「2036」 副島隆彦・孫崎享著『世界が破壊される前に日本に何ができるか』が発売 2023年1月24日

 SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。今日は2023年1月24日(火)です

 2023年1月28日に副島隆彦・孫崎享(まごさきうける)著『世界が破壊される前に日本に何ができるか』(徳間書店)が発売されます。

世界が破壊される前に日本に何ができるか

 対談者の孫崎享(まごさきうける)氏は、ウズベキスタン駐箚(ちゅうとう)特命全権大使、外務省国際情報局局長、イラン駐箚特命全権大使など要職を歴任したエリート外交官です。著書『戦後史の正体』『アメリカに潰された政治家たち』がよく知られています。

 また、2013年10月には、副島隆彦の学問道場主催定例会にゲストとして登壇していただきました。その様子はDVD『外務省の正体』(収録日:2013年10月26日 収録時間:約227分 商品番号:V-38)に収録されており今も、学問道場で販売されてます。

定例会の様子
※DVDのご注文は以下のアドレスからお願いいたします(会員の方はログイン[今日のぼやき会員ページを読める状態]してご注文下さい)↓
https://www.snsi.jp/shops/index#dvd

 以下に、はじめに、目次、おわりを貼り付けます。是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

        はじめに     副島隆彦

 孫崎享氏は偉い人なのだ

 この本は、外務省の高官(国際情報局長)であった孫崎享(まごさきうける)氏と私の初めての対談本である。内容の中心は、最新のウクライナ戦争の分析と、日本外交の真実を孫崎大使に語っていただいたことである。

 大使(アンバサダー)という言葉は、元々ヨーロッパで、国王(王様)のお友達という意味だ。大使が手袋を脱(ぬ)いでテーブルに叩(たた)きつけたら、戦争の開戦の合図となる。日本でも、大使は天皇の勅任官(ちょくにんかん)であって、ひとりひとりが外国に対して日本を代表する。一度でも大使になった人は一生、大使(アンバサダー)を公称できる。
 しかし日本にはこの習慣はないので、私は孫崎氏(し)と呼ぶ。それでも本書の中で、私は時々、孫崎大使と呼んでいる。孫崎氏は私より10歳上である。

 孫崎氏は本当は偉い人なのだ。その偉さを日本人は誰も理解しない。何が偉いのかと言うと、私は氏のご自宅で対談していて、驚いた事実がある。

 孫崎氏が外務省に入って(1966年、23歳)、すぐにイギリス陸軍の言語情報(げんごじょうほう)学校(アーミー・スクール・オブ・エデュケイション)に派遣された。この学校は、どう考えてもイギリスの高級な国家情報部員(国家スパイ)の養成学校である。私はここはイギリス陸軍大学の一部だと思う。

 孫崎氏は、この言語情報学校(敵国の言語であるロシア語を教える)で、13人の同期生と学んだ。その中に、ケント公 Duke(デューク) of(オブ) Kent(ケント)(プリンス・マイケル・オブ・ケント)がいたと言った。
 その他、風変わりなイギリス貴族たちが、孫崎氏のご学友である。その中のひとりの変人は、のちに東京に来た時、孫崎氏の御自宅に泊まったそうだ(P220)。この人物は英国家情報部M(エム)I(アイ)6(シックス)の副長官になった。副長官が実質の長官だ。

 もうひとりの変人は、2003年からのイラク戦争(War in Iraq)で、WMD(ダヴリュー・エム・ディー 大量破壊兵器。核と生物兵器)がイラクで見つからなかったことで、アメリカ政府(子ブッシュ政権)が追い詰められた時の主導者である。これ程(ほど)の人物でなければ、アメリカ政府を揺さぶることはできない。

 イギリス貴族かつ高官の中の、” 正義の変人たち ”は、これぐらいの奇妙な人々である。アメリカが大嫌いなのだ。それでもイギリス支配階級の中で堂々と生きている。孫崎氏が、日本国内で変人外交官扱いされるのは、これ程の高貴な精神をイギリスで叩き込まれ、涵養(かんよう)して来たからである。孫崎氏の反米(はんべい)精神の神髄はここで育(はぐく)まれた。

