「【書評】『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠―このままでは日本の経済システムが崩壊する』(菊池英博著、ダイヤモンド社)」他
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2007年07月04日08時57分
「【書評】『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠―このままでは日本の経済システムが崩壊する』(菊池英博著、ダイヤモンド社)」
誠実で勇気のある本が出た。小泉前首相と竹中前金融相による構造改革はビジョン無き破壊活動だったと喝破し、郵政民営化の実現により国民生活が崩壊の危機にひんすると警告する。
郵政民営化で危惧(きぐ)されることは、資金の海外流出による金融システムの崩壊である。現在、郵政公社が保有している日本国債のうち、約200兆円が海外へ投資されると推測する。三大メガバンクも計54兆円の国債を抱えている。国債が売られれば、長期金利は上昇し、膨大な信用収縮が発生する。
菊池氏は小泉政権発足直後から「構造改革は大前提から間違っている」と指摘してきた。政権発足直前の2000年度の不良債権比率はほぼ正常の5%まで低下し、50兆円を超える預金が余っていたからである。そして、デフレ下での緊縮財政が経済を疲弊させたと分析する。
驚くべきは、金融庁が意図的に不良債権を増やし、UFJ銀行をつぶしにかかったとの指摘である。2002年10月に発表された「金融再生プログラム」の骨子は、資産査定の厳格化による不良債権の加速処理と、繰り延べ税金資産の圧縮だった。これが金融システムを弱体化した。
UFJは2004年3月期の決算で東京三菱銀行を上回る8000億円近くの業務純益を上げていた健全銀行だったが、金融庁に1兆2000億円の貸倒引当金を積むように指示されると著者は客観的事実を説明する。多額の不良債権があるからとの理由だった。外資に売られることを警戒したUFJ銀行は、自らの経営判断でつぶされる前に東京三菱銀行との合併を選んだという。
本書は過去の政策への批判にとどまらず、国民経済を守るための政策提言を明示している。郵政民営化をやめて公社に戻すこと、投資の促進や、ペイオフの停止、金融機関に対する時価会計適用の停止、国債安定化基金の創設などにもふれている。
本書はあくまで専門書の分類に入る。しかし、破滅的なシナリオが避けられるかどうかは、この重大な問題が広く知られるかどうかにかかっている。【了】
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 経済アナリストの菊池英博氏に聞く(1)2007年09月27日02時15分
広がる格差、豊かさを実感できない「景気回復」。期待を寄せていた構造改革が国民のためには「すべて改悪である」と聞かされたら、あなたはどう思うか。
6月中旬に刊行された『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠・このままでは日本の経済システムが崩壊する――ゆうちょ銀行、かんぽ生命が引き金を引く――』(ダイヤモンド社)は、小泉・竹中改革の本質を明快に分析している。著者の菊池英博氏に、景気の真相や構造改革の今後の国民生活への影響などを聞いた。
―新著を発表された動機は。
「小泉前首相や竹中氏の政策を引き継ぐ安倍内閣では、真の景気回復は望めないどころか、このままでは日本経済そのものが破壊されることが確実になっているからだ。『構造改革』は『ビジョンなき破壊活動』である。わたしは『構造改革』は経済学的にも歴史的教訓から見ても間違った政策であり、『構造改革』を実行すれば、間違いなく財政面では財政赤字が拡大し、金融面では金融システムが不安定化すると予言していた。経済政策は本来、客観的データや歴史的教訓などを踏まえて決定されなければならない。こうした点を無視した政策では、うまくいくわけがなく、結果としてデフレが一段と深刻化し、そのツケが増税であり、金融システムの不安定化である。この矛盾を明示したかった」
―現在は「いざなぎ景気」以来の好況と発表されているが。
