「103万円の壁」見直しで地方が財政破綻することは、ありえない。財務省が総務省を恫喝して言わせているだけだ。
伊藤睦月です。今回は、「103万円の壁」について。
(1)国民民主党の要求どおりにやったら、税収分が7兆円、地方税分で4兆円税収入が減って、地方で財政破綻が続出する、ということで、全国知事会が要望を出しているが、出来レースに近い。
(2)もし本当にそうなるのなら、この程度の騒ぎではすまない。地方財政は、住民、すなわち我々一般ピーポーの生活を直撃するからだ。村上総務大臣も、各知事も、財務省とチキンゲームをやっているだけだ。本気じゃない。
(3)その理由はただ一つ。「地方交付税制度」によって地方自治体は財政破綻を免れているからだ。
(4)地方交付税は、国税のうち、所得税・法人税の33・1%、酒税の50%、消費税の19.5%、地方法人税の全額を、財務省が総務省に渡し、総務省が地方(都道府県、市町村)に配分する仕組みだ。
(5)総務省に渡す、国税の総額と内訳は、財務省が決め、各地方自治体にいくら配分するかは、一応の計算式に従い、総務省が決める。
(6)「103万円の壁」を取り払うと、所得税が減って、その分、地方へ渡すお金が減る、そうなっても知りませんよ、(総務省は財務省からくる金をその範囲で配ればよいので、財務省はあずかり知らん)というのが、財務省の考え。
(7)いや、それでは困ります、総務省に責任押し付けるのは辞めてくれ、こちらに責任押し付けるなら、交付税を増やせ(割合と交付対象国税の種類)というのが、総務省の考え。要するに霞が関界隈での主導権争いをやっているだけ、これは、戦後、交付税制度が始まって以来の争いで、「国から地方への財源移譲問題」といって、地方自治論、地方財政論のありふれたテーマの一つだ。
(8)では、実際、壁が撤廃されて、所得税(正確には所得税からの地方移譲分)が減ったらどうなるか。何も変わらない。地方がすぐに財政破綻することはあり得ない。
(9)その時の対応は、財務省がすることになれば、①不足分を増税(所得税を増税すれば、実額変わらない)
②不足分を予備費その他の財源で補充する。(現在の財源の割合をあげる)
③国債を発行する。
の3案ほど考えられるが、これは地方交付税法の改正とかそこまでいかなくても、国会の承認が必要なので、与野党とも、共産党を除き、提案しにくいだろう。だから、国民民主党も「(財源問題は)総合的に検討する」といったことしか言えないのだろう。
(10)もちろん財務省はそこまで、地方の面倒見る気はさらさらないので、なんだかんだ屁理屈を出し続けるだろう。総務省もそこまで、財務省を追い込めればよいので、「知らん顔」するだろう。総務省は財務省からきた金を、黙って地方に配るだけでよいのだから。
(11)そこで、実際は、財源不足分は、地方債(地方の借金)で補うことになる。
(12)地方債の発行は国(総務省)と協議の上決める、という建前だが、実は地方債発行額のほぼ全額は日銀が引き受ける。返済金の8割くらいは、国(財務省と総務省)が日銀に対し返済保証する。(私の記憶による)という。地方と総務省との協議内容はざっくり言えば、どこまで、日銀に引き受けてもらうか、財務省にどこまでお願いするか、協議調整がメインとなる。
(13)万が一、財政基盤の非常に弱い市町村が財政破綻しても、総務省が直接管理する(私の知っている例では、100円を超える支出はすべて、総務省の許可を必要としていた)ことになり、総務省(旧自治省、戦前の内務省)の「直轄領」が増えるだけなので、実際のところ、困らない。
(14)以上、雑駁であるが、私見を述べた。
(15)ところで、来年から年金オンリーになる私としては、年金は増えなくてもよいが、手取りが増えればよいので、減税は賛成だ。
(16)それでは、将来世代の負担が増える、彼らに対する責任はどうするのか、という問いには、こう答えよう。
(17)そんなこと本気で信じていたら、彼らの時代になるころには、我々は死に絶えているだろう。そうなっては遅い。だから、「今」が大事なのだ。
(18)100年前、いわゆる「ケインズ政策」への批判(当時も将来世代に禍根を残すという批判があったらしい)に対する、ケインズ先生のお答えだとか。(これも私の記憶)
(19)われながら、都合がよいとは思うが、この歳になると、「今」が大事になってくるのも、本音である。
(20)将来のことは、その時生き残った人たちで考えてくれ。「アジア人どおし戦わず」であれば、とりあえずはそれで良い。
以上、伊藤睦月筆