「地政学」という学問(サイエンス)は、実は存在しない。
伊藤睦月です。本日は2025年9月16日(火)です。
1) 前回投稿の関連で、改めて指摘しておきますが、日本と米国で、「地政学」という学問分野は存在しません。世の中には「地政学」の名を使った書籍があふれかえっておりますが、執筆者の大半は、「シロウトさん」です。私の知る限り、「地政学」をきちんと収めた人は、「奥山真司」という人です。
地政学というのは、「古典地政学」といって、国際政治論を背景として、実際の外交や軍事に応用されている実践のスキルです。佐藤優氏のような外交官、軍事関係者、ジャーナリスト(一部)、国際政治(国際関係論)、現代史の研究者などが執筆している書物は、すべからく「古典地政学」を踏まえていて、一応「専門家」と考えてもよいと思いますが、ネット上の書き散らし、とか、エコノミストや、はたまた予備校の先生とか、我々の「シロウト談義」と大差ない議論があふれかえっています。
名前は忘れましたが、1990年年代に、CSIS(ジョージタウン大学戦略国際問題研究所:ネオコンの牙城)に留学経験のある、元朝日新聞記者の回想によると、米国大学に「地政学」が教えられているところは一つもなかったそうです。しかし、「地政学」は、国際政治分析のツールとしては、ポピュラーなもので、このことは、覇権アメにもでてきます。
さきほど、名前を挙げた、「奥山真司」ですが、私の知るところによると、奥山氏はもともと、大学時代は、地理学を学び、英国の大学(英国は、地政学発祥の国)で、学ばれ、帰国後は、地政学の古典的な文献を翻訳、解説する、ということをされているようです。入門書も執筆されているようですが、「古典地政学」の範囲にとどまっているようです。20年前の記憶なので、最近の消息はよく知りません。
「地政学」にはもう一つ、「批判地政学」という分野があって、これは、学問(サイエンス)としての「地政学」を構築しようとする試みですが、成功したかどうかは、私にはわかりません。ただ世に出回っている「地政学」本の大半は、「古典地政学」の範囲を超えていないように思います。
「地政学は学問ではない」と断言したのは、1950~70年代に活躍した、リアリストの大物学者、ハンスモーゲンソーです。彼についても、覇権アメ、で言及されています。彼の主著「国際政治」のなかで、「地政学は似非学問である」、とこき下ろしています。ナチス地政学が念頭にあったものと思われます。
ただ、「政治地理学」という学問分野は、地理学の一部門として、日米欧の学会も存在しています。「地政学」は「地理学的知見を加味した政治学」でありあますが、「政治地理学」は、「政治的トピックを地理学で解明する」学問です。
例えば、「地理的条件や、選挙区割変更による、市民の投票行動の変化」などを計量的に分析します。古典的なトピックとしては、「ゲリマンダー問題」があります。これは、副島先生や、私のような世代の、高校政治経済の教科書には、必ず取り上げられていましたが、最近では、教えられてないように思います。
とにかく、特にわが国では、「地政学本」があふれかえっていて、通俗化が進んでいますようです。この手の本は立ち読みで十分だと思います。素人談義にはうんざりです。
以上、伊藤睦月記
