プーチンにとって、3000億ドル(35兆円)の没収された外貨準備は「投資」(DS最高幹部に激烈な経済制裁をやらせるための「撒き餌(まきえ)」)ではなかったのか?
かたせ2号です。
表題の考えに私が至った経緯を、関連する記事を時系列に並べてそれに私のコメントをつける形で、述べていきます。
1.(最初の疑問)2022年3月13日
かたせ2号です。なぜ、ロシアは以下の情報を公にしたのでしょう?
朝日新聞サイトから。
記事名:ロシア財務相、制裁で「3千億ドル凍結された」 中ロ関係強化に期待
2022年3月14日配信
https://www.asahi.com/articles/ASQ3G75SMQ3GULFA01L.html
(一部引用開始)
ロシアのシルアノフ財務相は2022年3月13日、ロシアの中央銀行が保有する外貨準備と金のうち、約半分にあたる3千億ドル(約35兆4千億円)分が、米欧日などによる経済制裁で凍結されていると述べた。国営テレビでの発言として国営タス通信が伝えた。中国との協力拡大に期待する考えも示した。
米欧や日本の政府はロシアのウクライナ侵攻に対する制裁措置として、各国中銀などが預かるロシアの外貨準備を凍結している。
シルアノフ氏は国営テレビのインタビューで「保有する6400億ドル分のうち、約3千億ドル(約35兆4千億円)分が現在使えなくなっている」と述べた。人民元建ての資産もあるものの、その使用を制限するよう米欧が中国に圧力をかけているとの見方も示した。
(一部引用終わり)
かたせ2号です。
なぜこんな、自分たちの国(ロシア)が、西側世界の激烈な経済制裁でとんでもない窮状に陥りました、と世界中に伝える必要があるのだろう?
経済制裁後のこの日、ルーブル通貨の対ドルの価値は、経済制裁前に比べて42%も下落していました。
1米ドル= 76.73ルーブル(2022年2月1日)
1米ドル=132.10ルーブル(2022年3月13日)
こんな発表をすると、ルーブルの価値が暴落する危険性が高くなるばかりですから、普通、言わないでしょう? この情報を隠すと思いますよ。
この謎(なぞ)が消えずに、長く、かたせ2号の頭の中に残りました。
2.(これが理由かなと気づいた) 2022年3月27日
1. の発表の理由は、以下の記事内容の行動を諸外国に誘発させるためだったのではないかと、かたせ2号は考えました。
「ゴールド投資の記録」サイトから。
記事名:ロシアの金準備も標的「制裁逃れ」阻止へ
2022年3月27日
http://goldcollector.blog.fc2.com/blog-date-20220327.html
(引用開始)
G7とEUは2022年3月24日、ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁として、ロシア中央銀行が保有する金準備に関連した取引を禁止すると表明しました。
時事通信のサイト記事。
記事名:ロシアの金準備も標的「制裁逃れ」阻止へ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022032500819&g=int
先日実施した外貨準備の凍結と違い「取引の禁止」。なぜならロシアは金準備の殆どをロシア国内に保管しているからです。効果の程はさておき、今回の米国を中心とした西側諸国の措置というのは、G7・EU以外の国々の「西側システムに対する深刻な不信」を惹起することになったと思います。米国に従属出来なければ、意に沿わなければ外貨準備を凍結されるし外貨送金を禁止される。外国と貿易出来なくなる。そういう酷い目に遭わされる様を見せ付けられた。つまり西側システムに依存している限り、生殺与奪の権利を相手に委ねていることになる。そういった恣意的な運用をされることを懸念していたからこそ、中露はSWIFTとは別の外国送金システムを整えたのだし、金準備を国外に預けず国内保管としたのだと思います。もしロシアの金準備がニューヨークやロンドンに預けられていたら、最初に凍結の対象とされていたことは疑いありません。これを見て他国はSWIFTだけじゃなく、保険として中国のCIPSにも接続しておこうと考えませんか?あるいはゴールドを米国に預けておこうと思いますか?引き出して自国で保管しておこうと考えませんか?
(引用終わり)
かたせ2号です。
上のような行動を諸外国がとるようになるためには、1.の発表は十分すぎるほどの動機付けになったでしょう。35兆円を没収ですから。
一方で、上の記事にある通り、
「先日実施した外貨準備の凍結と違い、金準備の「取引の禁止」。なぜならロシアは金準備の殆どをロシア国内に保管しているからです。」
プーチンは外貨準備と金準備の取り扱いを明らかに区別していますね。
それでは、なぜ、外貨準備(70兆円近く)をウクライナ開戦後も西側諸国に預けたままにしていたのでしょう?