「多くの国民は好景気という実感が持てないのではないか。それもそのはず、実質GDPは名目GDPからGDPデフレーターを引いた値にほぼ一致する。だから、デフレ下ではマイナスとマイナスでプラスになる。具体的に見ると、2000年度の名目GDPは503兆円で、2006年度は506兆円であり、6年間でわずか3兆円の増加(0.6%の増加)に過ぎない。ところがこの間、GDPデフレーターは累計でマイナス7.9%であるから、実質GDP成長率(名目成長率マイナスGDPデフレーター)はプラス8.5%となり、年平均でプラス1.4%となるのだ。そこで経済が成長していると政府は言っている。これは統計上の詐術である。2000年度に298兆円あった家計の可処分所得が2005年度、283兆円になり、15兆円も減っていることがこれを裏付ける。家計の貯蓄額はこの間23兆円から6兆円まで17兆円減っている。つまり国民は、貯金を取り崩して必死に生活しているのである。景気が拡大しているというなら、なぜ減税をしないのか。増税路線ではないか」
―具体的には、政策のどのような点が間違っていたのか。
「まず、財政政策では、デフレが進んでいるときに緊縮財政を組み公共投資を削減すればデフレは深刻化・長期化するし、財政赤字が拡大して政府債務は増加する。これは当然のことであり、1930年代の米国と1930~31年の昭和恐慌の教訓で明白な事実だ。それを無視してやったのが小泉・竹中構造改革であり、今でも継続している」
「2番目には金融システム安定化策、つまり不良債権の加速処理だ。『不良債権があるから、その分だけ資金が固定化され、成長産業に金を回せない』というのが竹中平蔵氏の見解だった。しかし、小泉政権ができる前の2000年に不良債権比率は5%まで低下し、解決していた。不良債権を作ったのは、小泉内閣のデフレ緊縮政策である。竹中氏が出てきて、不良債権を自ら増やしておいて、『不良債権を回収しましょう』と資産査定を厳格にし、不良債権を激増させた。その小泉内閣が不良債権処理を加速しようというのは、まさにマッチポンプではないか」
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 経済アナリストの菊池英博氏に聞く(2)2007年09月28日07時20分
―平成の大不況が大恐慌に発展したのは、米国と逆の政策を採ったためと書かれていますね。
「日本は1995年からの金融恐慌に際して、1990年代米国のS&L(貯蓄貸付組合)への措置をまねたことがスタートラインとして大きな失敗だった。特に旧大蔵省『金融システム委員会』の委員だった池尾和人氏、伊藤隆敏氏、堀内昭義氏、翁百合氏らは公的資金注入に反対し、当時の実情に合わない的外れなことばかり言ってきた。1990年代前半の米国の措置は中小銀行を対象にしたものだった。それをまねしようとして適正を欠く提言を行っていた。平成金融恐慌では大手銀行が対象になるからであって、1990年代のアメリカの政策は当てはまらない。大手行は株を大量に持っていたため、被害が大きくなった。だから参考にすべきは「大恐慌タイプ」の1930年代の米国だったはず」
「米国は1933年施行の新銀行法(グラススティーガル法)で、銀行の株式保有を禁止し、金融機関への時価会計の適用を無期限延期し、この方針は実に1993年まで60年間も継続した。1990年代の日本では、これと同じことが発生し、株価が下がると含み損が発生し、自己資本比率の低下を招き信用収縮を引き起こしたのである」
「そして、1998年6月に深尾光洋氏や池尾和人氏、伊藤隆敏氏、翁百合氏、香西泰ら『金融監督政策研究会』が提言を発表した。この案では、不良債権が多ければ、大銀行でも破たんさせ、ブリッジバンクを政府が設立して破たん銀行をその管理下に置くという案であった。大手行を一方的につぶしたらどうなるか。金融恐慌が一挙にぼっ発し金融システムが破壊されてしまう。その後、わたしが提案したように大手銀行に公的資金を注入する方針を決めて金融システムが回復した。危機の認識を誤り、大手行の株式保有がもたらす金融システムへの危険性を分からなかった市場原理主義者たちが、当時の市場を混乱させたのであり、彼らが現在でもまだ金融審議会に残っている。本来なら10年前に公職から追放(パージ)すべきである」
―彼らは認識が甘かったというより、米国の手先としてわざと企業破たんをもくろんだ可能性は。
「それはないと思う。このブリッジバンク法案が間違っていると言ったのは、米国のグリーンスパン(当時の連邦準備制度理事会議長)だから。彼は親切にも1995年のG7の会合で、『日本は1990年代の米国より、1930年代の米国を参考にすべき』と助言している。わたしは米国を悪く言うつもりは全くない。米国のまねをして日本に合わない政策を導入しようとしたのは、日本の学者(ブラインド・オポチュニスト)だ。不況のとき時価会計を入れたり、デフレのとき緊縮財政をやったりする日本人を見て、米国の心ある識者は内心『ばかだねえ』と思っている。
