「1960」相田英男氏の緊急寄稿「東芝=ウェスティングハウス問題」について対話形式で理解する。2017年3月15日
アルルの男・ヒロシです。

今日は2017年3月15日です。国会では稲田朋美・防衛大臣と森友学園の籠池泰典(かごいけやすのり)理事長との関係が注目を集めています。この件は、先日、「今日ぼやき」でも登場いただいた、ノンフィクション作家の菅野完(すがのたもつ)氏が、驚くべき取材を行っています。命をかけた取材に敬意を払いたいと思います。

この森友学園問題が起きていなければ、現在の最大日本国内の最大の問題になっていたはずの問題が、東芝の経営危機問題です。今回、学問道場に過去何度も「原子力発電問題」について、専門的な立場から寄稿頂いた、相田英男(あいだひでお)氏にご解説をいただきました。

東芝の経営難の問題は、アメリカの原発メーカーのウェスティングハウスを東芝が傘下に収めたことが発端です。子会社であるはずのウェスティングハウスが東芝の足を引っ張っています。

この問題は、麻生太郎副首相とマイク・ペンス副大統領との日米経済協議でも議題になりそうです。

その前にこの問題を理解しておきましょう。

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皆さんこんにちは。
相田英男です。

東芝の問題については、いろいろと報道が沸騰しつつありますが、会計や契約の話と技術の話が錯綜してややこしい状況です。今回、技術的な話について私がざっと調べた範囲ですが、状況についてまとめました。

今回の件では私も頭にきているので、普通の論考の形にすると途中で暴走して内容が発散しそうだったので、対話形式にしてみました。短時間でまとめた割には、あっさりと読みやすいかなと思います。来月半ばに東芝から、正式な発表があるようですが、それまでのご参考になればと思います。


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題目:安倍総理よ、東芝の赤字をインフラ輸出の第1弾とし、トランプに恩を売れ

相田英男

1.ウェスティングハウスって何?

(質問者)今日は巷の話題になっている、東芝がアメリカで建設している新型原発の赤字の問題について、相田さんに話を聞きます。相田さん、最初に伺いますが、ウェスティングハウスとは、一体どのような会社なのですか。総合電気メーカーの代表のGE(ゼネラル・エレクトリック社)のライバルとか言われる割には、イギリスや日本の会社にホイホイ売られていくみたいですが?

(相田)ウェスティングハウスは、時代によって会社の形態が全く変わっています。設立当初の20世紀始めから1970年代にかけては、アメリカを代表する総合電気メーカーでした。GEのライバルだったのがこの時代です。日本とも縁が深く、三菱重工と三菱電気の両方に技術を教えていたのが、ウェスティングハウスなのです。三菱グループの先生がウェスティングハウスといえます。しかし70年代半ばから収益が低下したため、メーカーから放送メディア業界への移転などを模索するうちに、事業を次々と売却することとなり、80年代半ばに総合企業では無くなってしまいました。今のどこかの会社みたいですね(笑)。同時期にGEではジャック・ウェルチという天才経営者が現れて、業績を飛躍的に伸ばしたのとは対照的です。

今では会社がバラバラになり、ウェスティングハウスという名前の付く、事業の異なる会社が幾つもあるため、区別がややこしいです。東芝が買収したのは原子力技術を開発する会社で、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーと言います。私は今までWHと略していましたが、正式な略称はWECだそうです。三菱重工ではW社と呼ぶそうです。ちなみに、軍用(空母)の原子炉の製造とメンテナンスをやるウェスティングハウスは、別会社で、ノースロップ・グラマンの傘下にあるみたいです。東芝のWECは民間原子力専門です。東芝に買われる前は、イギリスの核燃料会社(BNFL)というところが買収していました。

(質問者)そのWECという会社は、具体的にどんな仕事をやっているのですか?

