[866]中国ガス田に抗議する滑稽さ

六城雅敦 投稿日:2012/02/01 21:13

■いまだに石油メジャーの支配下から抜け出せない日本政府

東シナ海の日中境界線で中国の掘削プラットホームからブローガスの燃焼が始まったことによりガス田にまで掘削が進んだと報じられております。これに対して私が感じていたことを述べます。
私はSNSI論文集「エコロジーという洗脳」(成甲書房2008年10月)で拙文「環境騒動に乗じてエネルギー自立をめざせ」という章を書かせていただきました。
日本の海上油田の掘削リグは2008年時点で第9白龍が25年前(1984年)に作られたことが最後でした。さらに泉政権時に大幅にエネルギー開発の費用が1/10にまで削られたために試掘用リグの新造はおろか試掘自体もほとんど行われなくなったからです。

私は20年前に造船学科で学びましたが、そこのテキストで使われる掘削リグの<最新の設計図>は昭和40年代のブルーコピー。船というよりも海上構造物なので最新型と比べても進歩はないのですが、それでも昭和50年代あたりで日本の造船会社は海上油田用掘削リグの開発をやめてしまったようです。当時の技術者はほとんど退職してしまい、日本国内では石油リグを設計できる技術者もわずかだと思います。

また、海上油田用の掘削リグの製造を国内造船会社が行っていたという背景は、当時の造船不況のために通産省が予算を付けただけという理由もあるのでしょう。
何を言いたいのかというと、日本は第二次石油ショック以降、海上油田の開発にはおざなりな予算だけをつけて、国策事業とはならず、ほとんど注力してこなかった現実があるわけです。
自国ガス田の開発の現状を、本文では以下のように記しています。この石油関係者とは天然ガス鉱業会と石油工業連盟です。

(転載はじめ)
私の天然ガスの自給自足という夢想に対して、石油関係者の意見は総じて悲観的である。しかし日本の石油開発は技術・資本・リスク許容すべてで見劣りし、巨大石油資本の支配下である実情を憂いているだけでは進歩がない。プーチンは強権でロシアを原油・ガスで立て直したではないか。一方、税金の垂れ流しで終わった石油開発公団という石油乞食しか擁しなかった我が国は悲劇である。エネルギー自給率が一向に上がらないのは無能官僚による人災である。
(転載おわり)

要するに日本は石油メジャー支配下にあるために、日本政府は自国エネルギーの開発は消極的です。これは石油、ガスともに業界内では公然とささやかれていることなのです。

また同時にメタンハイドレードのニュースに対しても本文中ではこのように記しました。
(転載はじめ)
省エネ政策は官僚のおもちゃ箱、便利な玉手箱であり、ぶら下がっている団体にとっては お金をひねり出す魔法の言葉である。省エネルギー・新エネルギー・代替エネルギーなどの言葉で予算のぶんどり合戦を霞ヶ関で行っているのが実態であろう。新技術はいまだ混沌として先は見えない。この主役は経済産業省と外務省である。まず国家政策でやることは国内パイプライン網の完成とガス田開発であろう。天然ガス関係の開発予算はもともと少ないが、小泉政権以来さらにじり貧である。
(転載おわり)

■油田/ガス田の開発は丁半博打の世界

いまでも石油やガスの掘削は丁半ばくちの世界です。一本油井を掘るのに何億もかけて、それでも出ないことの方が確率的に多い世界です。日本にも掘削専門の会社はありますが、野球選手のようにハズレの多い社員はあっという間にクビにされます。1000m、2000mとさらに掘って石油やガスが湧出るかどうかという自身のクビもかけた仕事なのだそうです。アメリカのメジャーリーグの世界のように、採掘の総責任者は実績を積めば高い年収で世界中を渡り歩くし、空振りが多いとあっという間にお払い箱になるそうです。

何が言いたいのかというと、洋上掘削は一本掘るのでも何億円もかかる世界であり、不慮の事故が発生するかも知れないし、とにかく不確定要素や作業環境、費用が膨大なのです。

そのような悪条件では試掘をできるのは民間企業では無理で、国策事業や石油メジャーでしかありえません。
そして今回は中国は国内エネルギーの逼迫をうけて、日中排他海域内で掘削して成功をしたというだけです。
この近辺にガス田があるという調査は30年前に判明していながら何もしていない日本と、行動を起した中国では国際的な見方は中国寄りであることは間違いありません。

山師(やまし)の世界では鉱物資源は早い者勝ち、リスクをとって掴んだ方が勝ちなのは世界の常識です。後出しじゃんけんで何を言っても聞き入られることは絶対にありません。

「中国の掘削が成功してしまった~いちおう抗議しよう」なんて飴玉とられたガキのような対応は世界の笑いものになるだけです。
もし抗議するのであれば、日本も掘削リグを10基ほど沖合に並べていうべきなのです。一円もだしていない者が抗議できるなどと考える方が可笑しいのです。

中国に抗議する前に石油開発を担当する通産官僚の責任を問うことのほうが先決でしょう。

(転載はじめ)
<東シナ海ガス田>日中中間線付近の施設で炎、中国が採掘か
東シナ海のガス田開発問題で、日本政府は日中中間線付近のガス田「樫(かし)」(中国名・天外天)の採掘施設から生産活動を示す炎が出ていることを確認した。藤村修官房長官は1日の記者会見で、中国が単独開発を進めている疑いがあるとして、1月31日に外交ルートを通じて中国政府に抗議したことを明らかにした。(毎日新聞)
(転載おわり)