―国際会計基準の導入は米国の要求で行われたはずでは。
「それは確かだ。ただし、デフレのときに採用する必要はない。いつやるかは日本の判断であり、議論すればいい。それから、日本がどんどん悪くなることを米国はそれほど希望していない。わたしが2003年12月にベン・バーナンキ(当時、連邦準備制度理事。現在は同総裁)に会ったときに彼はこう言った。『世界で需要があるのは、米国と中国だけ』と。日本はなぜ需要喚起させないのかとの趣旨とも受け取れる。日本の需要が増加して輸入増加すれば、米国もプラスなはずだ。対日要求があることは事実だ。しかし、日本の現状に合わない米国のシステムを盲目的に日本に受け入れる学者と政府が間違っている。日本にとって適切な意見を持っている学者が政府の周りにいないのが残念だ。竹中氏がやってきたことは全面的に間違っている。結果を見れば分かることで、日本はまだデフレが続いており、金融システムはかってないほど弱体化している」
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 経済アナリストの菊池英博氏に聞く(3)2007年09月29日07時53分
―郵政民営化による破滅的なシナリオは、完全民営化の2017年でなく、今年10月から始まる可能性もあるのですか。
「理屈上、あり得る。国債の書き換えが順調に進むか、新規国債の引き受けが進むかどうか、確証はない。今まで国債を買っていた資金が金利の高い外国の債券の購入に充てられるようになると、日本の国債は売れなくなる。そして金利が上がる」
「今、郵政公社全体で368兆円の資金があり、266兆円を国債の購入に充てている。民営化で200兆円ほどの資金が日本から海外に出ていくと予想され、国債が売れなくなれば、長期金利が上昇し、大量の国債を保有している日本の大手銀行では多額の国債評価損が発生し、大規模な金融不安が起こる。3大メガバンクは合計で54兆円の国債を抱えている。大手銀行はBIS(国際決済銀行)の自己資本比率規制で自己資本を8%以上要求されているから、国債が暴落すれば、評価損だけで自己資本がかなり目減りし、貸し出しを圧縮しなくてはならない。ここで大規模な『貸しはがし』が起こる。長期金利わずか1%の上昇だけで、国内銀行全体で43兆円の信用収縮(貸し渋り)が起きると理論値だけでは予想される」
「特に地方は深刻だ。今すでに、公共投資の削減と地方交付税の縮小でお金が流れなくなっている。国内総生産(GDP)で見ると、大都市でプラス成長だが、地方はほとんどマイナス成長である。地方の民間銀行等は、いつつぶれるか分からなくて不安な状況だ。メガバンクに持っていこうか、郵便局に持っていこうかと。そこに『ゆうちょ銀行』が出てくれば、民営化されても政府が株式を100%持っているので、超優良銀行の誕生ということになり、地方銀行や信用金庫などは業態不振になって、半分はなくなるだろう」
―「金融庁がUFJ銀行を意図的に破たんさせようとした」のは、最初から3メガ化をもくろんだのか、売り飛ばしを狙ったのか。
「恐らく、両方あるのではないか。これは竹中氏の考えでしょう。『日本は銀行が多すぎる』と言っていたから。しかし、わたしが書いたように、日本はオーバーバンキング(銀行過剰)ではない。むしろ銀行等の少なすぎることが不安定要因になっている」
「UFJ銀行が狙われたのは、不動産関連の融資が多いため、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)と呼ばれる手法や減損会計を使って財務内容を次々に悪くすることができたから。DCF方式では5年後の貸出債権の回収具合を判断するから、不動産価格が下がっているときは、そのまま下がるとみる。年2%下がっていたとすれば、5年後にはマイナス12~13%になり、『これでは返せない、不良債権だ』ということになる」
「UFJは2003年の決算のとき8000億円の業務純益を上げていた。そこに金融庁が1兆2000億円の貸倒引当金を積ませたために、4000億円の赤字にさせられた。当時のUFJは信用不安を起こしているわけでないし、預金が減っているわけでもない。株も売られていない。一生懸命つぶそうとしたのは金融庁である。UFJは『行政リスク』を回避するため、東京三菱銀行に逃げ込んだ。