 孫崎氏は、日本の言論界で、今では ✖陰謀論者(コンスピラシー・セオリスト)扱いされていると、私は聞いている。私が、「孫崎先生は、外務省で対米自立派(アメリカの言いなりにならない人たち)、即(すなわ)ち、冷(ひ)や飯(めし)喰(ぐ)いですよね」と言ったら、孫崎氏は否定もせず、同意する様子だった。こんな失礼なことを、これまで面と向かって言われたことがないのだ。

 本当は、自分たち対米自立派(アジア重視派)が、ずっと外務省の主流であって、アメリカにヘコヘコする対米追随(ついずい)派よりも、ずっと誉(ほまれ)高いのだ、という強い信念をお持ちである。

 孫崎大使が所属している、アメリカ何するものぞ、の対米自主派の重厚な伝統は、本書第4章P182以下で出てくる坂本重太郎(さかもとじゅうたろう)や谷野作太郎(たにのさくたろう)の連綿(れんめん)と続く。日本外務省の内部の激しい苦闘の歴史である。孫崎氏はこの考えを深く受け継いでいる。

 本書の第4章で、戦後の日本外務省の大きな骨格を初めて外側に明らかにした。大変重要である。

 前述したケント公(爵)と付き合いができる日本人は希有(けう)の存在である。
 ヨーク公アンドリュー王子(故エリザベス2世の次男。少女売春で悪評判)や、エセックス公ヘンリー(ハリー)王子(アメリカ黒人のメーガン・マークルと結婚して王室から追放)と、グロスター公くらいしか英に公爵(デューク)はいないのだ、ということを日本人は知識層でも知らない。

 ケント公爵というのは、日本で言えば、今も続く徳川公爵家( 尾張名古屋で徳川氏の宗家(そうけ) )のような人なのだ。または近衛家(このえけ)を筆頭とする藤原摂関(せっかん)家.
あるいは、水戸光圀(みとみつくに。黄門(こうもん)さま。三代将軍家光(いえみつ)の従兄弟(いとこ))のような立場の高貴な人なのだ。だから「下臈(げろう)ども、下がりおろう」というような人だ。今でも英連邦(コモンウェルス。旧大英帝国の国々。カナダ、オーストラリア、インドも含む)では、ケント公と聞いただけでビックリされ、英国王の叔父として畏(おそ)れられる。それ以外にも、理由はたくさん有る。

 今の日本は、天皇家(皇室)以外はアメリカによって消滅させられたので、私たちは貴族を実感で分からなくなった。

 なぜ、孫崎氏が風変わりな外交官で変人扱いされているのに、本人が全く気にしない理由を私は、この時、ハッと分かった。日本外務省の権威なんか、はるかに超えている人なのだ。

 孫崎氏は、日本外務省が最優秀の日本の人材として、イギリスに送り込んで、最高級の国家スパイとして育てられた特別な人材だ。たかがアメリカの子分になり、アメリカの手先をやっている日本人学者や、ジャーナリストであるお前たちなんかとは、格(クラス)がちがうのだ。

 イギリス貴族は、その長い歴史から、アメリカを見下(みくだ)す。
この精神が孫崎氏に深く、びっしりと転移している。孫崎氏の言論は、外務省を離れて解き放された。そして、ただひらすら日本国民に帰依(きえ)すると決めた。

 孫崎氏のこの複雑な経緯(けいい)と心理は、特異なイギリス仕込(じこ)みの国家スパイ教育を受けたことからにじみ出ていると私は分かった。孫崎氏の言論を軽くみて、ケナしている程度の者たちなど、氏は高見(たかみ)から嗤(わら)い蹴散(けち)らしてしまう。

 本書中の孫崎氏の発言には、全く表面的な過激さはない。読者は飽(あ)きてしまうだろう。だが、氏の発するコトバには、日本国を背負って外交の現場で、その国家機密の中を、長年泳いで来た人間としての重みがある。

