「2223」 古村治彦の新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』が発売 2025年11月6日

SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)です。今日は2025年11月6日です。

今回は、古村治彦著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)をご紹介します。発売日は2025年11月21日です。

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体←青い部分をクリックするとアマゾンのページに移動します

今回の本は、これまでの本で取り上げてきた、「新・軍産複合体」に焦点を当てた内容となっている。「軍産複合体(Military-Industrial Complex、ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス)」という言葉は、ドワイト・アイゼンハワー(Dwight Eisenhower、1890-1969年、78歳で死)大統領(在任:1953-1961年)の退任演説の中で使われて注目を集めた。
アメリカ政治において、「軍産複合体」は重要な役割を果たした。具体的には、アメリカの戦争において重要な役割を果たしてきた。巨大なアメリカ軍と巨額な国防予算を決定するアメリカ連邦議会、そして巨大軍需産業がアメリカの海外での戦争の推進力となった。その構造が変化しつつある。第二次トランプ・トランプ政権下で、新・軍産複合体が進められている。最新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』は、アメリカ政治の新しい動きを確実に捉えた一冊だ。

※古村治彦の個人ブログ「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」で、『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』で使った記事をご紹介しています。以下のアドレスでご覧ください。
「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」
https://suinikki.blog.jp/

以下に、まえがき、目次、あとがきを貼り付けます。是非、手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

まえがき 古村治彦

■トランプ大統領に振り回される世界

ドナルド・トランプ Donald Trump(一九四六年生まれ、七九歳)は、二〇二四年のアメリカ大統領選挙で勝利し、二〇二五年一月二〇日に政権に返り咲いた。現職大統領が選挙で敗北し、その後、再び当選して大統領に復帰したというのは、アメリカ史上、一三二年ぶりの重大な出来事となった。
第二次政権発足後のトランプは、就任初日から次々と大統領令を発し、不法移民の摘発の厳格化や行政機関の削減、更には高関税政策を次々と実行に移した。大統領選挙でトランプ陣営に多額の寄付を行い、側近となったイーロン・マスク率いる政府効率化省Department of Government Efficiency(デパートメント・オブ・ガヴァメント・エフィシエンシィ)、DOGE(ドージ)が各政府機関に乗り込んで、調査を行い、数千人の政府職員を解雇した。このことは日本でも詳しく報道された。
トランプの電光石火(でんこうせっか)の動きに、アメリカ国内、そして世界が振り回されることになった。トランプ大統領と良好な関係にあったイーロン・マスクは二〇二五年五月に政府効率化省から離れ、更には、予算案をめぐり、トランプと対立するようになった。マスクは更に、新しい政党「アメリカ党 American Party(アメリカン・パーティー)」の立ち上げを画策している。
日本関連で言えば、二〇二五年四月のトランプ関税 Trump Tariff(タリフ)のショックがあったが、日本政府の粘り腰の交渉で、関税を引き下げることに成功した。

■「エプスタイン問題」が今後のトランプのアキレス腱となる

二〇二五年七月に入ってから、トランプ政権にとってアキレス腱となり得る事案が話題を集めている。
それは、ジェフリー・エプスタイン Jeffrey Epstein(一九五三〜二〇一九年、六六歳で没)の起こした児童買春事件に関するファイルを公開するかどうかの問題だった。トランプが二〇二四年の大統領選挙で公開を約束した、エプスタイン事件ファイル、特に「顧客リスト」の機密解除の後の公開が焦点となった。二〇二五年七月六日に、司法省は、ファイルは存在せず、エプスタインは自殺だったと発表した。
これに対して、トランプを支持した勢力、MAGA[マガ](Make America Great Again[メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン])派と呼ばれる人々から激しい批判の声が上がっている。(註1)トランプの名前が顧客リストに掲載されていたために、ファイルの公開が見送られたと誰もが考えた。
トランプは批判を強めるMAGA派の人々に対して、「弱虫 weaklings(ウィークリングス)」「お前たちの支持はいらない」と激しく非難した。MAGA派からすれば、顧客リストの公開なしはトランプの卑劣な「裏切り betrayal(ベトレイヤル)」にほかならない。二〇二五年二月に、パム・ボンディPam Bondi(一九六五年生まれ、五九歳)司法長官 Attorney General(アトーネイ・ジェネラル)が、エプスタインのファイルにトランプの名前が出てくることを報告しており、そのために公開しないという決定がなされたとされており、対応をめぐって共和党内部にも分裂が起きている。
エプスタイン事件への対応が取り沙汰されるようになって、トランプの動きがおかしくなった、そして、イーロン・マスクとの関係悪化につながったと私は判断している。トランプとイーロン・マスクの仲違いが表面化した際に、マスクはXへの投稿で、「ドナルド・トランプは、エプスタイン・ファイルに載っている。これこそが書類が公開されない真の理由だ(Donald Trump is in the Epstein files. That is the real reason they have not beenmade public.)」と書いている(後に謝罪した)。
政府効率化省を率いて、連邦政府各機関の調査を行ったイーロン・マスクは自身が抱える天才ハッカー集団を総動員して、各機関のコンピュータを調査し、様々な情報を入手したであろうことは間違いないので、マスクのXへの投稿には信憑性が高いと私は考えている。
そうなると、トランプは自分の支持者たちを裏切ったということになる。そして、トランプは既存勢力、MAGA派が敵視するディープステイト側に寝返ったということになる。

