リバータリアニズムの考え方は転換する時期なのか

ヒガシ(2907) 投稿日:2013/10/06 16:13

「経済政策の射程と限界(神保・宮台マル激トーク・オン・デマンドVol.10)」
神保 哲生 (著), 宮台 真司 (著), 高橋 洋一 (著), 野口 悠紀雄 (著), 北野 一 (著), 浜 矩子 (著), 小幡 績 (著), 萱野 稔人 (著)
(2013年6月10日初版第一刷発行)
という本を読みました。

重たい掲示板[1309]株式と国債の暴落が始まって、「アベノミクス、あるいは、アホノミクスのおわり」となりました。バカ騒ぎの半年間でした。
投稿者:副島隆彦 投稿日:2013-06-06
で、先生が褒め称えていた経済学者たちが出ていたからです。

(アマゾンによる内容紹介は以下の通り)
日本社会には、アベノミクスでは越えられない根深い問題がある。

「復活」と「破綻」――アベノミクス論争はなぜ両極に分かれるのか?
代表的な論客をゲストに、神保哲生(ビデオジャーナリスト)、
宮台真司(社会学者)、萱野稔人(哲学者)が討論を重ねる。
賛否両論がゼロからわかると同時に、経済論争からこぼれ落ちた
「社会」「価値」といった視点を提示する1冊。

◆金融緩和批判にゼロから答えよう 高橋洋一
◆インフレ目標は隠れ蓑。真の目的はバラ撒き 野口悠紀雄
◆本当の問題は株式市場の”金利”暴騰だ 北野一
◆アベノミクスは古臭い”浦島太郎の経済学” 浜矩子
◆救世主願望としてのアベノミクス 小幡績
◆経済が回って社会が回らないという事態 神保×宮台
(内容紹介終了)

このアベノミクス批判者の中では、浜矩子氏の考え方に魅かれました。
経済成長という考え方自体が古いという主張に同意できるからです。

そこで、「経済成長って、本当に必要なの?」
ジョン・デ・グラーフ(著), デイヴィッド・K・バトカー(著)
(2013年5月10日初版印刷)
という本も読みました。

(アマゾンによる内容紹介は以下の通り)
枝廣淳子氏(環境ジャーナリスト、幸せ経済社会研究所所長)絶賛!
「なぜ幸せな国は幸せで、不幸な社会は不幸なのか?――その構造がわかる。政治家・経営者・次世代、すべての人にとっての必読書!」

平川克美氏(株式会社リナックスカフェ代表取締役)推奨!
「アメリカが自らの病に気付きはじめているとき、日本はその病にすすんで罹ろうとしている。本書には超大国の病理の全てが書かれている」

「経済成長=幸せ」ですか?

これからの時代、いままでのように経済成長を追い求めるだけで、私たちは本当に幸せになれるのだろうか? 貧富の差の拡大、長時間労働、物質的には豊かでも精神的には満たされない暮らし、金融危機、環境破壊など、経済成長だけでは解決できない難問が、社会には山積している。

いまこそ、GDPを上げるのみの成長至上主義には別れを告げ、「人間の顔をした資本主義」を目指すべきではないだろうか? 国民総幸福量(GNH)の導入、持続可能な発展の模索、ワーク・ライフ・バランスの見直し、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の確保など、新しい社会を求める胎動は、あちこちで始まっている。

経済の本来の目的は、「最大幸福を、最大多数に、できるだけ長期にわたってもたらすこと」。そこから導かれる真に豊かで持続可能な社会を創るための実践的処方箋は、ポスト3・11時代を考える上でも示唆に富む。ドキュメンタリー監督と経済学者が贈る21世紀型経済論。
(内容紹介終了)