 本書P149で、中国を代表する学者の発言が出てくる。ここに出演する各団の代表は、おそらく、孫崎氏と同じような各国の、上に突き抜けた変人学者たちであろう。このレベルになると、それこそ何を言ってもいい。自国政府の見解や態度と異なっても構わない。それ程の論客たちであるようだ。

 その日本代表が、まさしく孫崎氏なのである。だから孫崎氏が、世界政治言論の中に選ばれている独特の地位を、私たちは知るべきなのである。

 中国を代表する学者が言った。「日本は(中国とアメリカの)どっちに付くんだ」という激しい直截(ちょくせつ)の問い詰めをした。国内の言論人である私たちは、こんな厳しい質問を突きつけられたら、まともに答えることはできない。ヘラヘラと言(げん)を左右にするしかない。

 中国は、アメリカと決定的に対決すると決めたようである。アメリカとの戦争までも準備している。そのために習近平の独裁に近い体制づくりをした。中国共産党第20回大会(20大(だい))の翌日、2022年10月23日に決まった7人の新指導部「チャイナ・セブン」の強い決断である。まず金融と経済(貿易)面で、アメリカからどれだけ痛めつけられても中国は、もう後(うし)ろに退(ひ)かない。

 私たち日本人は、まだ甘い考えをしている。私は孫崎氏のさりげない言葉から、世界の最先端の大きな動きを、私は悟った。

 孫崎氏が、ここで日本を代表する外交官の言論人として世界と立ち向かっている。このことを私たちは知るべきだ。世界水準にある人物たちは、それぞれの国がもつ限界を上(うわ)離(ば)なれることで、初めて最高水準の人間たちの交(まじわ)りとなる。この水準に到達した有資格者はなかなかいない。

 たかが、アメリカの手先、子分をやっている分際(ぶんざい)で、孫崎氏を見下せると思うな。
 外務省には大使をやった高官たちが山ほどいるだろうが、みんな御身(おんみ)大事で、大勢に抗(あらが)うことをせず、停年後の自分の生活の利得(りとく)をかき集めることに窮々(きゅうきゅう)とする。

 本書の一番重要な問題である、プーチンは果たして核兵器を本当に使うか、の問題に関して、私は孫崎氏に率直にぶつけた。
「孫崎先生。私は、もうあまりに西側(欧米勢力)が、ヒドい謀略(ブチャの虐殺の捏造(ねつぞう)とか)をロシアに仕掛けるので、怒(いか)りました。
 もういい。プーチン、核兵器を以下の4つに射ってくれ、と書きました。
人類の諸悪(しょあく)の根源である①ローマ・カトリック教会の総本山のヴァチカンに1発。 ②イギリス国教会(アングリカン・チャーチ)の総本山のウェストミンスター大聖堂(カテドラル)(その裏側が英議会=ビッグベン )。 ③ オランダのハーグにある国際司法・刑事両裁判所に1発(ここは戦術核=タクティカル・ニュークレア・ウエポン でいい)。そして4つめが、④ニューヨークだ。この4発をプーチン射ってくれ、とまで言ってるのです 」と、私は言った。

 私はここで無視されるか、呆(あき)れられ、あまりの非常識を非難されると思った。
 ところが。孫崎氏は何と、「それでいいんですよ、それで。副島さんがプーチンに命令して、核を射てと言ったのですから。それでいいんですよ」と言ってくれた。どうも、それはお前の意見で、主張だから、勝手に自由に言っていい。お前は、背後に何の組織、団体の重みも背負っていないのだから、という意味らしい。お前の言論は完全に自由だ、と。

(副島隆彦が、ここから加筆する。2023年1月24日。
 これは、英国の伝統の、 village idiot 「ビレッジ・イディオット」 「村のキチガイ(愚か者)」である。 この人だけは、何を言ってもいい。 表現、言論の自由が完全に保証されている。 

