[444]福島第一原発からの大気への放射性物質放出量はきちんと計算されているのか?

ジョー(下條竜夫) 投稿日:2011/04/14 19:17

皆さん、福島第一原発の十数キロ先にある、福島第二原発の放射線量がどれくらいだか、ご存じでしょうか?昨日、菅直人首相が「福島原発付近にはもう住めない」と発言したのだから、二十キロ圏内に入る福島第二原発は、ものすごく高い放射線量が予想されます。

ところが、実際は2.7マイクロシーベルト。これはどれくらいの量かというと、50キロ以上離れた福島市とほぼ同じです。年間にしても20ミリシーベルト程度ですから、もう少し減れば、ここは、避難勧告地域からはずれる、それぐらいの線量です。

福島第二原発だけでなく、福島第一原発の南の方は、かなり低い放射線量みたいです。

下は原子力安全委員が出しているSPEEDIという計算システムの結果です。南にも大きな放射能汚染地域があって、まったく現実の様子をあらわしていないのがわかります。もともと放射能がどれくらい広がるかを予測するためのシステムであり、漏れの量自体がわからないと、うまく再現できない、そういうことだと思います。

第22回原子力安全委員会資料
外部被ばくの積算線量(3月12日から4月5日までのSPEEDIによる試算値)
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan022/siryo1-3.pdf

さらに、問題がもうひとつあって、福島第一原発二十キロ圏内のデータ(モニタリングポスト)が、ひとつもないということです。どうやら、地震で壊れ、避難勧告がでてしまったため、測定をしていないらしい。だから、二十キロ圏内の放射線量データとあわなくても構わない、というかデータが存在しないのだからどうしようもありません。福島第二原発のデータさえ使っていないように見えます。

ところが、恐ろしいことに、どうやら、福島第一原発からの大気への放射性物質放出量を、このシステムをつかって計算しているようです。この放射性物質放出量は「チェルノブイリの1/10」と4月12日に発表された量です。つまり、本来はどれくらい広がるかを予測するシステムなのに、逆につかって、放射線量の測定結果から福島第一原発からの放射性物質放出量を特定しているようです。詳細は発表していないのでわかりません。ただ、「1)推定は、現在まで得られている環境モニタリング等のデータと大気拡散計算から特定の核種について大気中への放出量を逆推定する手法で行いました。」とあるので、今のところ、それ以外の計算方法は考えられない。

ところが、今いったように、二十キロ圏内の放射線量データがないから、その外側のデータのみから予測しないといけない。さらに、テクニカルなことをいうと、拡散方程式を主につかっているので、中心(原発)が最高になり、そこからなだらかに降りていく「釣り鐘型」になります。アメーバーみたいになっているのは風の効果により、その釣り鐘を「ゆがめているだけ」で、基本は変わりません。

このような計算方法では、遠くにわりと高い放射線線量が観測された場合(浪江町、飯舘村(いいだてむら))、中心付近(福島第一原発)は、ものすごく高い放射線線量値になります。これらを福島第一原発付近のデータと照合すればいいのですが、今いったように、二十キロ圏内のデータは存在しません。

また、さらに、当然のことながら、そこから予測される放射能性物質放出量も、極めて高いものになります。上のファイルの図を見てもらえば、中心から漏れるようにでているのが、わかります。

でも、2.7マイクロシーベルトという福島第二原発の放射線量からもわかるように、このモデルは破綻しています。実際は、西村肇先生が計算したように、煙筒のような効果で遠くが強くなったりするからです。私は、3月15~16日に三度大量にでた放射線物質のうちの一回が、浪江町で雨で落ちたのではないか、その効果を見ているのではないか、と深く疑っています。しかし、この計算ではこの効果は入れようがない。拡散方程式では中心を動かさないからです。(テクニカルに言えば、時間依存にして、浪江町に拡散方程式の中心をもうひとつ作ってやれば、現実を少しは反映するでしょう。)

放射性物質放出量を、このシステムをつかって計算しているかは定かではありません。確実に言えるのは、放射性物質放出量を同様な方法で計算すれば、実際(現実)よりも、ものすごく高い放出量になるということです。

下條竜夫拝