[1129]SBI検査が突く二大「急所」
松尾雄治です。今日は2012年11月21日です。
FACTA ONLINE 2012年12月号から転載します。
(転載貼付始め)
SBI検査が突く二大「急所」
厚化粧が剥げていく。香港取引所での「詭弁」の証拠があがった。因縁の村上も登場、いよいよクライマックスへ。
いかに厚化粧をしようが、黒いカラスは白いカラスにはなれない。塗りたくったお白粉もいつか剥がれ落ちる。
11月8日、SBIホールディングス(以下、SBI)は第2四半期決算を発表、連結最終損益は13億6千万円の赤字となった。
「投資不適格」一歩手前のトリプルB格付けを死守せんと、あらゆる手立てを総動員して赤字決算だけは阻止しようとしてきたが、とうとうその堤防も決壊した。
東京証券取引所で行った決算発表は、4月から導入した国際会計基準(IFRS)のせいと言わんばかり。実はIFRSでSBI損保の減損処理を回避したら、中国株の下げで評価損が出るなど裏目に出たうえ、資産売却の出口も上期はなく、やり繰り算段がつかなかっただけだ。
総帥の北尾吉孝に質問が飛んだ。
「ある月刊誌で、SBIがヤフーに身売りを頼んだような報道がありましたが……」
北尾は顔を強ばらせて言下に否定した。
「真っ赤な大ウソです」
本誌11月号の記事(「SBIが『身売り』工作失敗」)のことだろう。その言葉、そっくり北尾にお返ししよう。
動かぬ証拠は白金台の登記
ソフトバンク社長、孫正義と袂を分かって7年、崖っぷちに追い込まれたSBIグループを、ほぼ丸ごとヤフーに買い取ってもらう仲介を孫に頼んだことなど、口が裂けても言えないのだ。9月上旬、孫の同席のもとで、北尾がヤフー社長の宮坂学に会ったことは、ヤフー広報も認めている。
記者の前では大見得を切っても、本誌10月号(「SBI韓国投資先が騙る『孫のフンドシ』」)で詳報した通り、ソフトバンクとSBIが未だに混同されやすいことをいいことに、孫の威を借りて生き永らえているのは韓国だけではない。本誌が「粉飾紛い」と追及した最大の道具立てであるSBIファーマ(旧SBIアラプロモ)に絡む取引でも北尾が孫に頭を下げていた事実を、本誌は関係者からつかんでいる。
ここから先は、我々だけでなく株式市場も投資家も欺いた北尾の“真っ赤なウソ”を暴いてさしあげよう。
本誌4月号が報じた香港市場でこっそり行われた赤字会社の連結外し。100%子会社のホメオスタイルを23億円で売却しながら決済は現金で行わず、取引相手が持つインターネット総研の全株式からSBIが23億円分を取り、残りを取引相手に返却し、SBIが9億円(簿価との差額)の特別損失をかぶるという奇妙な取引だった。しかも昨年11月25日、リリースは東証をまたいで、香港取引所でのみ英文開示するという姑息な手を使った。
この取引相手が香港のリリースでは実名を伏せて「一個人」とされていた。実はインターネット総研の創業者、藤原洋であることは容易に察しがつく。香港での開示情報では、この「一個人」は買い手との間には利害関係がないとしていた。本誌の取材に対しても、SBI広報は「ホメオスタイル株式の買い主様には、貸し出し取引はありません」と回答していた。
これは詭弁だろう。
買い主、藤原が所有する東京の杉並区浜田山2丁目に建つ910平方メートルの豪邸では、昨年3月10日にSBIインキュベーションの57億円抵当権設定仮登記がなされ、同年10月12日に解除したばかり。港区白金2丁目の7階建てマンションでも、SBIは約36億円の抵当権を設定している。登記簿によれば、抵当権の設定は昨年6月29日。権利者はSBIグループの3社である。インキュベーションが約18億円、インベストメントがおよそ11億円。ブロードバンドキャピタルが約7億円だ(12年1月30日に解除)。
香港での情報開示の直前に、藤原個人とSBIグループとの間で行われた“確信犯的な取引”としか見えない。それを、さも第三者との取引であるかのように抵当権を消し、香港取引所や投資家たちの目をくらますリリースを出したのだ。本当はオリックスからインターネット総研株を買い戻す資金をSBIが出したため藤原の不動産に抵当権が設定され、大赤字のホメオスタイルの引き取りを条件にこの借金を棒引きしたのだろう。
天網恢々、お化粧が剥がれていくなか、思わぬところでSBIの名に国際的な耳目が集まった。習近平への政権移行で、中国指導部の莫大な蓄財の片棒をSBIが担いでいたことが明るみに出たのだ。
10月25日付の米ニューヨーク・タイムズ電子版は、中国の首相、温家宝一族の蓄財した資産が少なくとも27億ドル(約2200億円)に上ると報じた(63ページ「温家宝一族の人脈・金脈図」参照)。
「中国の首相の母はかつて一介の学校教師だった」という書き出しのその記事は、温家宝の母、楊志雲(90)が、5年前に時価1億2千万ドルの金融資産の名義人になっていたことを明かしている。エンジニア出身の温家宝が権力の階段を上がっていくにつれ、一族の富はみるみる膨れ上がった。
村上世彰リターンズ?
