[133]北朝鮮・韓国砲撃合戦 への ブレジンスキーの自署記事(戦略論文)を載せます。これが最高度での現状への理解です。
副島隆彦です。 3日前の11月23日に起きた 北朝鮮・韓国の砲撃合戦(こういう砲撃は割とよくやっている。中国と台湾の馬祖=ばそ=島でも。ただし民間人は死なないように撃ち合う) のことを受けて、書かれた重要な 戦略論文(新聞記事)を、載せます。
この記事(小論文)を読むことが、事態への、最高度の理解となります。
書いたのは、スビグニュー・ブレジンスキーという世界戦略家(ワールド・ストラテジスト)です。 ヘンリー・キッシンジャーと同格の大物のアメリカの軍事・外交の戦略家です。 この ふたりが、昨年(2009年1月)のオバマ政権発足の直前の1月初旬)に、北京に飛んで、「今後は、G2(ジー・ツトゥー)で世界を管理してゆこう」という世界戦略を決めたのです。
G2 とは、もちろん、アメリカと中国です。 それが、少しうまくゆかなくなった、とブレジンスキーは、以下の文で少し、本音で溢(こぼ)しています。
副島隆彦が日本の国家戦略家として、彼らの即席・緊急の論文を分析するといろいろなことが分かります。 ブレジンスキーでも、3月23日の韓国・哨戒艦(しょうかいかん、潜水艦攻撃用のデストロイヤー)沈没(誰も撃沈とは書かない。お笑いだ) 事件を、北朝鮮のせいにする、という謀略政治に故意に加担するのなだ、と やや、失望します。
それでも、ブレジンスキーは、元祖ネオコン(第一世代の米民主党系ネオコン、スクープ・ジャクソンらと)なのに、今の第3世代ネオコンが、大敗したはずの、イラク、アフガニスタン戦争にも、まだ懲りず、次に、無謀な、極東(ファー・イースト)での戦争を仕組んで仕掛けようとすることに対して、強く牽制(けんせい)していることが良く分かります。
以下の記事(小論文)をじっくりと5回ぐらい読むといいです。くだらない日本国内の、頭の悪い人間たちの解説記事や文章など、読む必要はありません。 彼らは、ただの属国泥棒(人まね)学者・言論人たちです。
以下のズビグニュー論文を、翻訳してすぐに私にも送ってくれたのは、私たちの学問道場の研究員のひとりです。 彼が、何かに遠慮して、ここに貼り付けてくれないので、私がやります。
スビグニューは、「グランドチェスボード ユーラシア(大陸)の地政学」(つまらない変な書名で、日経新聞から翻訳が出た) の著者であり、この大戦略論文 を 下敷き(青写真、ブループリント)にして、2001年からのアフガニスタン侵略戦争 と 2003年からのイラク戦争を アメリカは始めたのです。きわめて良く書けている本です。
「地球をグランド・チェスボード、すなわち、大きな碁盤(ごばん)の目に見立てて、ユーラシア大陸を、アメリカの世界支配用に切り分けてゆく」 という構想で書かれている論文です。中央アジアのキルギスや、タジキスタンなどのことも実に正確に書かれていました。
ブレジンスキーが、以下の文で、 a state 「ある国」が、中東(ミドルイースト)でアメリカの言うことを聞かないから、それで仕方なく 極東(ヒガシアジア)で、戦争を仕組まなければいけなんじゃないか、と、「ある国」すなわち、イスラエルに あてつけの 怒りを表明しています。ここで、私は大笑いをします。 「あんたらも、大変だなあ」と、私は、自分も目先の仕事を抱えて大変ですけど、ポツリと言ってしまいます。
スビグニューの以下のFT(エフ・ティー、英フィナンシャル・タイムズ紙)への自署記事(戦略論文)を、じっくりと読みなさい。そうすれば、世界が、どのように動いているのが、分かるようになります。
幕末の英国外交官で、戦略家のアーネスト・サトウが、横浜の租界地で、ぽろりと書いた英文記事が、「英国策論」と訳されて、それを、幕閣(老中たち)や開明派の大名、討幕派までが熱心に読んで、それが、坂本竜馬の「船中八策」になったのです。 そういうものですよ。
副島隆彦拝
(転載貼り付け始め)
( N研究員の文章と、翻訳文)
・・・・それでは、以下、私が急ぎで、おおざっぱに訳しただけですので、多少の誤訳もあるかもしれませんが、大きな内容をつかんで頂けると思いますので、ご参照ください。
この記事でアメリカの考え方が分かれば、こんどは、中国の要人たちが、今回の北朝鮮砲撃事件に対してどのような発言をしているかという記事を探して、また後ほど、ご紹介したいと思います。
(転載翻訳引用始め)
● “America and China’s first big test”
「アメリカと中国にとって最初の大きな試練」
By Zbigniew Brzezinski
(ズビグニュー・ブレジンスキー筆)
Financial Times(フィナンシャル・タイムズ)
November 23 2010(2010年11月23日)
http://www.ft.com/cms/s/0/a7d6c130-f73e-11df-9b06-00144feab49a.html#axzz169yEZ8F3
We are faced today with the second provocative warlike act committed in recent
times by North Korea. The first of these, the torpedoing of a South Korean warship,
was covert: the origin was deliberately disguised. But the consequences were overt
and painful. This current action is clearly overt. The origin of Tuesday
’s attack is identified beyond a shadow of doubt. It is an outrageous action that
could qualify even as an act of war.
