル)は鎮痛剤・消炎剤として世界中に広まり、現在でも一番消費量の多い薬である。ちなみにアスピリンは高校の化学授業で作られる程度の簡単な化学物質である。
製薬会社が勃興したのはアスピリン発明の第一次世界大戦以降、特にペニシリンなどの抗生物質(抗菌剤)の発見で飛躍的に業界規模が拡大したのである。つまり製薬業とは大戦後に生まれた新しい業種なのである。
それでは日本語で言う「クスリ」はどのようにして「Pharmacy」へと変貌したのであろうか。おそらく18世紀まではDrugやMedicineが一般的であったろうとOxford Dictionaryの記述から推測している。Drugは染料や皮革のなめし薬、スパイス、一般的な薬品など広く用いられていた。Medicineは元々は病気治療の祈祷を指す言葉であった。ただし近代においてDrugは麻薬、Medicineは祈祷行為からインディアンの呪術へと変貌しており、医薬品にはふさわしくないと経営者は考えても不思議ではない。
18世紀まではChemicalも(生薬ではない無機質の)医薬品として使われていたにもかかわらず、なぜ20世紀ではChemicalが「クスリ」の意味を失ってしまったのだろうか。
推測すると、産業構造が大量生産へと移り、化学的処理、大量生産へのプロセスという意味が主になってしまったからであろう。つまりChemicalに含まれる大量生産=安価のイメージが嫌われたのである。1980年代からFine Chemical(ファインケミカル)という言葉をハイテク企業や半導体部品企業が用いたのがその証拠である。

■ Pharmacyは錬金術の最終結果
第一次大戦後アスピリンの世界的な普及を見た他の化学品メーカーも右に倣(なら)えで医薬品製造へ乗り出すのである。その際Chemicalでは商品イメージの差別化ができないためギリシャ語の精霊を語源とした「Pharmacy」を頻繁に使うようになったのであろうというのが筆者の推測である。
もっとうがった見方をすれば、DrugやChemicalをPharmacyと名付けた瞬間に「高付加価値商品」となったのである。Chemicalは錬金術から生まれた言葉であるが、まさに錬金術のごとく魔法のように富を産み出す言葉となったわけである。Drugはドラッグストアという単語があるが、日本で言う薬局ではない。ドラッグストアとは店内に炭酸飲料のバー(ソーダファウンテン)のある、ありふれた雑貨屋なのだ。DrugはOXDに記載されているとおり、いまでも取るに足らないもの、需要のないコモディティ(生活必需品)なのである。
Chemicalから派生したPharmacy(Pharmaceutical)が業種として認められたのが、ペニシリンを世界で初めて生産したアメリカのファイザーからであろう。元々は食品添加物、クエン酸の原料メーカーであった。
世界初の抗菌剤(抗生物質)は結核をはじめ死因のトップである感染症から人類を救う夢の薬であった。第二次世界大戦後は抗菌剤こそ夢の薬であり、複雑な化学合成物質こそ人類に役立つ究極の化学物質と盲信し、その発見と合成に化学業界・製薬業界が総じて猛進したのである。

■ 欧米人はクスリを必要悪と見ている?
一般的な英和辞書で「Drug」「Medicine」を引いてみると、どれも薬、薬品、薬剤としか載っていない。「Pharmacy」は薬の他に薬局・薬屋の意味もある。「Remedy」も治療薬といった意味で使われている。他にも【Physic】【Medicament】【Agent】などといった単語が和英辞典では挙げられている。
なぜこれほど同意語が多いのだろうか?
筆者が推測するに、medicine-manという単語はインディアンの祈祷師である。つまりmedicineにはオカルトチックな意味合いが強い。OXDにあるように元来は聖母マリアへの祈願であり、意味が転じて薬の苦さ(苦しみ)、しっぺ返しという意味が派生してしまった。
また近代ではDrugも取るに足らない雑貨から転じて麻薬にまで品位が落ちてしまった。

そのうちPharmacyも「一攫千金を夢見る行為」といった卑俗な言葉に落ちていくだろう。

このように欧米でのクスリに対する感覚は常に卑下したものであるようだ。
なぜなら欧米での医療階級では外科こそ花形であり、内科は下層だそうである。医者にも階層があり、医者の頂点は心臓外科医である。
海外での医療費は、ちょっとした問診でもとんでもない請求額になる。そのため発熱程度は市販薬や民間療法で治そうとするのが一般的だ。そのため基本的に医療といえば手術といった外科を示すのである。
そのためDrugをPharmacyやRemedyと言い換えたところで、所詮Drugに過ぎず、麻薬や呪術と大なり小なり変わらないという意識があるのだろう。そして巨万の富を稼ぐ製薬会社に対する反感意識とともにPharmacyという単語も古臭くなり、新たな単語が製薬業界で広められていくのであろう。10年前に流行った「ゲノム(Genom)」のように・・・。

(貼付け終り)

このように、英単語でクスリを示す単語はもともと染料や皮革のなめし薬、スパイス、病気治療の祈祷を指す言葉であったのです。

ですから、このように覚醒剤常習者の逮捕報道で見られるクスリは、本来のDragの意味です。

「医者から処方されたクスリを知る本」といったタイトルの本がかつてありましたが、疑問を抱く患者にとっては、「クスリ」が正しい。

「医者から処方された薬を知る本」では医学生が買う程度で売れそうにないタイトルです。

日本語の薬の定義は日本薬局方(やっきょくほう)で掲載されているもので、それに載っていないものは単なる化学品です。

「Drug」「Medicine」は日本語では「薬」であっても本来の「麻薬・いかがわしい」のイメージがつきまといますが、これが本当の意味です。ですから「ASKAがクスリで逮捕」という表現はDragを日本語で表わす苦肉の使い方であると思えます。