 ロンドンのハイドパークの角(かど)の隅(すみ)に、今もポツンと置いてある、あの、有名な、コーナー・ストーン だ。 この上に立って、キチガイは、何を喚(わめ)いてもいいことになっている。 このたったひとりで演説をする人物の、その石のまわりを、コンスタブル(警察官)が、にやにや笑ないながら、ぐるぐる回っている。これが、イギリス国の、本当の重みだ。  副島隆彦、加筆おわり)

 私は、この孫崎氏の全てを突き抜けた、高いレベルの議論の仕方が、世界最高水準の知識人たちの間には有るのだとハタと気づいた。これぐらいのことを言えないようでは、知識人としては、世界で通用しない。

 私が孫崎享氏を、日本最高の国際人材(世界で通用する)だ、と厳格に判定した理由は、以上のとおりである。
 あとは皆さん、本書を読んでください。

2023年1月  副島隆彦 

=====
『世界が破壊される前に日本に何ができるか』 もくじ

はじめに──孫崎享氏は偉い人なのだ  副島隆彦 1
第1章 「安倍処分」の真相
安倍晋三を殺したのはアメリカだ
山上は安倍殺しの単独犯ではない …… 20
殺害をめぐる不可解な謎 …… 24
安倍暗殺はアメリカの怒りが原因だった …… 29
竹島をめぐる韓国からの工作資金 …… 33
アメリカ政治を汚した統一教会 …… 35
キッシンジャーたちが「安倍処分」を決めた …… 40

大転換する世界の行方
台湾海峡に出ている日本の巡視船の危うさ …… 46
ゼレンスキーと安倍晋三はどちらもネオナチ …… 49
AOCとアメリカ左翼勢力の限界 …… 54
国家分裂するアメリカとウクライナ …… 58
アメリカの戦費の半分は日本が拠出した …… 64
アメリカ支配から脱すると世界は安定する …… 68
自家撞着に陥るEUの危機 …… 72
日本は島国に立てこもって生き延びればいい …… 75

第2章 ウクライナ戦争の真実
なぜプーチンは嵌められたのか
「ブチャの虐殺」は捏造だった …… 82
NATOの東方拡大がすべての原因 …… 85
ひっくり返された従来の対ロシア戦略 …… 88
プーチンは米英の周到な罠に落ちた …… 90
仕掛けたのはヌーランド国務次官とネオコン …… 95
国際社会の変化とロシア軍の勝利 …… 99
プーチンは国際秩序に挑戦した …… 104
核戦争まで発展するのか …… 107

ネオナチとウクライナ戦争の特殊事情
ウクライナは特殊な国 …… 109
ナチズムはいかに生まれたのか …… 112
アメリカ・NATOの狙いは長期・泥沼化 …… 116
プーチンが抑えている核戦争の危機 …… 120
「プーチンよ、核を撃て」 …… 123

第3章 崩れた世界のパワーバランス
アメリカ一極支配の終焉
天然資源のロシアか、ドル体制のアメリカか …… 130
世界の歴史を変えたG20の衝撃 …… 134
崩れていくアメリカの一極支配 …… 138
アメリカがすべて正しいのか …… 142
国際秩序と世界政治の真相 …… 146

世界経済をリードする中国と新興大国
日中露のオンライン会談で分かったこと …… 149
購買力平価ベースで中国は世界一 …… 152
ドル覇権の終わりと世界の二分裂 …… 154

第4章 日米外交の正体
外務省と対米追随の戦後史
かつての外務省はアメリカ一辺倒ではなかった …… 158
独自外交だった奇跡の短期間 …… 160
外務省の組織と日米関係 …… 162
ニクソンショックとパナマ侵攻が与えた打撃 …… 166
軍事同盟になった日米関係 …… 169
半導体交渉と自動車交渉の攻防 …… 172
アメリカが仕掛けたノーパンしゃぶしゃぶ事件…… 174
最後の抵抗「樋口レポート」 …… 178

外務省の対米追随派と自主派の対立
尊敬すべき外務省の自主派官僚 …… 182
エズラ・ヴオーゲルの裏の顔 …… 185
谷内正太郎とジャパン・ハンドラーズたち …… 187
歴代の外務次官を評価する …… 191

