「1811」 公開中の映画『ナディアの誓い』の主人公ナディア・ムラドの話から中東情勢について語ります(第2回・全2回) 2019年2月28日
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副島隆彦です。今日は2019年2月28日です。
今回はナディア・ムラドの話の続きです。
しかしナディアは3ヶ月後にイスラム国から脱出しています。脱出する前に一回捕まって、ひどく殴られたりしながら罰を受けると言って、あちこち連れ回されて下級の IS の戦闘員達にも強姦された。モスルの郊外のチェックポイントと言うけど、たくさんの検問所が道路端にある。そこの若いIS の戦闘員が、「薬を買ってきてやる」とか何か言って、気のいい奴だったんでしょう、ドアを開けたまま行ってしまったところを、スキを狙って、夜のモスルの中に飛び出して、逃げた。
そして、そこでモスルのイスラム教徒なんでイラク人ですけど、シーア派の家族に、ドアを叩いて鉄の扉を叩いて入れてもらって、そこの長男坊さんがずーっと車で案内して、モスルからキルクークに車で連れて行ってあげた。その時は、アバーヤと、ニカブと、ヒジャブを、そろそろ日本人も覚えなきゃいけない。アバーヤとは、イスラム教徒の厳しい戒律を守る女の人達が来ている黒い黒服です。ヒジャブは、その頭に被る布です。さらに顔の前を隠す黒の布をニカブと言う。その3つで、できています。
女性イスラム教徒の服装の種類
男性イスラム教徒で、エジプトでもドバイでもイスラム教徒で、日本で言えば和服の紋付袴みたいなものです。男はディスダーシャと言います。このディスダーシャは白い。それにいわゆる布を被ります。
ディスダーシャとアバーヤ
だからこのイスラム国は、敬虔な祈りの深い祈りのイスラム教徒ということになっている。だからIS は、このナディアをクルディスタン、すなわちクルド人支配地区に逃がしてあげるという親切なこのイラク人の家族は、ヒジャブを着ているんです。黒いヒジャブが、非常に役に立った。ヒジャブでアバーヤを着ている限りは、区別がつかない。その顔を覗き込むことはできない。ナディアは、写真を撮られて、指名手配みたいになっていたが、この黒ずくめのイスラムの正式の女の格好である限り、バレないことが良かったと書いています。
それでその偽の証明書を作るところがあって、それでこの親切な家族の息子と夫婦ということにして、キルクークにタクシーで向かった。ということはこの2014年段階で、どこがどっちの支配地域かよくわからないのです。キルクークは、その時にはもうすでにクルド勢力に奪還されていたようだ。
イラク北部の地図
最前線のところで兵士たちはいるから、後ろの方はよくわからないんです。どっちが支配しているのか。その時、行ってみなければ、どっちの旗が立っているかが大事なんです。その後で、2016年です。2年後にモスルを奪還した。解放した。それで一番突撃して、勇敢に戦ったのはクルド人の兵隊です。それとイランのその革命防衛隊です。そして有志連合という言葉で、日本語では言う。日本のテレビで時々出てくる。これは英米仏の西側諸国の軍隊で、爆撃するんです。実際、ほとんど米軍です。米軍の爆撃部隊が支援する。
クルド民兵組織の司令官と握手する米軍将校
まず ISの部隊を爆撃で叩いておいてから、クルド人やイラン人の部隊が突撃する。ということは、米軍の兵士はそこにはあまりいない。米軍は、あくまで兵隊を訓練する係で後方にいる。死なないようにできている。しかし、先述したように女性部隊まで作って、訓練を与えて武器・弾薬、資金まで与えているのが有志連合です。だからこの米軍の行動は正しい。
<アメリカがISをつくった>
しかし、ここになんで米軍がもう20年もクルディスタンにいるかというと、イラクのサダム・フセインと戦う、クルド人を応援するという形でずっといた。それが複雑な形になっている。ところが私、副島隆彦が絶対に許せないのは、この ISを7万人の兵隊を育てて作って、恐ろしい人殺し部隊で、クルド人やイラク人のシーア派に対しても残虐なことをして、それからヤジディ教徒達に残虐なことをしたのが、このヒラリーたちが育てたムーニーの、アメリカ国内の勢力のマケインとか、こいつらが戦乱戦争を中東イスラム教徒の世界にまで持ち込む形で本気でやった。
それで2011年に日本では大地震大津波があった年の10月にリビアでカダフィをぶっ殺した。殺す直前に、ヒラリーがリビア・トリポリに飛行機で入った。直接、カダフィを殺したのはアフガニスタン人の人殺し部隊です。彼らも後で、口封じで殺されます。ヒラリーは、そういう残虐な女です。
ピースサインをするヒラリー