■アメリカをこれまで動かしてきた軍産複合体

本書は、現下のトランプ政権をめぐる激しい動きではなく、その下にある、より大きな動きについて見ていく。そのためのキーワードとなるのが「軍産複合体(ぐんさんふくごうたい)Military-Industrial Complex(ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス)、MIC(エムアイシー)」という言葉だ。
この「軍産複合体」という言葉について簡単に説明すると、軍需産業 defense industry(ディフェンス・インダストリー)と軍隊・政府機関が密接に結びつく、互恵(ごけい)的な reciprocal(レシプロカル)連合体ということになる。
民間企業である軍需産業が、政府の一部門で多くの予算と多数の人員を抱える軍隊と結びついて、お互いの利益となる、予算獲得や予算そのものの拡大のために、協力して影響力を行使するということになる。
アメリカで見てみると、軍産複合体には、民間の軍需産業や軍隊だけではなく、米連邦議会 Congress(コングレス)や学術界などの社会各層も入っているとも解釈されている。広範囲にわたる連合体ということになる。
アメリカの巨大軍需産業の代表的な企業としては、①ロッキード・マーティン社Lockheed Martin、②ボーイング社 Boeing、③RTXコーポレーション社 RTX Corporation、④ノースロップ・グラマン社 Northrop Grumman、⑤ゼネラル・ダイナミクス社 General Dynamicsなどの名前が挙げられる。
RTX社は旧名がレイセオン・テクノロジーズ社であり、レイセオン・テクノロジーズ社は元々レイセオンとユナイテッド・テクノロジーズ社が合併した巨大企業で、レイセオンという名前の方が良く知られている。
この五大巨大軍需産業は、国防総省(註2)やアメリカ軍の主要な契約(請負)企業contractors(コントラクターズ)であり、「プライム primes」と呼ばれ、優遇されてきた。
ロッキード・マーティン社は、戦闘機、ミサイル、艦船、人工衛星などを製造し、二〇二四年の売上は約七一〇億ドル(約一〇兆五〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約一〇四五億ドル(約一五兆二〇〇〇億円)だ。
ボーイング社は民間航空機製造でも知られているが、爆撃機やミサイル、宇宙開発の分野にも進出しており、二〇二四年の売上は、約六六五億ドル(約九兆八〇〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約一七一六億ドル(約二四兆九〇〇〇億円)だ。
RTXコーポレーション社は、航空エンジン、機体、ミサイル、防空システムなどのメーカーで、二〇二四年の売上は、約八〇七億ドル(約一一兆七〇〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約二〇九二億ドル(約三〇兆三〇〇〇億円)だ。
ノースロップ・グラマン社は、戦闘機、人工衛星、ミサイルなどを製造し、二〇二四年の売上は約四一〇億ドル(約六兆円)、二〇二五年八月の時価総額は約八四〇億ドル(約一二兆二〇〇〇億円)だ。
ゼネラル・ダイナミクス社は、造船や宇宙開発、情報機器に強いメーカーで、二〇二四年の売上は約四八〇億ドル(約七兆円)、二〇二五年八月の時価総額は約八六〇億ドル(約一二兆五〇〇〇億円)だ。
他にも軍需産業には多くの企業があるが、これらの巨大軍需企業は、アメリカ国防総省 Department of Defense(デパートメント・オブ・ディフェンス)の元請(もとうけ)契約業者 prime contractors(プライム・コントラクターズ)として優遇され、国防予算から巨額の利益を上げてきた。
日本経済新聞二〇二四年八月二日付記事「米欧防衛8社、紛争特需で増産投資 時価総額五年で倍増」では、「ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の緊迫で、弾薬やミサイルを増産している。好業績を受け、これまで防衛銘柄を敬遠していた投資マネーも流入している」と書かれている。ウクライナ戦争や中東での紛争で、巨大軍事産業は莫大な利益を上げ、それは今も続いているということだ。戦争は彼らにとっての「飯(めし)のタネ」ということになる。

