ビタミンでがんは治らない

「もう」 投稿日:2011/09/12 18:59

ビタミンEが癌の予防に有効とか、ビタミンCの大量投与で末期癌が寛解とか言う話しは以前からあり、これらが生体の維持や増殖に何らかの影響を及ぼし得る物質であることから少しは予防や治療に貢献することはあるかも知れませんが、ビタミンで癌が治ることはありません。ただ唯一の例外は急性前骨髄性白血病におけるビタミンA誘導体であるall-trans retinoic acidを用いた白血病細胞を分化誘導して成熟させて死滅させる分化誘導療法と呼ばれる治療です。これは科学的にも機序が解明されていて非常に有効な治療として世界で認知されて確立されています。

結核菌で癌を治すといったことも丸山ワクチンなどでも関連がありますが、私の専門とする膀胱癌治療では「BCG膀胱内注入療法」として機序もほぼ解明され、世界中で標準治療として確立されています(だからといって可能性はあるものの丸山ワクチンで癌が治るという証明はありません)。

広く第3者の評価に耐える効果的治療であれば、悪意を持って治療法を広めないとか、効果的な治療をつぶすということは医療界ではまずないと思います。本当に良いものならば、日本では認められなくても国外で認められて逆輸入されて標準になることもあります。逆に大して効果はないのに商業的理由?で使われているものはあります。おじいさん先生の厳しい指摘どおりです。

これらに関連して「西洋医学の限界と似非医療」について以前看護学校で講義した内容でブログにも紹介したものを以下に転載します。

(転載開始)

世の中には「がんが治る」とか「糖尿病が治る」などともっともらしく書かれた民間医療や生薬の広告が一流と考えられるメディアや新聞にも広告として載っています。こういったものが信用できるものかどうか、皆さんが相談を受けることもあると思います。所謂インチキ、似非医療と、信頼できる医療を見分ける最も確実な方法は西洋医学における「病気」「疾患」にはきちんとした定義があるのですから、その定義に従って具体的にどのようにその医療が効果があるか、説明されているか否かで見分ければ良いと考えます。

例えば「がん」というのは発生母体となる細胞にもよりますが、その病態の定義としては「無秩序な細胞の増殖」と定義付けられます。「がんに効く」と言うからには、秩序立った増殖になるのか(遺伝子治療など)、増殖自体が止まるのか(多くの抗がん剤)、増殖した細胞が無くなるのか(外科手術)でなければ「がんに効く」とは言えないはずです。その治療がどのように効いてがんが治るのか、「がん」という西洋医学の疾患定義を用いて「治る」と言うからには明らかにしないと「インチキ」と言われてもしかたがありません。

糖尿病はインスリンの分泌が低下するか(一型)、細胞のインスリン感受性が低下するか(二型)が疾患の定義なのですから、糖尿病が治るというからにはそのどちらなのかが明確でなければ似非医療と断言できます。

このように西洋医学の病名を用いる限り、定義づけられた病態に即した説明ができなければ単に「効果があることにしている」インチキと言えるのです。第3者が検証しようのない「治った人の体験談」しか載せられないものは明らかにインチキです。

所で西洋医学に対するものとして東洋医学というのがあります。東洋医学はしっかりとした学問体系がありますし、東洋医学における疾患の定義は東洋医学的に定められています。陰と陽であるとか、臓器の虚と実であるとか、私は詳しい所は解らないのですが、例えば女性の「冷え性」と言う病気は西洋医学では存在しません。そのような疾患定義がないのです。しかし東洋医学では疾患として存在して漢方薬で効果があるものが沢山あります。また「虚弱体質」といったものも同様です。だから西洋医学で「冷え性に効く」というものがあればそれは似非医療なのです。一方で漢方薬の成分でも科学的に分析をして西洋医学の病態生理にどのように効果があるかを検証した上で西洋医学の疾患に効くとされているものもあり、これは似非ではありません。

世の中で似非医療がはびこるのはなぜでしょうか。それはそれなりに需要があるからではないかと推察されます。前回話したように現代西洋医学は急性期疾患についてはかなり確実に「治る」ようになってきました。しかし慢性疾患は血圧を下げるとか、血糖値や脂質の値を正常化するとかの「所見を改善する」以上のことができず、根治はできません。そこで慢性疾患が高じて急性疾患が併発することを防ぐ「予防医療」に重点が置かれてきていると話しました。二千人が薬を2年間飲み続けると心筋梗塞が50人から25人に減ったといった予防医療です。つまり1975人にとってはその薬は何の恩恵もない医療になってしまっています。またがんの治療においても末期になってしまった患者さんは西洋医学的に効果的な治療ができないから見捨てられてしまったように感ずる場合も多くあるのが事実です。

西洋医学は疾患を臓器・細胞レベルで定義するので、患者さんにとって医者は患者さん個人を治しているのではなく、患者さんの臓器や細胞を治していると感ずることがあるのです。

がん末期の患者さんが「できるだけの治療をしてほしい」と訴えていることの多くはあれやこれやの薬を使ったり処置をしてくれ、と言う意味ではなく「患者を見捨てないで欲しい」という意味だと言われています。

看護学の教科書の初めに「看護とは患者さんに寄り添う事」とか、痛い部分に手を当てることが「手当て」の始まりである、ということが書かれていると思いますが、西洋医学で最もおろそかにされているのはこの看護の基本の考え方であり、似非医療がはびこるのも西洋医学が患者さんの願いを十分聞き入れていないことに原因があると反省しなければいけません。

我々医者が患者さんの手を百回握っても病院は一円も儲かりませんが、薬の処方せんを百枚書くと処方料や薬剤料が入って病院が大変儲かります。日本の診療報酬体系がそのようになってしまっているのでしかたがありませんが、我々も看護師になられる皆さんも西洋医学の限界と患者さんの希望というものを十分理解した上で仕事を進めていかないといけません。

   ―以上―

追記:似非医学を信奉している人達は我々西洋医学の医師が科学を信奉して、科学的に証明されない医学をインチキ呼ばわりしていることが気に入らないようです。「科学絶対、科学万能と思い込んでいる愚かな人達」と医師を見下している文を良く見かけます。医師は科学を万能とも思っていないし、西洋医学も絶対に正しいなどと考えてはいません。実臨床においては理論通りに行かないことが山ほどあります。しかし西洋医学的な手法で改善し命が助かっている実例が十分にあるのにそれを否定することほど馬鹿げたことはありません。解らない事、理屈通りでないことがあるから今後発展する余地があり、研究する意味があると考えます。まぐれ当たりであってもそれが理論的に解明されて正統な治療になったものもありますし、単なるまぐれ当たりで顧みられなくなったものも数多くあります。たまたま効いた(ように見えた)からこの治療は良いのだ、こんなに元気になった人がいるのにそれを認めないのは阿呆だ、というのでは何の説得力もありませんし、やはり似非医療でしかないのです。長文おつきあいありがとうございました。