そしてそれの一年後の2012年の9月に、今度はヒラリーのいちの子分で、ヒラリーが大統領になったら首席補佐官になると言われていた、駐リビア米大使のクリストファー・ スティーブンスが、逆に自分の手下のリビア人達から殺された。これがベンガジ事件だ。オバマは、「ほらみろ、お前がろくでもないことするからだ」と言った。ところがもうその時、すでにヒラリーは国務長官です。2008年2009年から。そのリビア政府から奪い取って、カダフィを殺して、400億ドル(4兆円)ぐらいの資金を手に入れて、それをクリントン・ファウンデーションに送った。
殺害されたクリストファー・ スティーブンス
そしてさっき言ったヨルダンの北や、サウジアラビアの北の砂漠地帯の秘密基地で、その元イラク兵だったサダム・フセインのイラク兵、スンニ派のイラク兵だった若者たちを ISという凶暴な狂信的なイスラム教の思想を彼らが持っているのを、増幅、増長、拡大させた。そしてイスラム国というのが中東全体を支配するんだ、という恐ろしい作戦を練った。このことを日本人で言う人は誰もいない。理解できない。
アメリカが、イスラム国というものを作り、そして中東全体に激しい戦乱状態を引き起こして、たくさんの人を死なせた。シリアだけでも2000万人、国民の半分が外国に逃げて、今もかなりの人がトルコやヨルダンに逃げている。そのうちの100万人がヨーロッパにまで押しかけたので、ヨーロッパがてんやわんやの大騒ぎになった。ギリシャの海や、イタリアの海を渡って、100万人以上が押し寄せた。それで大騒ぎになった。これが移民問題です。このことを見なきゃいけないのに、本当のことを語ろうとしない。ナディアの本を読んでいると、ヒラリーという名前は一回も出てきませんが、アメリカが好きなんです。だけど自分たちを助けてくれるアメリカが好きなのであって 、ISを 育てたヒラリーたちのことまで知らないと思う。
シリア難民
だからアメリカ軍自身が二つに割れて、クルド人を応援している正しいアメリカの兵隊と、ムーニーの恐ろしい日本で言えば安倍晋三一派の繋がりです。そのムーニーのヒラリー一派の恐ろしい戦乱状況を中東全体で、引き起こすことを実行した危ない恐ろしい連中の区別、対立のことを日本人は知らなければいけない。
まずに知らなきゃいけないのは、モスルとラッカを制圧した時、1000台、2000台ではすまないトヨタのピックアップ・トラックのハイラックスに乗って、砂漠の道を、銃を構えながら行進している ISの部隊がいる。あの真っ白い新車のピックアップ・トラックは、砂漠の道にちょうど適して良かった。
イスラム国が使うピックアップ・トラック
それらの車をあんなにたくさん何千台ものトヨタの車を、誰が、どこから買って、ISが手に入れたのか。トヨタ自動車自身は、「うちは関係ありません」と発表した。それは明らかにテキサス州のサンアントニオという大きな町で作っている、トヨタのピックアップ・トラックです。それを、どのように輸出したのか。はっきりしていることは、イスラエルのハイファという港がある。そこから陸揚げしている。あとは、サウジアラビアの紅海の方の港から陸揚げしている。こういう真実を日本人も知っているくせに、一言も言わない。車の代金は誰が払ったんだとかいう話も、一切しない。これこそ、ヒラリーたちが、どんなに極悪人かという証拠だ。
それで、このナディアは、親切なイラク人の男と夫婦だということにして、偽の身分証を持って、検問所を通り越して行った。それから、キルクークからスライマーニアというところに、これはクルディスタンです、に移った。そこからアルビル(Erbil)というところに移ります。そのエルヴィスが、PDKクルド民主党、すなわちバルザーニ議長がいる首都です。
クルディスタンの地図
このアルビルが、首都だと日本人は、そろそろ分かるべきだ。モスルから、ほんの60キロぐらいのところです。これが驚くべきことです。だから、その戦乱の中にあると、どっちがどっちかよくわからないのです。モスルと、このナディアが生まれ育ったコウチョは、やっぱり60 km ぐらいのところです。たった60キロです。本当に歩いてでも、一晩、二晩、歩けば着くような距離です。そういうところでの激しい争い、戦いだ。だから最前線のところで、戦車隊同士でぶつかり合って銃撃戦をやって、どっちかが負けてということが起きても、そこには普通の人はほとんどいない。それが戦場というものです。道路だけは通さなきゃいけないので、道路脇にいっぱいその焼けただれた戦車とか自動車とか置いてある。それが見える。