第5章 スパイと日本外交のリアルな話
ロシアとスパイの過酷な世界
スパイの書いた本は国際情勢の把握に役に立つ …… 202
命を簡単に捨てるロシア人の不思議 …… 206
二重スパイにするのがスパイの仕事 …… 209
大使を狙うハニートラップの罠 …… 211
怪しいニューヨークのジェトロ事務所長 …… 213

日本外交のリアルと大使のお仕事
イギリス軍ロシア語学校の華麗な同級生たち …… 217
日本人は過去の日本を背負っている …… 220
世界水準の情報と侵攻事件 …… 222
日本外交の現実 …… 227
戦わない屈辱は一時期で終わる …… 230
ウズベキスタンの日本人墓地 …… 232
大使の仕事とは何なのか …… 234
重要なのはインテグリティと判断力 …… 237

第6章 戦争しない国 日本の戦略
日本が戦争しないために出来ること
戦争しないことを最優先にする …… 240
日本は世界の嵐から身を守れ …… 244
中国の台湾侵攻と日本の有事 …… 246
アメリカ一辺倒から脱すること …… 250
世界で大きな地殻変動が起きている …… 254
社会のため、国のために立ち上がる …… 258
すべての紛争は外交で解決できる …… 261

おわりに── 孫崎享 265
歴代 外務次官 年表 …… 196

=====
 おわりに   孫崎享

「武力行使反対」を唱えるだけでなく、和平の道を提示せよ
 私は今、日本は極めて危険な所に来ていると思う。もはや、「正当な民主主義国家」に位置しないのでないかとすら思う。

「正当な民主主義国家」であるためには、言論の自由が不可欠である。しかし、日本は言論の自由のある国ではなくなった。
「国境なき記者団」が毎年、世界の報道の自由度のランキングを発表している。2022年、日本は71位である。G7の国では、ドイツ(16位)、カナダ(19位)、イギリス(24位)、フランス(26位)、アメリカ(42位)、イタリア(58位)で、日本はG7の最劣等である。

 日本の周辺を見てみよう。エクアドル(68位)、ケニア(69位)、ハイチ(70位)、キルギスタン(72位)、セネガル(73位)、パナマ(74位)である。

 報道の自由度で同じような国で7カ国連合を作るのなら、日本はG7ではなくて、エクアドル、ケニア、ハイチ、キルギスタン、セネガル、パナマと作るのが妥当だ。
 なぜこんなことになっているのか。権力の圧力を、日本では、「忖度(そんたく)」という格好いい言葉で表現されているが、権力に対抗する発言を主要報道機関ができなくなっているという状況による。

 確かに日本では、言論人が殺されるという事態は少ない。しかし、彼らの発言が一般の人に届かぬように、次々と手段を打ってくる。

 いつから言論人の排斥が起こったのか。それは小泉政権(2001年4月26日―2006年9月)であろうが、2003年、安倍晋三氏が自民党幹事長になってからではないか。

 典型的な例は、マッド・アマノ氏が自民党のポスター「この国を想い、この国を創る」をパロディにして、「あの米国を想い、この属国を創る」とした時のこと。これに対して、安倍幹事長が「上記ホームページ上の本件改変図画を削除されるよう併せて厳重通告いたします」と言ったのが、外部に出た最初の事件ではなかったか。
 そうして、政府批判をする識者は次々と言論界から消えていった。

 2022年、11月29日、次のニュースが流れた。
「宮台真司(みやだいしんじ)さんは東京都立大学・人文社会学部教授で、現代社会や戦後思想など幅広い分野を論評する論客。警視庁によりますと、きょう午後4時半前、東京・八王子市の東京都立大の南大沢キャンパスで、都立大の中で男性が顔を切られた、と目撃者の男性から110番通報がありました」

 たぶん、この宮台氏襲撃事件の真相は明らかにならないだろう。だが、このような進展は当然予想された。
 政府・自民党は、反対の見解を持つ者を自らが排斥しただけではなく、世論工作でこうした人々への憎悪を掻(か)き立てる支援をした。その氷山の一角が次の報道に表れている。

