「「かつての楽園『旧大陸』が崩壊の兆し」(EJ第2862号)」

投稿日:2010/07/26 07:26

2010年07月26日
「「かつての楽園『旧大陸』が崩壊の兆し」(EJ第2862号)」

 メディアの世界において、「旧大陸」と「新大陸」という言葉
が流行しています。「旧大陸」というのは、新聞、テレビ、出版
の世界を意味し、「新大陸」というのは、ネットの世界をあらわ
しています。いまこの新旧大陸の間で異変が起きているのです。
 現在、旧大陸の伝統メディアのビジネスが制度疲労を起こし、
何とか新大陸においてビジネスを成立させようとしているのです
が、うまく行かず焦っている──具体的にはネットは無料という
カベを乗り越えようとしているのですが、うまくいっていないと
いう状況になっているのです。
 EJでは、4月19日から65回にわたって「ジャーナリズム
論」を書いてきましたが、現代日本のジャーナリズムは既得権益
に守られた記者クラブの存在によって、必ずしも正しい報道が行
われているとはいえない実態があります。新聞は「社会の木鐸」
──「社会の人々を指導する人」という意味──といわれますが
その役割を果たしているとはいえないのです。
 しかし、最近のマスコミの偏向報道、劣化にはひどいものがあ
り、いまや、「マスゴミ」と呼ばれ、忌み嫌われ、軽蔑の対象と
すらなっているのです。権力におもねる、世論を煽るだけ煽る、
スキャンダルを過剰報道する、人権を無視する、自分たちにとっ
て都合の悪いことは報道しない、自分たち自身の誤報やスキャン
ダルに対しては、謝罪もしない、責任もとらない──最悪です。
 2009年9月にかねてから「記者会見のオープン化」を唱え
る民主党が自民党を破って政権交代が起こり、新聞・テレビの牙
城である記者クラブが今度こそ間違いなく崩壊すると期待された
ものの、既得権益の分厚いカベは阻まれて、それはいまだに実現
していないのです。
 それどころか、頼みの綱の鳩山政権が崩壊し、小沢幹事長も辞
任して菅政権が発足したことによって、記者クラブメディアの正
常化は完全に遠のいている感じです。この鳩山─小沢政権の崩壊
にもマスコミ一役買っているのです。これらのことについては、
65回の連載を通じて詳しく書いてきたつもりです。
 しかし、仮にそうしなくても、今やメディアの世界は別の要因
から激震が起こりつつあり、記者クラブメディアは遠からず崩壊
することになると思います。その大きな変化を起こそうとしてい
るのが、インターネットの発達とそれをベースとして2004年
以降に登場した数々のネットツールです。それらのネットツール
の中にあって、ひときわ異色を放ち、いま急速に利用者が広がり
つつあるのがツイッターです。
 今日からのEJの新しいテーマは、これらの新しいネットツー
ルによって、既存メディアが崩壊し、変貌していく動きを追いた
いと考えています。タイトルは次の通りです。
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    メディアは変貌しつつある/メディア覇権戦争
    ── とくにツイッターのもたらすもの ──
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 まえおきはこのぐらいにして、早速はじめることにします。最
初の何回かは予告篇です。
 象徴的な数字があります。次の数字は何を意味しているか、わ
かるでしょうか。
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         541億ドル対9億ドル
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 「541億ドル」は、アマゾンの株式時価総額であり、「9億
ドル」は、全米にもっとも多くの書店網を展開するバーンズ&ノ
ーブル(B&N)の時価総額をあらわしています。その差、実に
60倍です。B&Nについては改めて取り上げますが、目下経営
危機にあえいでいます。もうひとつの数字を見てください。
―――――――――――――――――――――――――――――
        19・5億ドル対0・1億ドル
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 「19・5億ドル」は、グーグルの2010年1月~3月期の
純利益であり、「0・1億ドル」は、同じ時期のニューヨーク・
タイムズの純利益をあらわしています。その差153倍です。し
かも、グーグルは同じ時期に広告を20%伸ばしているのに対し
ニューヨーク・タイムズは逆に30%減らしているのです。
 ニューヨーク・タイムズに代表されるように、もはや紙の新聞
は売れなくなっているのです。したがって、広告収入も入らない
し、それを何とか補おうとしてやっているネット・ビジネスから
の収入はわずかであって、カバーできないでいる。これが伝統メ
ディアに共通する悩みなのです。
 もうひとつ比較数字を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      408億円の赤字対88億ドルの黒字
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 「408億円の赤字」とは今年の3月までのソニーの赤字額、
「88億ドルの黒字」は同じ時期のアップルの利益をあらわして
いるのです。
 こうなると、旧大陸の伝統メディアは、なりふりかまっておら
れず、新大陸メディアにすがって生き残りを図ろうとしています
が、そこから得られる利益は存続に必要な額にはとうてい達して
いない状況なのです。
 新大陸には既に強力なプラットフォーム企業が支配しており、
上陸してくる伝統メディアの前に立ちふさがっているのです。伝
統メディアが新大陸対応を怠っている間に、彼らは着々と新大陸
での支配力を強化しており、現在ではもはやそれを覆すことは困
難になってきているのです。
 アマゾンにしてもわずか5年前には黒字が出ず、債務超過の企
業であったし、グーグルにしても旧大陸伝統メディアから見ると
新興の弱小企業にしかみえなかったからです。
              ──[メディア覇権戦争/01]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会の木鐸」とは何か
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  歴史的オブジェとしての木鐸は、金口木舌(きんこうもくぜ
  つ)とも言われるように、金属の本体に木製の棒を打ち当て
  て音を出すもので、古代中国で人びとに情報を知らせる人が
  鳴らしました。為政者に遠ざけられた孔子が木鐸になぞらえ
  られた故実から、権力とは一線を画し、社会のあるべき姿を
  示すオピニオンリーダー、というニュアンスがあります。
http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/archives/51322671.html

(転載貼り付け終了)