(相田)ホームページで見たところでは、原子炉の開発以外に、原発ので使う様々な部品、ポンプとか安全装置とかの新たな開発や、原子炉を制御するシステムやソフトウエア等、大変手広くやってみたいです。原発以外にも放射線を扱う装置や技術ならば、何でも対応できるようですね。ただし、原発を丸ごと作ったり、たくさんの製品を大量に売りさばくのではなく、ユーザー毎に製品の内容を細かくカスタマイズして、部品は他社から買って組み合わせて売るといった、一品物の商売が主体のように思います。普通の物作りメーカーではないですね。どちらかといえば、コンサル(相談)が主体の、例えばグーグルに近い商売なのではないでしょうか。

(質問者)グーグルですか?ちょっと違う気もするのですが‥‥。いずれにしてもWECって余りパッとした会社でないみたいですが、東芝が何千億円も払って買う価値があったのですか?

(相田)6千億円も出すべきかはわかりませんが、それなりの価値はあったと考えられています。簡単に言えばブランド料です。何じゃそれは、とい思われるかももしれませんが、WECは軽水炉の産みの親(の末裔)であり、原子炉に関する知識とノウハウの蓄積が尋常ではありません。アメリカではPWR(加圧水型軽水炉)の設計仕様や、ASME(アメリカ機械学会)による圧力容器規格等の、軽水炉に関する詳細な技術書類が作成、公開されて、世界中の会社や技術者達が参考にしていますが、これらの基礎となるデータを、実験等で決定したのがウェスティングハウスです。その際の膨大なデータが、非公開のノウハウまで含めて、全てアーカイブとしてWECに引継がれています。その「知識」の価値が非常に高いと考えられています。

(質問者)要するに頭が良いから素晴らしいと?

(相田)単に知識だけではないのです。スリーマイル島原発事故の後、80年代以降ではアメリカの原発の建設はストップしたのですが、WECはその後も新規な技術を組み合わせた改良型の軽水炉の開発を、政府予算の補助等を受けながら地道に継続していたのです。それがAP600というもので、1992年にアメリカの原子力規制委員会(NRC)から型式が承認され、1998年にNRCから最終設計承認(FDA)を取得しました。要するに政府から「図面上はきちんとした軽水炉ができた、安全ですよ」、と認められたということです。WECは更に、電気出力を600メガワットから1000メガワットに増加したAP1000の開発も実施して、2006年にFDAを取得しました。ちょうど東芝がWECを買収した時期ですね。

 このAP1000という原子炉は安全性も高く、軽水炉の弱点だった電源が失われた際のメルトダウンが起きないとWECが主張したので、非常に注目されていました。日本や中国のコピー原子炉でなくて、本家本元のWECの技術者達が、20年の時間を掛けて熟成させた原子炉のため「それは素晴らしいだろう、ぜひ使いたい」、という国や電力会社が大勢現れたのです。


2.AP1000の特徴とは?

(質問者)そのAP1000とは、どのような装置なんですか。

(相田)AP1000というのは、最新型の第3世代プラス型と呼ばれる原発の一つです。第3世代プラス炉とは、さっきも言いましたが、電源が無くなっても福島第1原発のようなメルトダウンが起きない、受動的安全性(静的安全性ともいう)を持っている原子炉です。スリーマイル島原発事故より前に作られた原発が第2世代型で、80年代以降に開発されて作られたのが第3世代型です。日本のABWR(改良型沸騰水炉)とか、韓国で開発されたSystem80+というPWRが第3世代型ですが、これらは電源が落ちてポンプが止まるとメルトダウンしてしまいます。この性質を能動的安全性(動的安全性)と言います。人間がポンプを動かさないと事故が防げません、という意味ですね。第3世代プラス炉になると、ほっといても何事も無く止まります、という話です。

 どうやって受動的安全性を実現するかですが、色々あるみたいですけど、AP1000では建屋の上部に大量の水を溜めておいて、いざ電源が止まっても、バルブが機械的に開いて冷却水が自動的に下に落ちてくるように工夫してるそうです。冷却は72時間は連続するのでその間に炉心を安全状態まで冷やすことが出来る、と言ってます。コロンブスの玉というか、当たり前そうでも、なるほど、と思いますよね。

