「1729」 『サピエンス全史』について話します(第1回・全3回) 2018年3月12日
副島隆彦です。今日は2018年3月12日です。


サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

 今日は『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社、2016年)という本について話します。この『サピエンス全史』という本は、英語のタイトルは『A Brief History of Humankind』です。書いた人はユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari、1976年-)という42歳の人で、イスラエルのヘブライ大学の教授で歴史学者です。


ユヴァル・ノア・ハラリ

 この本は、日本では2016年に翻訳が出ていて、2017年1月にNHKがクローズアップ現代で取り上げた。それで人気が出たらしいですが、私はこの本は本屋で表紙だけ見ていたけど気にもとめなかった。ところが今年の1月の正月の初めに、A大学のS教授、この人はイスラム政治思想をやっている学者ですが、ケンブリッジ大学のサバティカル・リーブ(Sabbatical Leave)で1年間の在外研究に行っていた人です。S教授から、ケンブリッジ大学でハラリ教授を呼んで『サピエンス全史』の話をさせて評判をとったと聞いた。ようやくこの2018年1月18日に手に入れて、日本語版は上下二巻だけどそのうちの頭の6章まで読みました。とりあえずここまでのところで、この本の重要性と意味について私が重要だと思ったところを伝えます。

 これはAmazonでも大変よく売れていて150何本ブックレビュー(書評)が載っているので、それもさっと見ました。日本の読書人階級、すなわち頭のいい、本を読む人たちの間では去年1年間で大変うわさになっていた本です。世界基準でもこの本は重要な本で、ますます今から売れるでしょう。これは『ダ・ヴィンチ・コード』が出たときの驚きに近いと思う。ただ、今日は『ダ・ヴィンチ・コード』の重要性は話しません。
 
 この『サピエンス全史』というのは、人類の歴史全部を語っている。日本語で読んでも英語で読んでもあまり差がないくらい簡潔な文章で書かれています。だから、簡潔に世界の歴史、人類の歴史をわかろうと思えば非常にいい本でした。私のこれまで持っていた知識とハラリ教授が書いていることの区別というか、共通性とずれているところを今から明確にしていきます。

 英語の現タイトルは『A Brief History of Humankind』、このbriefというのは短いとかはかないとか、すぐ消えるというような意味だけれども、本当はこの「Brief History」で概説とか、全体をわかりやすい言葉で簡潔にまとめるという意味なんです。だから日本語の河出書房新社の全史で、全歴史というのでちょうどいいと思います。

私たちでもホモ・サピエンス(Homo sapiens)という言葉は知っているわけで、これを何と訳すかというと、「賢いヒト」「知恵のあるヒト」って意味なんですが、ハラリは「厚かましくも自分たちのことを知恵のある賢い生き物と呼んだ」と書いています。

 この本全体を貫いている柱として、何と私たち現生人類であるホモ・サピエンスが、残忍で残酷な生き物であるということを徹底的に書いています。要するに、大量殺りくをたくさん行い、今に至っているわけですが、このことを書いている。

 ハラリはヘブライ大学教授で、イスラエルハイファ港で生まれて、今42歳ですから、最初はヘブライ語でこの本は書かれた。2011年です。2014年に英語版が出た。2015年に、この本の中にちらっと出てくるんですが、Facebookの本社の写真があって、カリフォルニアにあるんだけど、昔はサンフランシスコに1850年のゴールドラッシュという言葉がある、金が発見されたといってニューヨークといった東側のほうから一生懸命、オレゴン街道とか悲しみの道とかいうようなところを通って、自分も金をたくさん見つけるぞと言って、たくさんの開拓農民たちがぞろぞろと渡っていったんです。


Facebook本社

 昔は地面の下を通って掘って金が出た、今はFacebookの会社の社員たちの頭の中から財産を掘り出す。そういう時代だという言い方もしています。だからFacebookのザッカーバーグがこの本を褒めたんです。2015年、そしたら爆発的に売れ始めたと。2016年が日本語版で、ようやく私も手にとったわけです。