■軍産複合体には都合が悪い「アメリカ・ファースト」

ドナルド・トランプ大統領は、こうした軍需産業に対して、大統領選挙を通じて拒否反応を示していた。
トランプは昨年(二〇二四年)の大統領選挙の運動期間中、九月のウィスコンシン州での選挙集会で本書のテーマの核心となることについて発言した。『フォーブス』誌二〇二四年九月一三日付記事「ドナルド・トランプは軍産複合体を抑制できるか?(Will Donald Trump Tame the Military-Industrial Complex?)」で、トランプの重要な発言が紹介されている。以下に引用する。

(引用はじめ)
私は好戦主義者たち warmongers(ウォーモンガーズ)を追放するだろう。常に戦争をしたがっている連中がいる。それはなぜか? ミサイルは一発で二〇〇万ドルもする。これが答えだ。彼らは世界中の至る所にミサイルを落とすのが大好きだ。私の(前の)政権の時には戦争などなかった。……私は好戦主義者たちを国家安全保障分野から追放し、必要とされてきた軍産複合体の一掃を実行する。戦争を利用しての利益追求を止め、常にアメリカ・ファースト America first を推進するためだ。私たちはアメリカ国内問題解決を第一に考える。私たちは終わりのない戦争に終止符を打つ。軍産複合体の人々は、終わりのない戦争を決して終わらせることはない。(翻訳は引用者)
(引用終わり)

この記事で私は「好戦主義者」と翻訳したが、これは「戦争屋(せんそうや)」と言い換えても良いだろう。
トランプは、巨大軍事産業が金儲けのために、戦争を引き起こしている、戦争の元凶(げんきょう)だと喝破[かっぱ](堂々と論じて人々が隠したがる真理を明らかにすること)している。ウクライナ戦争の即時停戦とウクライナへの支援の停止も同時に訴えていた。トランプは、好戦主義者・戦争屋たちを排除して、アメリカが戦争に巻き込まれないようにすると訴えた。そして、大統領に返り咲いた。
ドナルド・トランプはこれまで一貫して、「アメリカ・ファースト America First」を訴えてきた。
「アメリカ・ファースト」は、「アメリカが何でも一番だぞ」という単純な、子供じみた優越感を示した言葉ではない。その真意を含んで正確に日本語に訳すと、「アメリカ国内問題解決優先主義」ということになる。アメリカ国内では、経済格差の拡大やインフラの老朽化といった問題が深刻化している。そういった問題の解決を優先しようという考え方である。
国内重視姿勢であり、海外の問題をアメリカが出しゃばって解決しようとするのは止めよう(ほとんどの場合、アメリカは失敗してきた)、外国の問題解決は外国がすればよいという考えだ。このような考え方を「アイソレイショニズム Isolationism」という。アメリカ外交にとって、建国以来の重要な伝統だ。アイソレイショニズムを「孤立(こりつ)主義」と訳すのは間違いだ。世界の大国であるアメリカが、世界から孤立すること自体があり得ないことだ。このように訳すと、実態を見誤ってしまう。
トランプはこの伝統に回帰することを訴えた。そして、多くのアメリカ国民がそれを支持した。しかし現状は、ウクライナへの支援は継続し、トランプが進めた「大きく美しい一つの法案」(One Big Beautiful Bill Act(ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル・アクト) of 2025、OBBBA 2025)では、防衛予算は前年比で増額となった。