私たちは、今日、北朝鮮による二度目の挑発的で実戦のような攻撃に直面した。最初の攻撃であった韓国軍艦への魚雷攻撃は、秘密裏に行われた。
その発端は意図的に隠されていた。しかし、その結果は明らかであり悲痛なものであった。今回の行為は明らかにおおっぴらである。火曜日の北朝鮮の攻撃の出所は疑いもないほど明白に突き止められている。これは法外な行動であり、戦争行為とみなされうる行為である。
This raises fundamental questions. If these actions are deliberate it is an
indication that the North Korean regime has reached a point of insanity. Its
calculations and its actions are difficult to fathom in rational terms.
Alternatively it is a sign that the regime is out of control. Different elements in
Pyongyang, including parts of the military, are capable of taking actions on their
own perhaps, without central co-ordination. That is an even more ominous
possibility.
これは根本的な疑問を提示している。もしこのこれらの行為が計画的で意図的なものであったならば、北朝鮮政権は、すでに狂乱状態に至ったということを示している。
しかし、彼らの行動や目論みを理性的な観点で推し測るのは難しい。そうではなくて、北朝鮮政権がコントロールできない状況に陥っている兆候なのである。平壌(ピョンヤン)政府の他の部局は、軍部も含めて、中央からの統率がきかないまま勝手な行動をとれる状況にあるのか。これはむしろ、さらに悪い可能性である。
So what is the world to do with a problem that has long vexed the major powers
without a hint of resolution? Here we enter another realm of uncertainty because it
is increasingly apparent that we are dealing with a clash of two alternative
historical perspectives between the two major powers indirectly involved and
actively engaged, namely the US and China.
それでは、世界の主要諸国が解決のヒントさえないまま長年悩まされてきたこの問題をいったいどうすればいいのか。
ここで私たちは、さらに不確定な領域に足を踏み入れることになる。
つまり、この問題を考えることは、アメリカと中国という2大覇権国の間にある、歴史的に異なるふたつの視点(見解)の衝突を扱うことになるからだ。このことは、次第にあきらかになってきている。
In the case of China we are dealing with a regime that is historically
self-confident. It perceives tectonic shifts in the distribution of global power as
ultimately favourable to its prospects. It senses its power is growing and this
leads to a posture of great self-restraint, even passivity and reluctance to rock
the boat.
中国を考えるということは、歴史的にも自信を持った政権を扱うということだ。中国は、世界の権力配分が、最終的には自分たちにとって好ましい構造変化をするであろうという受け止め方をしている。
中国は、世界における自国の権力が増大していること感じている。そのため、かえって自制的な態度をとるようになっており、事を荒立てるのを避けようとさえしている。
The other major power concerned with these events - the US - is in a
rather different historical phase. Public discussion is increasingly dominated by
the perspective that historical trends are against America. And so Washington is
preoccupied with the need to mobilise a collective response and is frustrated by
the relative unwillingness of others to share with it cumbersome responsibilities.
いっぽう、もうひとつの覇権国であるアメリカも、このたびの一連の事件に懸念を表明してはいるが、アメリカの場合、中国とは異なる歴史の段階にいる。おおやけの議論でも、歴史の潮流はいまやアメリカには不利な方向で対峙をしているという見解に独占されるようになった。
そのためワシントンは、集団的自衛権による反撃に出る必要があるという考え方に心を奪われている。しかし同時に、他国がその重荷となる責任を分担したがらないことにいら立ちを感じている。
Making matters worse, America is bogged down largely alone in a prolonged
decade-long misadventure in an area ranging from the Middle East proper to
south-west Asia. More recently, some major US diplomatic efforts to bring peace to
the Middle East were successfully defied by a state totally dependent on America.
さらに悪いことには、アメリカは、中東本土から西南アジアまでの地域で、10年にも渡って続く地域紛争の災難にひとりとらわれたままである。
さらに最近では、中東に和平をもたらそうとするアメリカの主要な外交努力が、アメリカに完全に依存するある国によって完全に無視されてしまった。
In these circumstances there is a real risk we may find ourselves in a situation
where the Chinese favour an under-reaction that will simply lead to further acts of
provocation, and where America may be inclined to push for a response that the
Chinese will see as a dangerous overreaction.