 あとは、上巻126ペ―ジに牛の写真も掲げていますが、牛というのは種の繁栄としては何と今地球上に10億頭、ヒツジも10億頭、ブタも10億頭、牛が10億頭で、鶏が250億羽いるんだと。10億頭にもなっているから種の繁栄としては立派そうに見えるけれど、大変残酷な話で、これは全てたたき殺されて食べられてしまうためにつくられていると。乳牛用の酪農場での雌牛は5年ほど飼育されて殺されると、それは大量に牛乳をとられた後です。


工場式食肉牧場

 だから子牛があまり飲まないように、引き離すんです。それでオスの子牛はさっさと食肉業者に渡されて殺されて食べられる。やわらかい肉になるようにほとんど身動きのとれない箱の中で5年間飼育されて殺されるわけです。いや、数カ月かもね。この地球上で牛が最も惨めな部類の動物になっている。

 もっと残酷なのは今のニューギニアの、先史時代の生き残りのような原住民は、ブタの鼻を削ぎ取って匂いを嗅げないようにすると。そうしたら食べ物を見つけられないから言うことを聞いて自分のそばにいる。あるいはブタの目をえぐり取って自分のそばで太らせるということもしてきた。これが人類のやってきたことだということを書いています。

 ハラリはヴェジタリアンです。短くヴィーガン(vegan)と言いますが、本当にハラリはほとんど五色豆みたいな穀物、豆と野菜しか食べない生活を送っているはずです。写真も見るからにガリガリしています。かつ、ホモセクシュアリティで同性愛で、26歳のときに男の人と結婚をして今も完全なゲイとして生きています。

 こういう人類の最先端の生き方をしているわけですが、牛の種としての苦しみが、個体数は10億頭で繁栄しているけれども、種としての苦しみがひどいのだとハラリは書いています。人間がみんなでやわからい牛肉をむしゃむしゃ食べるわけです。それを日本の場合は食被差別民が肉処理工場で殺して、血がだーっと流れるわけですけれど、普通の人には見えないように気づかれないようにそういうことをやっている。鶏に至っては250億羽ですから、もっと簡単に首をぽんぽんはねられて鶏肉になっているわけです。

 そういうことも書いているけどもこれは人類の歴史ですから、前に話を戻すと、私が勉強になったのは、私がこれまで持っていた知識を再確認できたことが非常に大きい。私も日本知識人だからかなりのことを知っています。威張るわけじゃないけど、普通のそこらの日本知識人よりも明確に、冷酷な数字であらわす歴史の知識を脳の中に持っているのです。

 18ページに、ヨーロッパとアジア西部の人類は、ホモ・ネアンデルターレンシス(Homo neanderthalensis、「ネアンデル谷出身のヒト」の意)、一般にネアンデルタール人と呼ばれていると。ホモ・ネアンデルターレンシス、この人たちが氷河時代のユーラシア大陸の西部の寒冷な気候にうまく適応したと、そして生き延びたわけですね。


人類の進化

 アジアのもっと東側に住んでいたのがホモ・エレクトス(Homo erectus、「直立したヒト」の意)で、そこで200万年近くを生き延びたと。これほど長く存在した人類種は他になくて、この記録は私たちの種にさえ破れそうにないと。この長い200万年という記録はね。ホモ・サピエンスは今から1000年後にまだ生きているかどうかすら怪しいのだから。200万年も生き延びることなど望むべくもないと、ここまで引用しました。

 つまり、このホモ・サピエンスというのは私たち現生人類のことです。種という言葉をスピーシーズ(species)といいますが、これを日本人が知らない。これは、チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin、1809-1882年)の『種の起源』です。the Origin of Speciesといいます。スピーシーというのが種類の「種」、生物種のことです。今はこれ以上話しませんが、みんなスピーシーズという言葉も知らない。それが日本の知識人層のだめなところです。