■新たな軍産複合体がすでに形成されつつある

私は、前作『トランプの電撃作戦』(秀和システム、二〇二五年)において、「ペイパル・マフィア Paypal Mafia」の総帥(そうすい)にして、シリコンヴァレーの新興テック産業の多くの操業に関わってきたピーター・ティール Peter Thiel(一九六七年生まれ、五八歳)が、トランプ政権の樹立に大きく貢献したことを明らかにした。そして、ティールと、イーロン・マスク Elon Musk(一九七一年生まれ、五四歳)が新・軍産複合体 Neo Military Industrial Complex(ネオ・ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス)づくりを行っていると分析した。
現在のアメリカ経済において、シリコンヴァレー発のテック産業が大きな存在となっている。その代表が、GAFA(ガーファ)と呼ばれる巨大テック企業である。グーグル社 Google、アップル社 Apple、Facebook(現在はメタ社 Meta)、アマゾン社 Amazonは売上、時価総額ともに世界トップ一〇を占めている。これら以外にもテック産業は成長を続けて、アメリカの経済や社会において存在感を増している。
二〇二五年一月一五日、ジョー・バイデン Joe Biden(一九四二年生まれ、八二歳)前大統領は、退任演説 Farewell Address(フェラウェル・アドレス)において、軍産複合体に言及した。以下の該当部分を引用する。

(引用はじめ)
ご存知のように、アイゼンハワー大統領は退任演説で軍産複合体(ぐんさんふくごうたい)military-industrial complexの危険性について言及した。演説から引用すると、彼は当時、私たちに「誤った権力の破滅的な台頭の可能性(the potential for the disastrous rise of misplaced power)」について警告した。
六日後(言い間違い)、いや六〇年後、私はアイゼンハワー大統領と同様に、我が国に真の危険をもたらす可能性のあるテック産業複合体 tech-industrial complex(テック・インダストリアル・コンプレックス)の台頭を懸念している。
アメリカ国民は、権力の濫用を助長する偽情報 misinformation(ミスインフォメーション)と虚偽 disinformation(ディスインフォメーション)の雪崩(なだれ)に埋もれつつある。報道の自由 free press(フリー・プレス)は崩壊しつつある。編集者は姿を消しつつある。ソーシャルメディアはファクトチェックを放棄している。真実は、権力と利益のために語られる噓によって覆い隠されている。
私たちは、子供たち、家族、そして民主政治体制 democracy(デモクラシー)そのものを権力の濫用から守るために、ソーシャルプラットフォームに責任を負わせなければならない。(翻訳は引用者)
(引用終わり)

バイデン前大統領は、ドワイト・アイゼンハワー Dwight D. Eisenhower(一八九〇〜一九六九年、七八歳で没 在任:一九五三│一九六一年)元大統領の退任演説(本書第二章で詳しく見る)を意識して、アイゼンハワーが使ったことで注目されるようになった軍産複合体を意識して、「テック産業複合体」という言葉を使い、その存在に警告を発している。
巨大テック産業が政治や社会、人々の日常生活に過度な影響力を持つことを懸念し、警鐘を鳴らしている。
シリコンヴァレー発の巨大テック産業の重要人物たちのほとんどは、民主党支持で、二〇二〇年の大統領選挙ではジョー・バイデン(大統領在任:二〇二一│二〇二五年)を、二〇二四年ではカマラ・ハリス Kamala Harris(一九六四年生まれ、六〇歳)を支援した。バイデンは、独占禁止法を盾にして巨大テック産業の影響力の削減を行おうとしたが、中途半端に終わった。
二〇二四年の大統領選挙後、シリコンヴァレーの巨大テック産業は軒並み、トランプ支持を表明し、二〇二五年一月の大統領就任式に多額の献金を行い、CEOたちがばつが悪そうな顔をして就任式に出席した。バイデンとしては、テック産業の手のひら返しを許せないということもあって、恨み節として「テック産業複合体」という言葉が出てきたのだろう。しかし、バイデンが指摘するように、テック産業は様々な場面で、影響力を増しているのも事実だ。

■「米中戦争」の主役は双方の新・軍産複合体が担う

私はトランプが批判した軍産複合体と、バイデンが批判したテック産業が交わる領域についてこれから書いていく。
より具体的には、これまでの著作でも触れてきたが、「新・軍産複合体」づくりだ。
より具体的には、シリコンヴァレーで、第一次トランプ政権誕生に大きく貢献したピーター・ティール、第二次トランプ政権誕生に貢献したイーロン・マスク、ティールが引き立てたシリコンヴァレーの天才児パルマー・ラッキー Palmer Luckey(一九九二年生まれ、三三歳)が軍産複合体に食い込もうとしていることを詳述していく。
更に、これまでの軍産複合体について、新旧の軍産複合体の違い、ティールたちに影響を与えている思想の新潮流、中国の軍産複合体、軍産複合体の変化を前提にした米中関係の予測について見ていく。