「一般市民を装って野党やメディアを誹謗(ひぼう)中傷するツイッターの匿名アカウント〝Dappi(だっぴ)〟発信元企業が、自民党東京都支部連合会(自民党都連)から昨年も業務を受けていたことが、17日、東京都選挙管理委員会が公表した2022年分の政治資金収支報告書でわかりました」
〝Dappi〟のようなサイトで憎悪を掻(か)き立てられた者が、最後には殺人まで犯すのは十分予測されたことである。

 こうして言論人が次々姿を消す中、政府を厳しく非難する副島隆彦氏が生き残っているのは凄(すご)いことだ。それは確固とした副島ファンを確立したことにある。その力量には、自らの力不足を痛感するにつれ敬服するばかりである。

 そうした中、せっかくの場所の提供をいただいたので、私が今、発言したいことを次に記す。
 日本は今、国会では9条を主体に、憲法改正に賛成する勢力が3分の2を占めている。防衛費の増大を当然のことのように議論している。
 他方において、公的年金の実質的目減りを当然のようにしている。安保三文書、「国家安全保障戦略(NSS)」「防衛計画の大綱(大綱、「国家防衛戦略」と名称変更)」「中期防衛力整備計画(中期防、「防衛力整備計画」と名称変更)」が成立しようとしている。明らかに戦争をする国に向かって動いている。

 なぜこうなったのか。
 申し訳ないが、私はリベラル勢力、護憲グループの怠慢によると思う。
 平和的姿勢を貫くには、① 武力行使に反対と、② 対立があれば「平和的」手段を貫くという政策の両輪が必要である。平和的な帰結が行われるためには、常に当事者双方の妥協が必要である。
  妥協が成立するためには、過去の経緯、双方の主張、妥協点の模(も)索(さく)をなさねばならない。前者だけで後者がないとすると、どうなるか。
 
 ウクライナ問題を見てみよう。
 2022年2月28日、英国ガーディアン紙は「多くがNATO拡大は戦争になると警告した。それが無視された」という標題で、「ロシアのウクライナ攻撃は侵略行為であり、最近の展開でプーチンは主たる責任を負う。だがNATOのロシアに対する傲慢(ごうまん)で聞く耳持たぬとの対ロシア政策は同等の責任を負う」と述べた。
 
 この間、日本では溢(あふ)れるばかりのウクライナに関する報道があったが、こういう報道を知っていますか。
 日本等はロシアに対する経済制裁を主張した。しかし、これは有効に働かない(西側はロシア原油の購入を止める動きをしたが、中国、インドが輸入し、他方原油価格の高騰でロシアの石油収入は逆に増大した)。「糾弾」と「制裁」の主張は、結果として武力行使、武装の強化にいく。
 
 日本が平和国家なら、当然、和平をまず考えるべきである。日本のどの政党が、どの政治家が和平案を提示したか。
 世界を見れば、トルコ、イスラエル、インド、インドネシア、中国は和平を、ロシア、ウクライナの両国に呼び掛けた。米国統合参謀本部議長ですら、「和平で解決する時になっている」と主張している。なぜ日本は、それができないのか。

 かつて夏目漱石は日露戦争について、短編『趣味の遺伝』(1906年)の中で、「陽気のせいで神も気違(きちがい)になる。『人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救え』と雲の裡(うち)より叫ぶ声が、逆(さか)しまに日本海を撼(うご)かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応(こた)えて百里に余る一大屠場(とじょう)を朔北(さくほく)の野(や)に開いた」と書いた。「神も気違(きちがい)になる」と表現した。
 
 同じくトルストイは「知識人が先頭に立って人々を誘導している。知識人は戦争の危険を冒(おか)さずに他人を煽動(せんどう)することのみに努めている」と書いた。

 繰り返すが、今日の政治混乱の一端は、日本のリベラル勢力、護憲勢力の怠慢による。
「武力行使反対」を唱えるだけでなく、和平の道を提示しなければならないのだ。

 2023年1月   孫崎 享 

(貼り付け終わり)
(終わり)

このページを印刷する