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 経済アナリストの菊池英博氏に聞く(4)2007年09月30日05時54分
―国の借金はネット、すなわち金融資産を引いた純債務で見なければならないと主張されてきたが、社会保険庁解体による金融システムへの影響はあるか。
「社会保険庁の役割は、年金基金の徴収と年金の支払いだ。金融システムへの影響という面から見ると、危険はこの年金基金で購入している国債が書き換えられなくなるときではないか。国の借金が公共投資を抑える口実にされてきた。しかし、政府は2007年3月末現在、GDPを上回る580兆円(推計値)の金融資産を持つ。外貨準備、内外投融資、年金基金や国民健康保険基金(社会保障基金)などである。
米国は920兆円の国債を発行しており、うち25%を外国人が保有し、その40%(約90兆円)を日本が保有している。最近、発展途上国が新規分はユーロに向けていると伝えられており、米国離れが進んでいるのではないだろうか。もしこの傾向が継続すると、米国は台所に火がついて、財政が破たんしてしまう。だからわが国に郵政公社の民営化を要請し、その資金で対外的債務(約2兆ドル、240兆円)を安定化したいのだろう。
―巻末に「社会的に行動すべし」とあったが、国民レベルでどうすればよいのか。
「当初述べたとおり、わたしは2001年からの『構造改革』は『ビジョンなき破壊活動』と思っており、安倍内閣でも継続されている。この破壊路線を止めるには、最後には政治になるが、一人ひとりが立場上、できることをすべきであろう。国民は政府の政策をよく判断して、選挙や社会的活動をすることではないだろうか」
「最近、偽装事件が相次いでいる。『構造改革』は、本質的にも偽装されたもの。規制緩和の下でこうした偽装犯罪が許される風潮ができているのではないかと懸念する。しかも、ある意味ではマスコミがこうしたムードをたたえてきたのではないか。象徴的な例が、2005年の『9.11選挙』だ。特に民放テレビは『郵政民営化がいい』と宣伝し、『女刺客』を正義であるかのように放映した。これに便乗したのがフリーターやニートなど、小泉改革の犠牲者になっている人だと聞く。これは恐ろしいことだ。事の重大性を認識して、自ら考え行動を取ってほしい」
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 経済アナリストの菊池英博氏へのインタビューを終えて 2007年10月01日03時26分
菊池先生の著書とご自身に出会い、いろいろなことを知った。UFJ銀行が金融庁によってつぶされたという事実もその一つだ。「事実」というのは、不良債権として積み増しを指示された貸倒引当金の60%が、合併直後に戻っているからである。健全債権だったことを、金融庁自らが告白したことになる。合併は一体何だったのか。
「行政リスク」(当時、日本経済新聞が使用)という言葉は皮肉である。行政は本来、金融システムを守るべき立場にある。ところが、行政の活動が銀行を破たんさせ、中小企業を倒産に追い込む姿を指す。これは構造改革の矛盾を象徴する歴史的な言葉として、博物館に収めるべきである。
基本的なことでも、知らないことがたくさんあった。韓国では5行ある大銀行の4行で株式の70%が外資に渡っている。わが国の大手5行の株式はいずれもすでに30~40%前後が外国人によって保有されている。構造改革の真相といい、マスコミが伝えない限り、われわれが知る機会は少ない。こうした重要なことを国民がいちいち調べなければ国民を犠牲にする政策が変更できないというのももどかしい。
菊池氏は金融システム安定化のため、大銀行の分社化などとともにペイオフ制度の廃止も提言している。預金者にいちいち預金する銀行の信用状態を考えさせるのは全くの愚策であり、「そんな時間があったら本業に精を出してもらった方が経済的効果は大きい」と述べている。わたしには、上記の基本的な事実を国民各自がいちいち調べなければ知り得ない状況も愚策に思える。政府が国民を守るのと同様、マスコミは重要な事実を伝えるべきではないか。
それとも、ますます自由化する市場の下では、政府やマスコミも資本の道具でしかないのだろうか。合理主義を極(きわ)めたはずの現代の経済が、わたしには理不尽にしか見えない。【了】
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