[3416]「世界の常識はウソばかり」の第3章について

会員番号5533 投稿日:2022/06/11 21:26

副島先生と佐藤優氏との対談本について、3章の123ページから、中央アジアのフェルガナのことが出てきます。これについて、若干のコメントをします。

-126ページ、3行目: 「タジキスタンのラフモン大統領の権力基盤は限定的で、国家全体を統治できていません。ですから、フェルガナ盆地を実効支配する力はありません。」

→おそらく、佐藤氏は、タジキスタンの東側のパミール高原がある、ゴルノバダフシャン自治州と混同しています。ゴルノバダフシャン自治州は、5月に地元勢力とタジクの中央政府との間で紛争が起こっています。両者の間には、常に不信感と一触即発の危険があります。

https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/05/tajikistan-un-expert-fears-crackdown-against-pamiri-minority-could-spiral

一方で、タジキスタン領内のフェルガナ渓谷(盆地)は、概ねコントロールされています。ただし、昨年の4月には、ここでキルギスの住民と春先の灌漑用水の分配を巡って、紛争が起こりました。キルギス領内に、タジク領の飛び地があるのが、問題を複雑にしています。住民間の略奪、攻撃だけでなく、両者の軍隊が出動しました。今も、キルギスータジク関係は緊張しています。これは、国境線が複雑、というか、確定していないので、起こるべくして起こります。

https://www.aljazeera.com/news/2022/1/28/guards-clash-again-on-kyrgyz-tajik-border-ceasefire-falters

一方で、ウズベクータジク関係は、ミルジョエフ大統領になってから、安定しています。最近もタジクのラフモン大統領がウズベクを訪問しました。兄貴分のウズベクとの関係をよくしておくのは、バダフシャン、キルギス、さらには、北部アフガンに集結すると言われるISホラサン州の問題を抱えるタジクにとって、重要なことです。

https://asiaplustj.info/en/node/312618

フェルガナは、シルダリア川の流域で農業用水があるので、豊かな農業生産地です。山岳地帯もあり、複雑な地形なので、中央政府の統治よりも、地元の敬虔なイスラム商人を中心とした互助経済が歴史的に盛んであったと言います。そして、住民は、政府よりも、国境を超えるムスリム商人を信頼したので、中央政府との距離が開いていったようです。中央政府は、このような地元のイスラムの動きを弾圧したので、ここから、ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)や、1999年の日本人技術者の拉致事件が起こりました。佐藤氏は、このような1999年から2000年代のことを言われたと思います。今は、そういう意味では、ある程度は落ち着いていると思います。