チャールズ・ダーウィン

同じページの矮小化(小型化)、島の中に取り残されてそこで体が小さくなって、環境に適応して生き延びた種類がいるんです。矮小化なんです。矮性(わいせい、dwarf)とか、日本のことを倭人と言ったのは、体格のよくない小人という意味なんです。矮小の「矮」なんです。それは劣等という意味にも使われているわけですが、このことはそれで一応置いておきます。

 ここでさっきの引用文に出てきた、ホモ・エレクトスがアジアの東側に生きていたと書いていますが、これは直立猿人と日本の歴史学では訳してきて、私は中学校時代ぐらいからはっきり知っているんだけど、例えば北京原人(Homo erectus pekinensis)というのが50万年前にいて、その骨が北京の郊外の周口店というところで1921年に見つかった。その骨は日本軍が侵略したときに持ち去って、消えてどこかになくなったと言われています。

 それから、ジャワ原人(Homo erectus erectus)というのが今のインドネシアのジャワ島にいたわけです。私が習ったときは大体50万年前です。70万年という説もあった。これはハラリが書いている説が正しいです。直立して、木の棒を持って武器にしていたわけです。それで、火を使っていた。動物の肉を焼いて食べていたというのが50万年前、もしかしたら70万年前。

 これとネアンデルタール人は一緒なんです。日本の歴史学はここを翻訳でやるものだから、一緒だと言わないんです。だからこの直立原人、ジャワ原人、北京原人はネアンデルタール人と一緒なんです。それが7万年前に、ホモ・サピエンスによって全滅させられた。7万年前ではなくて、本当は3万年前に完全に絶滅したと。これは考古学です。アーキオロジー(archaeology)といいますが、考古学上のいろいろな動物の骨や古い人間の骨の発掘調査から、世界的に明らかになっていることなんです。

 そうするとここで、ハラリ説の重要なところは、今から7万年前に認知革命(Cognitive revolution)と言われていますが、自らわかること、認知理論、認知科学、cognitive scienceという言葉があって、この説明はもうしませんが、自分が自分をわかることという意味です。この認知理論、認知の革命が起きて、ここでホモ・サピエンスがimaginationの言語をつくった。そのことがこの地球上で、ホモ・サピエンス、すなわち賢いヒトが繁栄した根拠なんだということなんです。

その前のネアンデルタール人たちは同じホモなんだけど、抽象観念がなかったんだということです。ライオンが来るからさあ逃げろという言葉は使えたけど、それ以上の共同の幻想をみんなでつくって、団結して集団行動をとるというようなことはできなかったと書いています。ここが重要なところなんです。

 私の知識では現生人類は15万年前に出現したクロマニヨン人だということになっていた。ところがクロマニヨン人という言葉はもうこの本では出てきません。世界の考古学者たちはもう言葉として認めていないということですね。ただ、日本のテレビを20年も見てみれば、科学番組もやっているんだけども、東アフリカのケニアの奥のほうの、タンザニアとケニアの峡谷地帯があって、これは地理学では大地溝帯というのかな、ビクトリア湖とかああいうのがあるところですが、今でも専門で人類の古い骨を発掘している一族がいるんです。この人たちが有名になったというかもうほとんど定説にされて、東アフリカのタンザニアの谷間で出る骨が、ホモ・サピエンスの、つまり今の私たち現生人類の最初なんだということになっている。そこからほかの大陸全体に広がっていったとされています。これはハラリもその説をとっているわけです。

 しかしさっき言ったように、200万年前にホモが出現しているわけですね。でも私たちの知識では、450万年前と言われていた。それはアウストラロピテクスというのがいたと。それがエイプという高等猿類から分離したんです。ハラリの本では600万年前と書いています。つまり遺伝子が完全に分裂して種の交配、すなわちセックスをしても子供ができないんです。種が違うから。600万年前、そういう交配ができない関係になったんです。だからアウストラロピテクスという言葉は出てきません。ネアンンデルタールしか出てこないんだけど、ネアンンデルタールが200万年前にいたという理屈になるんでしょう。

(続く)

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