「154」 数学という暗黒大陸 ④命題
数学という暗黒大陸 ④ 命題とノーベル賞
副島隆彦です。 前回 ③の最後ではAI(エーアイ artificial intelligence )もウソだという話になりました。その続きです。
AIの将棋が人間に勝つようになっているけれど、実はAIと名乗っているだけで、過去の組み合わせの全てを総合しただけ。平均値を採っているだけです。 だから、コンピューターが自分で考えてるというのはウソです。これは、はっきりしている。もう今から20年前に、コンピューターサイエンスの大御所だったMITのマービン・ミンスキー(1927-2016 88歳で死 マサチューセッツ工科大学の人工知能研究所の創設者の1人。初期の人工知能研究を行い、人工知能や哲学に関する著書でも知られ、「人工知能の父」と呼ばれる。wikiから)という男が、「 AI をつくり出すには500年かかる」と言ってしまった。 だからあと500年は無理なんです。できっこない。

マービン・ミンスキー
まあ、それらしきものは死ぬほど山ほどやっているわけです。例えば自動翻訳機。これにAIが使われてるというけど、嘘です。何万人もの人を使って、あらゆる事例ケースを一つの単語ごと全部集めていって、単語と単語を並べていく。そこに法則性らしきものがある、と言ってるだけ。人海戦術でやっているだけです。AIが、勝手に何かを生み出したということはない。 「そんなことを、お前が決めつけていいのか」と言われるだろうけど、本当に知ってる人は、「実はそうなんだよ」と言いますよ。
■命題(そこに問題がある)があって、はじめて解がある
今、ノーベル賞の発表というのをやっています(2025年10月6日から)。
2025年 ノーベル賞ウェブサイト
副島隆彦です。数学に関連して、今日は「命題」について話します。 A=Bとかいうのを命題(proposition)といいます。命の題と書いて命題、というと何か偉そうな言葉になっちゃう。前提といってもいいです。本当は preposition、proposition、前のほうに置くという意味ですね。
この命題というのは、同時に1517年マルチン・ルターが(ローマ法王に向かって)ばかやろうと言いながら教会の扉にたたきつけた「95条の命題」でもあります。これをテーゼとも言う。シーシス(thesis)、命題、質問状、と普通は訳します。質問状をたたきつけて、「これに答えてみろ」と言った。

ルターの95カ条の論題
この命題というのは非常に大事なんだけど、日本の知識人階級でも(文科系は特に)よく分かっていない。数学者たちはこの使い方をよく知ってます。なぜなら「○○という式があります」と言った途端に、それは命題になるから。
フェルマーの定理というのがあって、「それは多分解けない」と言われていた。それが1995年、その証明ができたと騒がれた。解くのに300年かかりました、とか言っていたけれど、やっぱり解けていないという説が最近強い。
要するにフェルマーという学者が、「これをみんな解いてごらんなさい」と言って問題を出した。問題を出す、ということが質問なんだけど、これが命題。それで解いたというのがソリューション、解です。周りの人が「本当に解けたんだ」と感動したら、これは大変なことなんです。
実は、ノーベル物理学賞、化学賞、生理学・医学賞も同じで、命題があってそれに対する解答なんです。ある問題があって、それを解いた人が出てくると、その人がノーベル賞を受賞することになる。問題を出した人は、その(証明できた、解が出せた)時には大体死んでいて、もうノーベル賞はもらえない。だから証明した人、あるいは解を出した人が、ノーベル物理学賞とか化学賞の受賞者になる。
この考え方が非常に重要です。小室直樹先生が、1981年に書いた本『超常識の方法(―頭のゴミが取れる数学発想の使い方)』の中で一生懸命、私たちに教えてくれた。それは「ここに問題の存在が存在する」という言い方なんです。「問題がそこにあるんだ。ただ何だかよくわからない。さあ、皆さん解いてくれ」ということです。だから問題 question がそこに存在 existence する。要するに問題存在 question existence がある。 question existence が exist(存在)するわけ。それを解けという、これが命題 proposition です。
(引用はじめ、『超常識の方法』から)
〇数学が提起した「存在問題」の重要性
・・・こうしたギリシャ的な問題が中世ゲルマン的世界に持ち込まれることによって、大変な数学的論争が巻き起こされることにもなるのである。
これは、一言でいえば、”存在問題”ということであり、ある問題が起きたとすれば、その問題の対象になっているものが本当に存在するのかどうかを、まず確認しなくてはいけないということなのである。・・・
〇なぜケネディは「月着陸」を公約できたか
それでは、存在問題が現代のわれわれの生活にとってどういう意味があるのか、宇宙開発を例にとって話すことにしよう。時は1960年。当時、宇宙開発においては、アメリカはソ連に体差をつけられていた。そこでケネディは大統領になったときに「悔しい!このままでは大変だ」という世論に応えて、「ソ連を必ず抜き返し、60年代の終わりまでには、アメリカ人を絶対に月へ送ってみせる」と公約した。・・・
・・・人工衛星にしろ、宇宙船にしろ、それらはすべて物理学の領域である。物理学というのは、あのリンゴのエピソードでおなじみのニュートンが考え出した「ニュートン力学」の第二法則と第三法則を公理のごとき前提として、数学と同様、それらすべてがきちんと導き出される学問である。
(引用おわり)
副島隆彦です。別の例で示します。1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見した。スペインから出港したコロンブスが、西インド諸島のサン・サルバドル島にたどり着いた。

