[1597]西欧神秘主義とフリーメイソン

大川晴美 投稿日:2014/04/27 18:06

大川晴美です。今日は2014年4月27日です。
最近、吉村正和著「フリーメイソン 西欧神秘主義の変容」(講談社現代新書、1989年)を読んで、西欧神秘主義と呼ばれる思想に関心を持ちました。
以下、この本から引用しながら、考えたことを述べます。

著者の吉村氏は、フリーメイソンを論じる視点として、
「私のフリーメイソンへの関心も、古代から連綿と続く西欧神秘主義の文脈にフリーメイソンがどのように接続するかという問題意識からはじまっている。」(p.98)
といいます。そして、フリーメイソンとは何かについて、次のように述べます。

(引用開始)
 注意しなければならないのは、フリーメイソンという組織が独自の思想・主張をもっていたわけではないということである。フリーメイソンは、さまざまな思想を包み込む「受皿」に似ていた。十八世紀のフリーメイソンにおいては、その受皿に盛られる内容が、啓蒙主義・理神論(引用者註、りしんろん)・科学主義という十八世紀を代表する思想であったということになるのである。(前掲書、p.54)
(引用終わり)

私・大川も、啓蒙主義・理神論・科学主義が十八世紀フリーメイソンの中心的な思想であったと考えます。そして、著者は続けて次のように述べます。

(引用開始)
 十八世紀のフリーメイソンには、さらにもうひとつの傾向を認めることができる。十八世紀は、啓示宗教としてのキリスト教が退潮期にあり、その影響力が著しく後退していく時代であり、それまでキリスト教が満たしていた、人々の超自然世界への欲求を吸収するかたちで、さまざまな神秘主義・心霊主義が登場してくる。(中略)神秘主義的フリーメイソンも、啓蒙主義・理神論・科学主義を中心とするフリーメイソンと並んで、十八世紀を代表するフリーメイソンであることは間違いがない。(p. 55 – 56)
(引用終わり)

(引用開始)
 一般的には、神秘主義は非合理的思考の代表的な例と考えられ、啓蒙主義は合理主義的思考を代表するものと考えられており、両者はともに相容れないとされている。ところが、フリーメイソンにおいては、この神秘主義が合理化されているのである。
 すなわち、フリーメイソンの秘密を解く鍵は、一方において自由・平等・友愛を目標とする啓蒙主義運動があり、また一方において古代の密儀宗教に遡る(引用者註、さかのぼる)神秘主義運動があって、この両者の融合を見極めることにある。(p. 114 – 115)
(引用終わり)

大川です。フリーメイソンの神秘的な特徴は、メンバー同士の秘密の合言葉、秘密の参入儀礼、さまざまな起源説などに見られます。合理主義的なはずのフリーメイソンがなぜこのような特徴を持つのか、以前から疑問に思っていたので、この吉村氏の説明で少し納得できました。

けれども私が最も驚いたのは、吉村先生による西欧神秘主義の解説でした。

(引用開始)
 西欧文明は周知のように、ギリシア=ローマ文明とユダヤ=キリスト教文明の二つの軸を中心として形成されている。西欧神秘主義は、その二つの焦点をひとつにつなぐような思考法であり、西欧文明のいわば地下水脈・地下茎(けい)として命脈を保ってきた。私にとって西欧神秘主義は、この西欧文明の秘密を解き明かしてくれる聖なる鍵(かぎ)のような存在に思われた。
 西欧神秘主義の本流を形成する二つの流れがある。ひとつは、ギリシアの密儀宗教からピュタゴラス=プラトン=プロティノス=マルシリオ・フィチーノとつながる系譜であり、もうひとつはキリスト教神秘主義の系譜である。占星術・魔術・グノーシス主義・ヘルメス主義・カバラ・錬金術は、この二つの系譜の傍流として位置づけることができる。
(引用者註 原文ではここで改行していないが、このほうが理解しやすいので改行する。)
 西欧神秘主義の根底に、神的世界への夢と憧れがあり、古代から中世、そして近代における宗教・思想・文学・芸術など、さまざまな分野で西欧的な花を咲かせてきた。神的世界への夢は、始原(アルケー)への夢といい換えてもよい。始原=根源=彼方=永遠の観念が、地下水脈・地下茎として数千年におよぶ西欧文化を支えてきたのである。
 始原(アルケー)への夢とは、簡単にいうと、人間が神と一体化しようとする試みである。(中略)人間が、最終的に神と化して、この世(よ)的な世界から叡智的(引用者註、えいちてき)な世界へと立ち帰ることが目標となる。(p. 95 – 96)
(引用終わり)

大川です。「始原(アルケー)への夢とは、簡単にいうと、人間が神と一体化しようとする試みである。」・・・しばしの間、呆然・・・。しかし、気を取り直して続けます。

吉村氏による西欧神秘主義の説明が、世界の学界において多数派なのか少数派なのか、素人の私にはわかりません。この本は1989年に出版されたもので、最新の研究成果とは異なる可能性もあります。しかし、たとえばイタリア・ルネッサンスの時代に新プラトン主義が盛んに論じられたのはなぜか、とか、アイザック・ニュートンが万有引力の法則を発見するのと同時に、現代では非科学的といわれる錬金術(れんきんじゅつ、alchemy、アルケミー)も熱心に研究したのはなぜなのか、について、西欧神秘主義がヒントを与えてくれるような気がします。(ちなみに、私にはプラトンの思想や新プラトン主義がまったく理解できないのです。)

そして、この神秘主義は、今の時代にも通じる思想でもあると思います。最先端の軍事技術は秘密・秘儀として扱われ、科学技術の一種であるにも関わらず、近代科学の一般原則である公開性の原則は適用されません。この問題は、思想の面から取り組むべき重大な課題だと感じています。

それでは今日はここまでで失礼します。

大川晴美