そこから2014年11月中には、ナディアは救出されて、自分のお兄さんたちがいる、その北の方のドホークで、自分の助かったお兄さんたちが入院している、病院で会った。お兄さんたちは機関銃で銃殺されたけど、死体の下にいて生き延びた兄が2人いた。
腹違いの兄さんと、もう一人のお兄さんです。その兄たちが入院している病院で再会して、みんなで泣いた。さらにそこから北のザーホーという町に、前述した自分のお兄さんのヘズニーがいて、彼が米軍と一緒に救援活動をずっとやっていたようだ。そして、この本のかなり後ろに、自分のナディアの、姪が性奴隷にされている家の主人であるISの幹部の奥さんも怒っちゃって、電話で連絡を取り合って、「あなたのご主人には死んでもらうしかない」ということになった。ISの幹部だから。
「あなたが家を出る時間を教えて。出かけたら連絡してくれ」と言って、その奥さんはそれ以上のことは何も分からないのだけど、その日のうちに米軍によって、ISの幹部は爆殺されている。有志連合の無人機のプレデターという、無人殺人機で爆殺された。だから普通の人がたくさんいるところの爆撃では、プレデター、無人爆撃機を使わない。正確に殺す。それはアメリカのサウスカロライナ州か、どこかに基地がある。そこからの指令で、画面に映って、それでポンと爆撃して殺す。だからIS の司令部とか、軍事基地だけを正確に狙って殺す。時々それが間違って、結婚式をして集まっているイラク人たちのところに、プレデターの爆撃が起きたと、何十人か亡くなる事件もいくつもありました。病院まで爆撃したこともあった。病院にもISたちが隠れていたからです。そういう事件もいっぱいあります。
このお兄さんのヘズニーが重要だ。彼のその周りにいる人たちが、米軍と一緒に動いている。その流れの中で、ナディアは2016年にはスイスとドイツに送られて、自分がどういう目に遭ったかを、あちこちで話して回るという活動を始めた。それからベルリンに行って、やがてそれが2018年のノーベル平和賞に繋がった。
だから裏側には、自分たち家族の動き全部がある。この本の『 THE LAST GIRL』の前の方に、兄弟たちの写真が全部あります。でも、山の自分の家から逃げる時には、全部写真を焼いたり、持ち物を全部捨てたりして、もう着の身、着のままで逃げた。とても大変なことだったと思う。しかし、元が遊牧民だから、日本人なんかよりずっと彼女らは頑丈だと思う。羊も連れて行って、山の方に逃げた。羊たちを順番に殺して食べながら、山の中でも生き延びた。そこまでは、追いかけてこられない、というようなところまで行った。自分たちの宗教のヤジディ教の聖地も、シンジャール山の山の中にある。ここが大事なところだ。
<真実を見抜く>
モスルは、チグリス川の川沿いにある。シリアのラッカは、ユーフラテス川の川沿いにある。このことを日本人は知るべきです。チグリス、ユーフラテス川は知っているが、そのずっとアラビア海に注ぎ込む、この2つの大きな川です。この流れ沿いに大きな都市が出来ている。このことを私たちはそろそろ知るべきだ。
このヤジディ教徒は、クルド人だけど、クルド人ではない、という扱いです。自分達は、クルド人ではない、と言った。しかし大きく言えばクルド人でしょう。ただクルド人の宗教とはまた違う。クルド人は、一応、イスラム教徒だけど、シーア派かスンニ派にかかわらず、クルド人であることが優先するという言い方をしています。
もうクルディスタンは、実質的に出来ています。何と、モスルとキルクーク、この両方も自分たちでは、クルディスタンだと主張しています。ということは、混ざって暮らしているということです。キリスト教徒がいる町とかもある。混ざって暮らしているから、どっちがどっちと、はっきり言えないところが国境問題、領土問題、民族問題の厳しいところです。日本人は、それについてあまり苦しまなくていいから、その意味では大陸性民族ではないから楽なんです。
まだISの残党がシリアとイラクの国境の辺りにまだいるようです。では、どこから、武器・弾薬・食料の補給をしているか、が分からない。あくまで、サウジアラビア、ヨルダン国境からのヒラリー派のアメリカの軍隊及び、CIAとかの悪辣な恐ろしいやつらの支援ルートがまだあるのだろう。そして、それはシリアの中にも、まだほとんどほんのわずかだけど、残っている。イスラエル側と繋がっている狂暴な奴らがいる。彼らをアルヌスラ戦線と言います。これは、イスラエルが育てているシリア人たちの反政府部隊です。このシリア人たちの反政府部隊が、イスラエルやヒラリー派アメリカ軍の支援で生き延びている。それも、ほとんど撤退しました。
「白いヘルメット」という組織があって、これがノーベル平和賞をもらおうと、頑張っていた。しかし、彼らは本当に悪辣な者たちで、かわいそうなシリア政府軍によって、爆撃されて死んでいる子供たちを抱えたりして逃げる、という白いヘルメットの連中です。これは、さっさと脱出しました。私は、本当に悪い奴らだと思う。