この「経済成長って、本当に必要なの?」という本の中には、アイン・ランドについて言及がありました。

(引用開始)P196~199

「最大多数に最大幸福をもたらす」ためには、全体としてかなり大規模な公的支給と社会保険が必要になる。つまり、富を富裕層から貧しい層に動かす方法が必要だ。だがこういう富の再配分という考え方は、人々に深く根づいた信念に対する挑戦となる。保守主義者が賞賛する「自己責任」という価値観は、アメリカ人に共鳴するものがあるからだ。そのため、社会的セーフティネットを拡大して経済的安定を高めようとする動きは、この原理的イデオロギーの壁に妨げられている。
 こういう価値観は、その知的ルーツをアイン・ランドの書物の中に見ることができる。ランドは辛酸をなめたロシアの作家で、アメリカに移住した。彼女は、ベストセラーとなった小説『肩をすくめるアトラス』の主人公、起業家ジョン・ゴールトに象徴されるような、創造性に富み、生産的で、野心のあるほんの一握りの人たちだけが、実際に世の中の素晴らしいことを可能にできると主張した。一方でほとんどの人たち、とりわけ賃金労働者たちは、ジョン・ゴールトのような自力でのし上がった人間たちが仕事を創出してくれるおかげで、職を得て生き延びられるのだという。ジョン・ゴールトのような人間は賞賛されるべきであって、税を課せられるべきではないというのが彼女の見解だ。雇用を創出する人たちが税金の負担に反発して仕事をすることを止めてしまったら、大衆は飢えるだろうという。
 ジョンは一九七〇年代に『肩をすくめるアトラス』を読んだが、ひどく冷たく心ない小説だという印象だった。登場人物には命が通っておらず、知的にも空疎だと思った。しかし多くの人はそう感じなかったようだ。ジョンがジョージア工科大学で講演した時に、一人の保守派の学生から意義を唱えられたのだが、その学生の短い言葉に、ランドの価値観が凝縮されているように思った。学生はこう言った。「つまり先生の意見は、生産的な人から金を取り上げて、非生産的な人間にやるということですか」言いかえれば学生は、ジョン・ゴールトから金を取り上げて、どこかのなまけ者にくれてやるのかと言いたいわけだ。
(中略)
頭でっかちのランド流の考えでは、市場で人が稼ぐ金だけが本当に「価値のある」もので、それは彼ら自身の努力のみで生みだされたものだとする。だからそういう人たちに税金をかけることは彼らの財産を奪うことだというわけだ。彼らの努力だけが世界をよくしていると思っている。ランド派は、政府の規制緩和ではなく、社会保障政策が、この度の経済危機を招いた原因だという。何もかも市場のなすがままに任せておいたらよかったのだと彼らは主張する。
この主張の問題点はまず、人は誰ひとり完全に自立して生きていけないということだ。ウォーレン・バフェットも、自分がもしバングラデシュに生まれていたら、億万長者にはなっていなかっただろうと言っている。それに、市場に逆らわないでさえいれば、何事もうまくいくなどという主張は、完全に理論上のものであり、その正誤を実証することができない。一九六〇年代から七〇年代にかけて急進派の連中が、ソビエトに対する批判を退けて、「ソビエトは本物の社会主義じゃない。本物の社会主義なら、あんな問題は起きないのだ」と言っていたのと同じだ。当時の保守派の評論家がそれに反論して「われわれが真に判断できるのは、現実の社会主義だけであり、その現実の社会主義は失敗だった」と言ったのは的を射ている。
今やランド流の考え方を転換するときだ。わが国はすでに三〇年間も実際に、減税、規制緩和、政策の民営化を行ってきた。しかし明らかに、他の国に比べ、公平さ、安全性、満足度が減り、借金やストレスが増え、より不健康になり、レーガンが大統領に就任した当時に比べ、幸福度も低下した。
この三〇年間、国民は何とか月並みな暮らしを求めてやってきたが、生活の不安は増すばかりだ。政府が金融界の規制緩和を続けた結果、ついに二〇〇八年の秋、「自己責任」という価値観は破綻した。そして何百万人もの生活の基盤が失われたのである。

(引用終了)

それから同書に、グリーンスパンが、アイン・ランドの信奉者であるとの記載があります。スパンは、デリバティブ規正計画を発表したブルックスリー・ボーン(優秀な法律家で商品先物取引委員会委員長であった)に、この計画を破棄するよう要求しました。
その結果ボーンの計画は却下され、1998年ボーンは辞任しました。ボーンは2008年の大暴落の予言者だったというエピソードも書かれています。
(同書P308~310)

私は、副島先生の「リバータリアニズム入門」を持っていて、部分的に読みましたが、まだしっかり読んでおらず、アイン・ランドの本もまだ読んでいません。ですからバータリアニズムに関して詳しくないですし、今のところ批判するつもりはありません。
しかし、上記引用を読むと、『肩をすくめるアトラス』は、リバータリアニズムの負の側面を象徴する内容なのだろうと思いますし、少なくとも、そうとらえるアメリカ人がいるのだとわかりました。