コロンブスのルート

サンサルバトル島
それでその向こうに新しい大陸が向こうにあるとわかった。それは実際にはアメリカ大陸なんだけど、コロンブスたちは、それをアジア大陸だと思い込んだ。
そうすると、これは私にとって昔から大事なんだけど、1513年にバルボア(1475?ー1517 新大陸からアジアに抜ける海峡を発見するための探検隊員のひとり)というスペイン人が太平洋を初めて見た。バルボアは原住民のガイドに連れられて、パナマ地峡に出た。ここは狭くて低地になっているところなんでしょう。だから今、パナマ運河が掘られているんだけど。ここを通って反対側に出ると、何か巨大な海(太平洋)があった。

パナマ運河
それからはスペイン人の船が何回も何回もたくさん来るようになって。300人ぐらい乗っている船で、当時の最新兵器である大砲などをいっぱい積んでいますから、原住民なんか皆殺しです。金銀財宝か何かをどんどん探して回るわけです。
バルボアが巨大な海(太平洋)を見て、その時はそれが何かわからなかった。そうすると、それが何なのか解いてくれということになる。それが1513年。そこに問題が存在するということが存在するわけ。これが proposition、命題になる。そこに問題を提案(postulate)したということです。
この命題を解決しようとみんなが一生懸命やる。例えばヨーロッパから船を出して、ラプラタ川という大きな川を南のほうからずっとさかのぼっていく。ところがいつまでたっても塩水にならないので、北アメリカのほうにも出られなかったことがわかる。こうやって必死で、たくさんの人が実験している。

ラプラタ川
そして、ついに1520年。前年にセビリアを出港したマゼランが4隻の船でずっと南のほうに下って、だから南米の一番南であるマゼラン海峡を見つけた。そこをぐるっと回ったら、太平洋に出た。マゼラン海峡の発見ですね。1521年にフィリピンで、マゼランは原住民に殺されて食べられちゃった。出航した4隻のうち、家来の船1隻だけが、インド(すでに見つかってた)からそこを通って、アフリカの喜望峰を渡って帰り着いた。帰り着いたことによって「実験が成功した」みたいな感じでね。experiment の成功で、このときにはじめて、地球は丸いということが証明されたんです。それが1522年です。

マゼラン

マゼランのルート
だからこのとき「問題の存在があったのが証明された」ということです。こういう考え方が、ものすごく大事なことなんです。proposition というのはそういうことなんです。ノーベル賞だって proposition を出した人がいて、解いた人が賞をもらえる。そういう関係になっている。質問したから答えましたという感じで。
みんなが知っていて解けない問題を解いたら、この人はものすごく偉いということになる。この仕組みを日本人は知らないんです。
(数学という暗黒大陸④おわり、⑤につづく)
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