こうした状況のなかで、もし中国があまり対応しないことを好むのなら、さらなる挑発行為を招くことになるだろう。そしてアメリカは、中国が好まないさらに危険な過剰反応を、北朝鮮に対して示す結果になるかもしれない。
It is important that President Barack Obama displays cool, firm and globally
visible personal leadership in working with China and the other major parties in
the six-party talks. If I were back in the situation room in the White House asking
myself what I would advise the president, this is what I would do.
バラク・オバマ大統領は、冷静で断固とした、世界的にもアピールするリーダーシップを、中国や他の6ヶ国協議のメンバー国との会談の場で示すことが重要である。
The president has to take the initiative. Provocation of this kind cannot be
dismissed lightly or left in the hands of diplomats. He should call President Lee
Myung-bak of South Korea to reassure him personally and directly of US support.
Then he should call President Hu Jintao of China and express serious concern. He
should call Prime Minister Naoto Kan of Japan, as America
’s prime ally in the Pacific and given its proximity to the Korean conundrum. He
should also call President Dmitry Medvedev of Russia. Hillary Clinton, US secretary
of state, should then follow up on these calls and set in motion convening the
United Nations Security Council.
オバマ大統領が、イニシアティヴを取らなければならない。このたびのような北朝鮮の挑発行為は、軽く流されてはならないし、外交官の対応だけに任せるようなことをしてもならない。
オバマ大統領は、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領に電話をして、彼が個人的で直接的なアメリカからの支援をすることを確認するべきである。それから、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)首相に電話をして、非常に憂慮しているということを表明するべきだ。
日本の菅直人首相にも電話をして、アメリカの太平洋における主要同盟国として、朝鮮問題に対処するアメリカの代理人としての役割を与えるべきだ。また、ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ大統領にも電話をするべきである。そのあとで、米国務長官であるヒラリー・クリントンは、このオバマからの電話に続いて、国連安全保障会議の招集の準備を始めるべきである。
North Korea has been defiantly challenging the international community in a way
that Saddam Hussein was not, at least overtly, and which the Iranians are not quite
doing. The Iranians are maintaining, maybe mendaciously, that they are not seeking
nuclear weapons. That is a different kind of challenge in which our response has to
be the insistence that they prove their case. The North Koreans, however, are
defiant, boasting their nuclear prowess and now openly provocative.
北朝鮮は、明らかにサダム・フセインさえもやらなかったやり方で国際社会への挑戦を仕掛けていることは明らかである。
サダム・フセインをも超えるようなやり方で、なおかつ、イラン人でもやったことがないような手法でである。
イラン人たちは、おそらく偽りであるが、核兵器を求めてはいないと主張し続けている。この場合は、彼らにその事実を証明するように強要し続けるという形で、北朝鮮とは異なった対応をするべきである。
しかし北朝鮮の場合は、大胆で、傲慢にも自分たちの核戦力を誇示し、いまや明らかに挑発的、挑戦的になっている。
One of the things we have to discuss in these conversations is the possibility of a
selectively punitive embargo on North Korea in the area of high-tech and energy.
This would be a tempest in a teapot were it not for the fact that Pyongyang has
nuclear weapons and some manifestations of insanity in the regime.
この会談の中で話し合われるべきことのひとつは、北朝鮮に対するハイテクとエネルギーなどの特定の分野での懲罰的な輸出禁止措置を実施する可能性についてである。しかしこの対応は、平壌が核兵器を持っていて、その政権内が狂乱状態にあるということが事実でないのならば、ひと騒動になるだろう。
Critically, however, our approach to China should not be adversarial. It is not in
America
’s nor China’s interest to create massive popular hostility. Governmental
disagreements can be managed: they are the stock of international affairs. But if
you arouse public emotions, such crises become harder to control and dangerous.
しかし、決定的に重要なことは、我々のアプローチは中国の意に反するかたちでは行われるべきではないということである。
巨大な民衆的な対立を引き起こすことは、アメリカの利益にも中国の利益にもならない。政府間の意見の相違は、管理・調整することができるだけの国際情勢の積み上げがある。
しかし、一般大衆の感情をかき立てると、そうした危機は制御することが難しく、かつ危険でもある。
A call from Mr Obama to Mr Hu should be a call between leaders who share a concern.
It should not be an American demand, nor an admonition. It should be an affirmation
that our respective interests are endangered and so we have a common stake in an
effective response.
胡錦濤(フー・チンタオ)首相へのオバマ大統領からの電話は、おなじ懸念や利害を共有するリーダーどうしの会話となるべきである。
アメリカが中国に対して、何かを要求したり忠告をしたりするというものであってはならない。
それは、お互いの国益が危機にさらされており、私たちが効果的な対応をすることによって共有する利害がある事実を確認するものであるべきである。
The writer was US National Security Adviser from 1977-1981
筆者は、1977年から1981年まで米国安全保障問題アドバイザーをつとめた。
(転載貼り付け終わり)
副島隆彦拝