断然目を引くのは中国の宝石市場で「女帝」と呼ばれる妻、張培莉と、携帯電話ビジネスや投資ファンドを運営していた息子、温雲松(英語名ウィンストン・ウェン)の成功ぶりだろう。そこにSBIが登場する。
NYタイムズによれば、05年に温雲松が共同創業者となって投資会社「ニュー・ホライズン・キャピタル」を立ち上げ、未公開株(PE)ファンドを組成した際、日本のソフトバンクグループの一部門であるSBIホールディングスと、シンガポール政府投資ファンドであるタマセクなどから1億ドルを調達した。温雲松はそれをバイオテク、太陽光、風力、建設機械などの分野に投資、親の七光のせいか好成績で、SBIホールディングスによれば、投資家のリターンは4・3倍になったという。
NYタイムズ報道の数字は正しいが、ソフトバンクとSBIの関係は不正確である。この記事が、1兆円の私腹を肥やしたという薄熙来(前重慶市党委員会書記)一族失脚への打ち返しだとすると、今後の習近平政権ではSBIが反胡錦涛・温家宝派の標的になる恐れも出てきた。
北尾が精華、北京、復旦大学と組成したファンドや上海儀電集団とのファンド、アラプロモの中国販売のための合弁など、自慢の中国ビジネスが抜き差しならなくなる。すでに第2四半期でニューホライズンで13億円、海通証券株3億円、人人網(Renren)株2億円の評価損を出している。
それだけではない。国内でもSBI株に異変が起きている。10月17日、SBIの大量保有報告書に保有割合5.85%、時価総額75億円余を保有する投資会社レノが突如躍り出て、株式市場は色めきたった。
レノといえば、あの「村上ファンド」で名を馳せ、現在はシンガポール在住の村上世彰と関係が深い。これまで不動産投資で名が出るたびに「村上のダミー」と囁かれてきた。その登場を「東京市場に村上がカムバックか」と見る向きから、「SBI証券の支配が狙い」「どうせ高値売り抜け」まで種々の観測が乱れ飛んでいる。
SBI証券から親会社に貸し付け
11月に入りSBI株が急騰したのは、間違いなく村上が背景だろう。05年のニッポン放送株買収騒動では指南役の村上の手ほどきで、ライブドア社長だった堀江貴文がフジテレビジョンの心臓部を急襲した。2人の前に「ホワイトナイト」として北尾が登場し、村上、堀江はともに証券取引法違反容疑で逮捕された。今回のレノのSBI株買い集めはそのリベンジにも見える。
村上世彰のリベンジか
なにしろ、証券取引等監視委員会が10月23日からSBI証券の検査に入ったタイミングである。大量保有と株価“吊り上げ”は、まるで「僕はここにいるよ」と言わんばかりではないか。北尾は「株を持ってもらった」と強がるが、村上は「あの北尾だけは絶対に許さない」と呟いたと聞く。
監視委の検査も、関係者によれば「12月まではかかる」という。SBIは「一般検査」と強調しているが、通常およそ2週間で終わる定期の一般検査とはほど遠い。
監視委が重大な関心を持って調べ上げているポイントは2点ある――①セムコーポレーションによる不動産担保ローン匿名組合の募集に問題はないか、②ここ数年、毎期のように行われているSBI証券から親会社SBIへの800億円に上る短期貸し付けについて、担保の関連会社株にその価値があるのか、である。
後者は、SBI証券が保有する純資産の半分近くを時価総額約1300億円の親会社に貸し付けているのだが、そこに水増しやカサ上げされた担保を積んでいるのではないかという疑いがあるからだ。
12月にはSBIの生命線であるSBI債の募集が待っている。果たしてそれがかなうかどうか。本誌との攻防もいよいよ最終章を迎えつつある。(敬称略)
(転載貼付終わり)
松尾雄治 拝