金準備と同様にロシア国内での保管(移し替え)、あるいは、あらかじめルーブル通貨と交換しておくと言った手段を用いなかったのでしょうか?
これについても、新たな疑問として、かたせ2号の頭の中に残りました。
3. 2022年3月31日
プーチンが、ドルの信認が低下したと声明を発表しました。
ロイター通信のサイトから。
記事名:ロシア、ガス以外もルーブル決済要求へ ドルの「信認低下」主張
2022年4月4日配信
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-kremlin-rouble-idJPKCN2LV0KU
(引用開始)(下線部はかたせ2号が引いた)
ロシア大統領府は、天然ガス以外の主要な輸出品も自国通貨ルーブルでの代金支払いを求めることになるとの見通しを示した。西側諸国によるロシア資産の凍結は、ドルとユーロの信認低下につながったと主張した。
プーチン大統領は2022年3月31日、ロシア産天然ガスを購入する場合にルーブルでの支払いを義務付ける大統領令に署名し、支払わない場合は供給を停止すると表明した。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は国営テレビ「第1チャンネル」に対し、ガス代金のルーブルでの支払いは「プロトタイプ」で、「新たな商品群に今後、対象が拡大されると確信している」と述べた。時期には触れなかった。
ロシアは、西側諸国が1944年に導入を決定したブレトンウッズ体制に代わる新たな体制を求めていると説明。「現時点ではまだ先の話だとしても、ブレトンウッズ体制とは異なる新たな体制に代わることは明白だ」と語った。
中銀の3000億ドルの資産凍結という欧米の制裁は「強盗」だと批判し、対ロシア制裁によって「ドルとユーロの信認低下が加速した」と主張した。
(引用終わり)
かたせ2号です。
プーチンが上記下線部の主張をしました。35兆円も損させられたのですから、この主張はたとえようもないほどの説得力を持っています。この主張は世界中の国々が認めることとなりました(西側世界では一切報道されませんでしたが)。
ここまでいろいろ考えたのですが、ここに至って、
「世界中の国々のドル・ユーロ建て外貨準備への信認を低下させる目的で、ロシア保有の外貨準備が、西側諸国に激烈な経済制裁を行わせるための撒き餌(まきえ)として用意されていたのではないか?」とかたせ2号が考えるに至りました。
だから、1.で述べた、通常では考えられないタイミングで、ロシアは35兆円も損をさせられたと世界に報告をしたのです。それ以外の理由が見つかりません。
このとき、プーチンは「投資」をしたのです。
ここで、参考として、日本電産創業者、永守重信の著書
「永守流 経営とお金の原則」(日本経済新聞出版、2022年1月初版)
から引用します。
(引用開始、P.142)
「リスクテイクと投機を見極める」
大規模な投資が経営に致命的な打撃にならないように、しっかりと原則を決めておく必要がある。私の場合は次のように考えている。
経営にはリスクはつきものである、成長に向けて必要なリスクはとる。ただし、最悪の事態になった場合は、どのくらいの損失になるのか、財務にはどのくらいの影響が出るのか、それらをきちんと事前に計算し、把握しておく。そのうえでリスクテイクをするのである。
一方で最悪の場合の損失、財務への影響がまったく読めない、計算できない場合、そういう投資案件には決して近づかない。それは「投機」だからである。この経営判断としてのリスクをとった投資と、投機とを分ける必要がある。
(引用終わり、P.142)
かたせ2号です。プーチンは、巨額の「投資」をこのときしたのだと思います。
それを裏書きするように、ロシアはルーブルと金現物とを紐づけおり、その結果、ルーブルの通貨価値は制裁前の段階の数値にまで戻りました。これは、ロシア国内に金現物を保有したからできたことです。
外貨準備を西側諸国に預けっぱなしにしたのにも、金現物をロシア国内に大量に保管しておいたのも、ともに意味があったのだと私は思います。ドルもユーロもいずれ価値を暴落させるつもりだから、いまだ値打ちのあるうちに、DSへの撒き餌として使ったのでしょう。
見事なものです。
4.2022年4月5日
DSは、西側諸国の経済制裁によってロシアに打撃を与えた成果を誇示しました。
35兆円の凍結額が40兆円へと更に膨らんだことを強調して。
BBCのサイトから。
記事名:プーチン氏の軍事資金、制裁で「6割超を凍結」=トラス英外相
2022年4月6日
https://www.bbc.com/japanese/61005731
(一部引用開始)
イギリスのリズ・トラス外相は2022年4月5日、ウクライナに侵攻しているロシアのウラジーミル・プーチン大統領の軍事資金の6割以上を、制裁措置によって凍結したと述べた。その上で、さらなる対応が必要だとした。
トラス氏は、これまでの「壊滅的な打撃を与える」制裁によって、ロシア経済は「ソヴィエト時代に」逆戻りしていると述べた。
同氏によると、ロシアの外貨準備高6040億ドル(約74兆円)のうち、3500億ドル(約40兆円)以上が利用できない状態になっているという。
(一部引用終わり)
かたせ2号です。
私はここで、宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」を思い出します。
食べる側のつもりで料理店に入った客が、実は、食べられる側に回ったという話。
DSは、長い歴史の中ではじめて、「食べられる側」に回る経験をしたのではないでしょうか?