「白いヘルメット」
あとはシリア民主軍というのがいる。これは、シリア人でありながらバシャール・アサド政権に反対して、戦ってきた連中です。これは今、シリア北部に逃げ込んで、まだ生き延びている。そこと、トルコが繋がっている。だから、彼らはそれほど悪質ではないと思う。ISほど、悪質ではない。それでもバシャール・アサド(Bashar al-Assad、1965年-)政権と気が合わない。憎しみ合っているシリア人どうしです。
アサド大統領夫妻
このアサド大統領と、奥さんのアスマ(Asma al-Assad、1975年-)夫人と、この家族は、悪いことを何もしていない。自分の国の国民が、おそらく200万人ぐらいも死んでしまって、大変な目に遭って、自分たちも激しい戦いの中で生きている。家族たちは、特別待遇で防空壕の中で生きているのだろう。アスマ夫人とは、イギリス・ロンドンに留学中に出会った。
彼女は、英国で生まれ育ったスンニ派シリア人で、ロンドン大学キングス・カレッジを卒業後、JPモルガンの投資銀行部門でM&Aを手がけるキャリアウーマンで立派な女性です。半分イギリス人です。シリアの今の政権は、悪いことをするような人たちではない。それに対して、2回、3回行った 毒ガス兵器を撒き散らしたとか、爆弾を落としたとか、シリア政府が行ったというのは嘘八百です。それは全部、反政府勢力というより、それを動かしているイスラエルやサウジアラビア、それからアメリカの中のヒラリーの系統の悪質な軍人どもがやったことです。
カルラ・デル・ポンテ
それを、スイス人だけどイタリアでも検察官をやっていた、カルラ・デル・ポンテ(Carla Del Ponte 、1947年-)という勇敢な女性が暴露した。彼女は有力な人で、国際刑事司法裁判所の主任検察官です。ヘリコプターとか、防弾ガラスでできた特別の車とか持っている。強力な人で、2016年にアメリカにまで来て、ヒラリーを捜査するまで言った。「出てこい」とか言って。それぐらい勇敢な女性です。彼女の仕事の業績は、1993年に起きた、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツゴビナで、1万人ぐらい殺して埋めた、戦争犯罪者(ウォークリミナルズ)を摘発して裁判にかける仕事をした。その後、国連の人権委員会の委員になって、真実をこのカルラ・デル・ポンテは言い続けている。でも抑え込まれていて、その声は、なかなか日本には届かない。
ただ『カルラのリスト』という映画が、日本政府協賛で公開された。この映画を私は見た。だからカルラのことを知っている。カルラは偉い。毒ガス兵器を使ったのは、シリア政府ではない、イスラエルが支援する勢力だ、反政府勢力だと言った。だから日本のテレビの論調も、ぐちゃぐちゃにおかしくなっちゃった。シリア政府は悪人の巣だ、みたいな主張が通らなくなった。このシリア政府をプーチンのロシア政府が徹底的に応援し続けて負けなかった。
シリアの海沿いにあるラタキアと、タルトスというところに、ロシアの軍港と軍事空港がある。そこから、例えばミサイルが27発、飛んできても、イスラエルが発射したと言っても本当はアメリカが発射した21発は迎撃して落とすとか、そういうこともするぐらい高性能の S 300とか S 400という地対空ミサイルを持っている。それはプーチンが、シリア政府だけではなくて、もしかしたらイラン軍にまで渡しているのではないかと、アメリカは怖がっている。
すると、イスラエルは悪いことばかりしてきたのに、アメリカがあまりあてにならないからということで、ロシアのプーチンにもくっついて行こうとしている。なぜなら840万人いるイスラエル国民のうちの100万人で、この20年間ぐらいで、最近来たイスラエル人たちで、入植地活動で右翼活動する人たちの多くはロシア人なんです。ロシア系のユダヤ人たちです。
だから第二外国語はロシア語だ、とイスラエルでは言われている。それぐらいの動きがある。複雑な話だから、日本人は、なかなかわからない。私が分かりやすく説明する努力を、私の運命と任務としてやらなければいけない。後でこの The Last Girl にたった1枚載っている地図帳に、私がたくさん書き込みをしています。これも見えるように貼りつけて、基本・基礎知識として、地図と一緒に見てください。自分でも世界地図を開いて確認してもらいたいということです。
(終わり)
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