本書の構成を簡単に紹介する。
第一章では、シリコンヴァレーのテック産業が、新しい軍産複合体づくりを行っている様子を人物と人脈を手掛かりにして見ていく。具体的には、ドナルド・トランプの政権獲得に貢献し、大きな影響力を持つ、ピーター・ティール、イーロン・マスク、そして、ティールの庇護の下で成功を収めたパルマー・ラッキーといった、シリコンヴァレー発のテック産業の大立者(おおだてもの)たちが、自分たちの所有するパランティア・テクノロジーズ社 Palantir Technologies、スペースX社 Space X、アンドゥリル・インダストリーズ社 Anduril Industriesが国防総省とアメリカ軍との大規模な契約を結ぶことを目指している。第二次トランプ政権の軍事関係の人事についても見ていく。
第二章では、戦後アメリカの軍産複合体の歴史を概観している。主に、第二次世界大戦後の冷戦がスタートした時期から軍産複合体は大きな影響力を行使してきた。第二次世界大戦後もアメリカは多くの戦争を戦ってきた。アメリカの戦争において重要な役割を果たしてきた軍産複合体の成り立ちや役割について、ニューヨーク財界人が作った「現在の危機委員会」や、アメリカの介入主義の思想潮流であるネオコン派の人物たちの名前を挙げて詳述する。
第三章では、古くからの軍産複合体と新・軍産複合体の違いについて見ていく。二つの間にある大きな違いは、ビジネスモデルの違いと、底流にある思想の違いである。ビジネスモデルの違いで大きいのは、私たちにとってもなじみ深い言葉「サブスク」である。底流にある思想に関しては、古くからの軍産複合体の基底にあるのは介入主義(かいにゅうしゅぎ)であり、新・軍産複合体の場合は暗黒啓蒙(あんこくけいもう)である。これらを詳述し、二つの間の違いを明確化する。
第四章では、アメリカの新しい軍産複合体づくりが国際関係に与える影響について考える。現在、国際関係における最重要のファクターは、米中関係 US -China relations(ユーエス・チャイナ・リレイションズ)である。より具体的に言えば、「米中戦争は起きるのか」ということが重要なテーマになる。
まず、中国における軍産複合体の形成について見ていく。習近平政権下、中国は軍の近代化を進めており、そのための中心戦略が「軍民融合(ぐんみんゆうごう)」であり、習近平は二〇二三年からの国家主席三期目の中国共産党指導部人事で「軍工航天系(ぐんこうこうてんけい)」のテクノクラートたちを登用していることを紹介する。
続けて、ピーター・ティール、イーロン・マスク、パルマー・ラッキーの対中観について、そして、暗黒啓蒙の中にある「中華未来主義(ちゅうかみらいしゅぎ)」について見ていく。そして、アメリカの軍産複合体の「変容 transformation(トランスフォーメイション)」によって、米中関係も変化していくだろうということを結論づける。

本書を通じて、アメリカ政治の表面に出てこないが、確かなそして大きな動きについて、読者の皆さんに理解を深めていただけることを願っている。

二〇二五年九月
古村治彦(ふるむらはるひこ)

【註】

註1 『ロイター通信』二〇二五年七月三〇日付記事「情報BOX:「エプスタイン問題」とは何か、未公開文書巡りトランプ氏と支持層に亀裂も」
註2 二〇二五年九月に戦争省 United States Department of Warに改名
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『シリコンヴァレーから世界支配を狙う 新・軍産複合体の正体』 目次

まえがき
トランプ大統領に振り回される世界 3
「エプスタイン問題」が今後のトランプのアキレス腱となる 4
アメリカをこれまで動かしてきた軍産複合体 6
軍産複合体には都合が悪い「アメリカ・ファースト」 9
新たな軍産複合体がすでに形成されつつある 11
「米中戦争」の主役は双方の新・軍産複合体が担う 14

新旧・軍産複合体の人脈関連図と関係企業
新・軍産複合体の人脈図(1):トランプ政権 26
新・軍産複合体の人脈図(2):ウエストエグゼク社 28
これまでの軍産複合体の人脈の歴史(1):第一次「現在の危機委員会」まで 30
これまでの軍産複合体の人脈の歴史(2):第二次「現在の危機委員会」まで 32
これまでの軍産複合体の人脈の歴史(3):ジョージ・W・ブッシュ政権とネオコン 34
新旧軍産複合体企業 36