重たい掲示板[1394]強欲な0.01%が引き起こす米議会の対立 (目くらましとしてリバータリアンを悪者に仕立てるメディア) 投稿者:六城 雅敦 投稿日:2013-10-05
にもリバータリアニズムに対するアメリカ人の考え方が垣間見えますね。

同書「経済成長って、本当に必要なの?」では、ノルウェーを含め特に北欧諸国は、高福祉で税金は高くても社会保障が充実し、労働時間は少なく、手取り賃金は少なくない。よって幸福度が高い国とされています。その割に、経済的競争力は、長時間労働で働きすぎのアメリカに比べて低くはないし、もちろん貧富の差も少ないということです。

ところが、ちょうど同書を読み終えたころ、9月11日の日経新聞を見ると、
「ノルウェー、政権交代 成長維持へ減税・民営化」という下記の記事がありました。

(日経新聞WEB刊から転載開始)
ノルウェー、経済成長持続へ減税・民営化 政権交代 2013/9/10 23:32
【オスロ=上杉素直】9日の議会選挙で8年ぶりの政権交代を果たしたノルウェーの中道右派陣営は、減税や民営化を軸とする次期政権の政策協議を本格化する。先進国の中では好調な経済の成長持続を目指す。石油収入を原資にした世界最大の政府系基金の分割論議にも着手する。最大与党になる保守党のエルナ・ソルベルグ党首(52)が同国で17年ぶり2人目の女性首相に就く方向だ。

 ソルベルグ氏は9日、「12年間変わらないか、新しい理念と新しい解決策を持った新しい政府か、という選択だった」と力を込めた。2013年も2%台の堅実な成長を維持すると予想されるノルウェー。現政権は8年間の経済運営の実績を訴えたが、国民には飽きもあり、変化を訴えた野党4党が圧勝した。

 保守党や連立相手候補の進歩党が選挙戦で訴えてきたのは、緩やかな自由化路線だ。高福祉の北欧では一般的に重い富裕層の税負担見直しは典型。病院運営に民間企業の参入を促す規制緩和も打ち出した。社会民主主義の全面転換とまではいかないが、部分修正で民間活力を重視する。

 残高7600億ドル(約76兆円)を誇る世界最大の政府系基金をめぐる議論も流れは同じ。中道右派陣営には、現在は総額の4%と決められている国家予算への繰り入れを柔軟にしたいという主張がある。基金を分割して競争原理を持ち込んだり、投資対象を広げたりする構想も出ている。

 保守党幹部は専門家の意見を聞いた上で今後、基金の形態や投資方針を変更するかどうか最終決断する構え。ノルウェーの金融界は「当面は大幅な変更は無さそうだ」(大手銀行ストラテジスト)とみている。ただ、ノルウェーの政府系基金は計算上、世界のすべての上場企業株の1%以上を保有するという巨大な存在だけに、新政権の議論が金融市場に影響を与える可能性がある。

 10月予定の新政権発足に向けて、与党第1党のソルベルグ氏が首相、第2党進歩党のシーブ・イェンセン党首(44)が財務相にそれぞれ就き、女性指導者が枢要2ポストを占める案が有力だと伝わる。ソルベルグ氏が2000年代の自治相時代の手法から「鉄のエルナ」と呼ばれるなど両氏ともに豪腕で鳴らしている。女性コンビの経済運営のかじ取りが注目される。

(転載終了)

この記事で、またしてもアメリカ型自由主義、競争社会の導入かと思いました。
特に「残高7600億ドル(約76兆円)を誇る世界最大の政府系基金をめぐる議論」があり、「基金を分割して競争原理を持ち込んだり、投資対象を広げたりする構想も出ている」という部分にはぞっとします。
日本の郵政民営化のように、アメリカがこの巨大な(国民から集めた)資金をねらっているに違いないでしょう。
重たい掲示板[1384]消費税の値上げは、オリンピックとの抱き合わせ増税だ。すべてアメリカの計画通り。 投稿者:副島隆彦 投稿日:2013-10-01
に、「帝国の逆襲」戦略の、世界中での動きがあるという旨が書かれていますが、
ノルウェーの動きもその一環ではないかと思いました。