「霞が関が仕掛けた「国家戦略相骨抜き作戦」に屈した菅政権 

投稿日:2010/06/11 04:30

「現代ビジネス」の「長谷川幸洋「ニュースの深層」」から貼り付けます。

(転載貼り付け開始)

2010年06月10日(木)
「霞が関が仕掛けた「国家戦略相骨抜き作戦」に屈した菅政権 
事務所費問題も浮上した 荒井新大臣の前途危うし」

 菅直人政権が発足した。鳩山由紀夫前内閣は脱官僚依存を掲げていたが、菅政権では官僚との協調路線にはっきりと舵を切り替えたようだ。

 それは菅が記者会見で「官僚を排除して政治家だけで決めればいいということではまったくない。官僚の知識や経験を十分に活かしながら政策を進めていく」と述べたことでもあきらかだ。初閣議では、政と官が「相互に緊密な情報共有、意思疎通を図り、一体となって真の政治主導による政策運営に取り組む」との基本方針まで決めている。

 官僚との協調路線は内閣閣僚人事にも表れている。

 国家戦略相だった仙谷由人を官房長官に据えたうえで、菅は「官房長官を軸にした一体性を考えた。官房長官は内閣の番頭役だ。中曽根政権の後藤田官房長官の名が出るが、そうした力をもった方でなければならない」と語っている。

 一方で、国家戦略相には鳩山政権で首相補佐官を務めたとはいえ、政治的にはほとんど無名と言える荒井聡を起用した。荒井は菅の数少ない側近として知られている。

 「とにかく荒井君をどこかで処遇を」と菅が押し込んだとも言われている。行政刷新相は事業仕分けで名を売った蓮舫に決まった。

 鳩山前内閣では国家戦略相と行政刷新相が内閣の二枚看板だった。ところが、菅内閣は官房長官を重用し、国家戦略相はまるで「お飾り」のような扱いである。

 一連の発言と人事をみて、官僚たちはもちろん喜んでいる。「官僚がいなければ、政治が動かないことがようやく分かったのだろう」と元官僚の一人は語る。

 国家戦略相を骨抜きにする工作は、実は鳩山前内閣の下で着々と進んでいた。2月に国会に提出した政治改革主導法案は国家戦略局を官房長官の下に置く組織と位置付け、局長は官房副長官が兼務すると定めている。つまり、国家戦略局のボスは国家戦略相ではなく、官房長官なのだ。

 では、国家戦略相はどういう大臣なのか、と言えば内閣法上の「無任所大臣」という扱いであり、辞令で「税財政の骨格や経済運営の基本方針等について企画立案及び行政各部の所管する事務の調整を担当させる」と書かれているにすぎない。ここには国家戦略という文字はどこにもない。

 一言で言えば、国家戦略相という大臣は総理大臣が「置きたい」と思えば、置けるのだが、実際の仕事は法律上、官房長官が担うように書かれている。

 この法案は霞が関全体の各省協議を経て、内閣官房内閣総務官室が書いた。霞が関の総意を反映している。つまり今回の人事を待つまでもなく、霞が関からみれば、法案を閣議決定した段階で国家戦略相はとっくに骨抜きにしてあったのである。

 菅首相が今回、官房長官に重量級の仙谷を起用し、国家戦略相には軽量級の荒井を起用したのは、官僚の企んだ「国家戦略相骨抜き作戦」に菅首相が屈服し、追認した形である。

 さらに荒井にはあまりにタイミングよく事務諸費問題が浮上。足下に火がついたような状態では、国家戦略を練るどころではないだろう。

 こうした骨抜き工作について、私は菅首相が決まった先週末、インターネットテレビの「ビデオニュース」に出演した際、同席した福山哲郎参院議員に指摘した。

 福山は「ご指摘の通りだ。そういう問題はほかにもたくさんある。政治家がすべてに目を凝らすのは難しい」と語った。福山は「問題は認識しているが、政治家が力不足で思うようにできない」と認めているのである。

 その福山が今回、内閣官房副長官に決まった。官邸実務の要になる官房副長官がこういう認識で、はたして官僚と丁々発止で戦えるだろうか。もっとも、肝心の菅が協調路線を選んでいるのだから、官房副長官に期待しても無理というものだが。

「ざぶとん問題」がネック!?
 同じく同席した、前任の官房副長官である松井孝治参院議員にも、同じ番組の中で「各省にまたがるような大型案件では、内閣官房の政策調整機能が鍵を握る。内閣官房の強化が不可欠だ」と指摘した。松井は「各省が官邸に拠出する『ざぶとん』の問題もあって、難しい」と答えた。

 「ざぶとん」とは、霞が関用語で各省が握っている定員と給与の縄張りである。各省が官邸に対して定員と給与の供出に同意しないと、官邸には官僚が出向してこない仕組みになっている。だが、こんな問題は本来、民主党が政権を握っているのだから、官邸が「つべこべ言わず、出せ!」と各省大臣に命じれば済む話である。

 それを「ざぶとん問題がネックになる」と言うのは「官邸が各省大臣をコントロールできない」「各省大臣が各省官房の羽交い絞めに遭って官邸の言うことを聞かない」証左であるといわざるを得ない。つまり政治が官僚を動かせていない。

 同じような「ざぶとん問題」は自民党政権時代にもあった。それを克服できるかどうかが、まさに政治主導が実現できるかどうか、なのだ。松井や福山の発言を聞く限り、鳩山政権では、たしかに国家戦略室を作ってはみたものの、実質的な政策調整・戦略立案機能は非常に弱かったことを示している。

 先の政治主導確立法案は国会に提出されたが、政局流動化で成立は絶望的な情勢だ。つまり、国家戦略局と行政刷新会議は当分、法的根拠がない状態が続く。

 菅政権はもともと弱体だった国家戦略室と国家戦略相を政治的にも完全に形ばかりの存在にした。民主党の脱官僚路線はわずか9ヵ月で元に戻った形である。菅政権はそういう内閣をつくって、なにをしようとするのだろうか。

 近著『官邸敗北』(講談社)では、こうした国家戦略局をめぐる論点についても詳述した。詳しくは、そちらを参照していただきたい。

(文中敬称略)

(転載貼り付け終了)