第1章 アメリカで新しい軍産複合体が出現しつつある
ミッシェル・フロノイというキーパーソンの浮上 40
バイデン政権と濃密につながるウエストエグゼク社 41新・軍産複合体づくりの動きが見えてきた 44
新・軍産複合体の中心人物ピーター・ティール 46
反福祉、反税金、反中央政府の自由至上主義者(リバータリアン)ンたち 51
政界ネットワークを着々と拡大するティール 53
ビン・ラディンの発見と殺害で政府機関の信用を得る 55
第二次トランプ政権の「台風の目」となっていたイーロン・マスク 57
アメリカにとって不可欠の存在にわずか二〇年で成長したスペースX社 61
ティールに育てられた「シリコンヴァレーの異端児」パルマー・ラッキー 63
アンドゥリル社は新時代の軍需企業として台頭 67
ピーター・ティールが見出して、育てたJ・D・ヴァンス 70
防衛関係のスタートアップに投資するスティーヴン・フェインバーグ 75
「アジア・ファースト」軍事戦略を目論むエルブリッジ・コルビー 80
陸軍の文民トップには新・軍産複合体寄りの二人が就任した 84
トロイ・メインク空軍長官はイーロン・マスクと昵懇の中 90
第二次トランプ政権は新・軍産複合体づくりを支援する 92

第2章 二〇世紀は軍産複合体の世紀だった
「アメリカの世紀」は戦争によって築かれた 96
世界最強の軍隊を支える軍産複合体 98
軍産複合体の脅威を警告したドワイト・アイゼンハワー大統領 101
「現在の危機委員会」は米国民が軍拡を受け入れるように仕向けた 106
軍産複合体の生みの親であるバーナード・バルーク 112
財界人にとって安全な投資先となった軍需産業 114
第二次「現在の危機委員会」の創設がレーガン政権につながった 118
ネオコンや人道的介入主義派の源流となったヘンリー・ジャクソン 123
ジョージ・W・ブッシュ政権を牛耳ったネオコンは軍産複合体そのものだった 126
二一世紀になっても米国民を煽っている「現在の危機委員会」 132
二〇世紀で作り上げられた軍産複合体は二一世紀で変容する 137

第3章 新・軍産複合体は旧来と何が違うか
防衛システムのサブスクリプション契約を目論む 142
基盤となる思想も新旧大いに異なる 145
古くからの軍産複合体のビジネスモデルは「お手盛り」でコスト軽視 146
一致団結して国防予算削減を妨げる者たち 149
イーロン・マスクが政府効率化省を率いた理由 151
新たなミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」導入が大きなチャンス 154
時代遅れの巨大軍需産業に取って代わるシリコンヴァレーのテック産業 157
「サブスク」でアメリカ軍をコントロールする新・軍産複合体 162
ウクライナ戦争で核戦争の危機を回避したイーロン・マスク 165
トランプは旧・軍産複合体にも利益を与える方向に転換した 169
トランプとマスクとの仲違いが新・軍産複合体づくりに影響 172
古くからの軍産複合体の思想の基盤は介入主義だ 176
ピーター・ティールが影響を受ける新しい思想潮流「暗黒啓蒙」 178
暗黒啓蒙の思想家カーティス・ヤーヴィン 181
ディープステイトと非ディープステイトの対立構図が浮かび上がる 186

第4章 新しい軍産複合体の台頭で米中関係はこうなる
アメリカが煽り立てる中国脅威論のおかしさ 192
「アメリカ以後の世界」へと歴史は流れている 196
戦争を必要としない新・軍産複合体と米中関係 198
中国の軍民融合はアメリカの軍産複合体と同様の機能を持つ 202
習近平体制三期目のキーワードは「軍工航天系」で、軍民融合を進める 206
中国の軍産複合体幹部が異例の昇進 212
最先端技術の軍への応用を可能にする人事 215
ピーター・ティールは中国に対して批判的だが理想は中国の体制のはずだ 219
中国に恩義があるイーロン・マスクが中国を敵視する理由がない 224
アメリカは世界の警察官をやめるべきと主張するパルマー・ラッキー 226
ニック・ランドが生み出した中華未来主義が重要だ 228
新・軍産複合体が米中衝突を望むことはない 233
新・軍産複合体の後ろ盾があるJ・D・ヴァンス副大統領がトランプの後継者 238