ただし、まだ、この時点では、そのことに気づいていないようです。
まあ普通は、40兆円が自分たちへの撒き餌として使われたのでは?という発想は出て来ないでしょうから。
5. 2022年4月23日
ニューヨーク・タイムズが、西側諸国のロシアへの激烈な経済制裁が逆効果であるとの認識を示しました。
藤原直哉さんのツイッターから。
https://twitter.com/naoyafujiwara/status/1517985155331231744
(引用開始)
ロシア・プラウダサイトの記事から。
記事名:ニューヨーク・タイムズ紙:制裁はプーチンの評価を上げ、ロシア人を一つにしたに過ぎない
2022年4月23日配信
https://pravda.ru/news/society/1701759-sankcii_na_polzu/
以下、本文:ロシアに対する制裁は、ウラジーミル・プーチンに対する大規模な抗議行動を引き起こすことを意図していたが、ロシア人は大統領に対する支持を得ただけだと、The New York Timesは述べている。
ドンバスでロシア軍による特殊作戦が開始された後、欧米はロシアに対して前例のないほどの制裁を課している。ワシントンやブリュッセルは、ロシア市民を動揺させ、怒らせることで、人々がクレムリンの政策に反旗を翻すことを狙ったのだ。
米国の出版社『ニューヨーク・タイムズ』の論説委員は、その効果が正反対であったことを認めている。
「制裁は支配者への反抗を促すどころか、国旗の周りに結集させる効果をもたらした」と指摘する。
ロシアは国際準備を奪われ、国際銀行から一部切り離され、在外ロシア人の財産は凍結された。
しかし、ロシアは世界の中で除け者になっているわけではなく、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ、中国など多くの国から支持されているのです。
大多数のロシア人は、欧米が制裁で「ロシアの弱体化と屈辱化」を図ろうとしていると考えており、困難な時代に耐えうるリーダーを中心に結集する時期に来ているのです。
(引用終わり)
かたせ2号です。
DSも、この経済戦の局面において、自分たちはロシアから罠にかけられたのではないか、と、最近になって薄々気づいたかもしれませんね。もう遅いけど。
6.最後に
最後に、田中宇さんのサイトの記事を引用します。田中宇さんは、「世界を一つの経済システムで統合していた米国覇権は、世界の8分の1だけを統括する小さな体制に成り下がった。」と述べています。これが、今回のウクライナでの戦争をきっかけに起きた経済戦の、一番大きなスケールでの帰結になったと、かたせ2号は考えます。
「田中宇の国際ニュース解説」サイトから。
記事名:米欧との経済対決に負けない中露
2022年4月17日配信
https://tanakanews.com/
(引用開始)(有料記事のため、公開されている文面のみを引用)
ロシアがウクライナで戦争を始めたことにより、世界は、ロシアを徹底的に敵視・制裁する米国側と、ロシアと付き合い続ける非米側に二分された。ロシアを敵視したくない国々は米覇権システムに頼れなくなって非米側に入る傾向だ。世界の79億人のうち、米国側は10億人ほどで、残りの70億人近くは非米側に入る。世界を一つの経済システムで統合していた米国覇権は、世界の8分の1だけを統括する小さな体制に成り下がった。
(引用終わり)
以上