あとがき 243
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あとがき 古村治彦

「西洋 the West の衰退と非西洋 the Rest の再興」は私の大きなテーマである。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは、「西洋の敗北 the Defeat of the West(ザ・デヒィート・オブ・ザ・ウエスト)、La défaite de l’Occident(ラ・ディフェツ・ドゥ・ロクスィダン)」という言葉を使っている。
世界は今、大きな構造変化の時期を迎えている。西洋近代支配五〇〇年が終わり、非西洋諸国がBRICSを中心にして勃興(再興)しようとしている。
世界覇権は中国に移る。現在の日本の衰退は、世界規模で位置づければ、西洋の衰退という大きな流れの中で起きている現象ということになる。私たちはこのことをまずしっかりと認識しなければならない。

アメリカ国内に目を向けると、アメリカの国力の減退はもう覆(おお)い隠(かく)せない状況になっている。アメリカは世界覇権国として、第二次世界大戦後の世界を支配してきたが、その世界支配を続けられなくなっている。その象徴がドナルド・トランプ大統領の誕生だ。
トランプは、戦後のアメリカ支配体制を終わらせるために、時代の要請によって生み出された。世界帝国アメリカの墓堀り人 gravedigger(グレイヴディガー)である。私はそのように判断している。
トランプ大統領誕生には、本書の主人公であるピーター・ティールとイーロン・マスクが大きく貢献した。彼らが目指しているのが、「新・軍産複合体」である。
私は、本書を通じて、アメリカ政治の大きな流れである「新・軍産複合体」づくりについて詳述した。ティールやマスク、そして、パルマー・ラッキーは、これからのアメリカ政治において、「影の大統領」とも言うべき、政商 influence peddlers(インフルエンス・ペドラーズ)となるだろう。アメリカ史に引き付けて言えば、二一世紀の「泥棒男爵 robber barons(ロバー・バロンズ)」ということになる。
「新・軍産複合体は中国を敵視しない、戦争を必要としない軍産複合体となる」という私の主張は、突飛に聞こえるかもしれない。私の主張に説得力があるかどうかは、読者の皆様の評価を俟(ま)ちたい。

ドナルド・トランプ大統領は、第二次政権が始まった当初、様々な政策を行い、期待通りの動きを見せた。しかし、その後は、既存の勢力、ディープステイト側に妥協しているように見える。エプスタイン問題でも、ウクライナ停戦でも、昨年の選挙期間に行った自身の主張から大きく後退している。既存勢力に媚びを売り、何とか四年間の任期を無事に終えようという意図が透(す)けて見える。
しかし、アメリカの衰退、アメリカ国内の分裂 division(ディヴィジョン)を止めることは不可能だ。大きな流れは誰にも止められない。

本書の執筆中、日本では、石破茂総理大臣の退陣表明があった(二〇二五年九月七日)。そして、一〇月四日に自民党総裁選挙の投開票が行われ、最終的に高市早苗が新総裁に選ばれた。公明党の連立与党離脱で日本政界に激震が走った。これから連立与党の枠組みの変更と総理指名に向けて、協議が行われることになる。
石破首相はアメリカに隷属的に盲従することなく、是々非々(ぜぜひひ)で事態に対応した。国防予算の対GDP比三・五%引き上げ要求を拒絶し、日米の外相と国務長官、防衛相と国防長官が会合を行う「2+2」の開催を見送ったことは本文の中で紹介した。
石破政権は在任期間こそ短かったが、石破政権の業績を後世の歴史家が高く評価するだろう。世界の大きな構造転換に直面する日本で、石破茂というリーダーが誕生したことは倖(ぎょうこう)だった。対米隷属(れいぞく)路線からの小さな軌道修し正(きどうしゅうせい)が将来に大きな違いを生み出すと私は確信している。

最後に、師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には推薦の言葉をいただきました。ありがとうございます。本書の執筆にあたり、フリーの編集者の大久保龍也氏、ビジネス社の中澤直樹氏には企画の段階から大変お世話になりました。特に大久保氏には、私のデビュー作、二作目を担当していただいて以来、久しぶりにタッグを組むことができたことは、私にとって光栄なことでした。記して感謝します。

二〇二五年一〇月
古村治彦(ふるむらはるひこ)
(貼り付け終わり)
(終わり)

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