 ちなみにAP1000と同じ第3世代プラス型の原子炉に、ヨーロッパで開発されたEPR(欧州型加圧水型原子炉)というのがありますよね?こちらも当然ながら、受動的安全性を持っているのですか、EPRの圧力容器の下には穴が開けてあって、炉心が溶けた際の燃料が穴に落ちて安全に閉じ込められるという、コアキャッチャーという構造が作られているのですね。第3世代プラス型とはいえ、EPRではメルトダウンするかもしれないと、想定してる訳です。しかしAP1000にはコアキャッチャーはありません。何があっても絶対に燃料が溶けない、と自信を持っているのです、WECは。何ともすごいですね。元祖の意地でしょうかね。

(質問者)確かに性能は高そうですが、そうすると、作るのもお金がかかるのではないですか?

(相田)それがWECは、従来の原発よりもAP1000は安く作れる、と言っていたのです。根拠をいくつか上げてますが、一つはAP1000はこれまでの原発よりも部品の数が大幅に少ないから材料費が安い、ということです。どれくらいの物量が減らせるかなんですが、東芝が前に発表した資料によると、安全系バルブが50%,、安全系配管が80%、ポンプが30%、ケーブルが80%、建屋体積が45% も、以前よりも減らせるというのです。本当だとすればすごいですよね。にわかに信じられませんが、WECの設計技術をもってすればこれ位出来る、ということなんでしょう。

 そして、もう一つのコストの削減方法は、モジュール構造の採用です。

(質問者)何ですか、それ?

(相田)今まで原発を作る時には、部品を別々に現場に持って行って、現場で組み合わせたり溶接したりしてたのが、AP1000の場合は違うんです。今回は、工場の中である程度の一まとまりの部品を事前に組み立てた物、これをモジュールと言うらしいけど、モジュールにしてから現場まで運ぶみたいです。そして、モジュールをブロック細工を積むように置いてから、ブロックの間だけを現地で溶接したりして、原発にするらしい。私も見た訳じゃ無いから詳しくはわからないけど。

 昔は家を建てる時には、基礎の上に大工さんが柱をたくさん立ててから、柱を繋いで、壁を付けて、とか、何日もかけてやってたよね。でも最近では、基礎をコンクリートで固めた後で、トラックに一つ部屋を大きな箱みたいに載せて、何回か運んで来て、箱を積むだけで1日で家ができちゃったりしたのを、見ないかい?多分、あんな感じで作るんだと思うんだけど。

(質問者)いや?、自分の家はタワマンて訳じゃないけど、都会の大きめのマンションの中なんで、一軒家を建ててる処とか、最近見たこと無いんですよね。でも、相田さんの言いたいことは、何となくわかりますよ。

(相田)‥‥そりゃ良かったね。とにかく、最初に工場の中である程度の部品でモジュールを作ってから、現地に持って行くことが大事みたいだよ。

(質問者)でも、わざわざそんな事する理由とかありますか?工場でも現地でも、組み立てる手間は結局同じでしょう?

(相田)それがさ、今回のAP1000の建設では、2箇所のサイトで2基ずつ、合計で4基の原子炉を並行して作るんだ。そのサイトの場所も割と近いんだよ。そうすると、サイトの中間地点くらいに組立工場を作っておくと‥‥

(質問者)ああ、わかりました。4基の原子炉があるなら、同じモジュールを4個まとめて同時にその工場で作ってしまうんですね。場所も同じで作業員も同じだから、違う現場でいちいち組み立るよりは‥‥

(相田)組立作業の手間は大幅に省けるよね。一度に多くの原子炉を作る時には‥‥

(質問者)モジュール構造の真価が出ますよね。う~ん、頭いいですよね、これ考えた人。これならコストが減りますよね。

(相田)当然モジュールにするには、事前に部品のレイアウトをよく考えておかなくてはならないし、レイアウトにこだわりすぎて、組み立た後で原子炉がちゃんと動かなかったらこれまた大変だから、バランスを考えた高度な原子炉の設計技術が必要だよね。流石は元祖PWRだけの事はある。

 とにかく私が最初に、東芝がまとめたAP1000の解説資料を読んだ時には、凄い、と圧倒された記憶があるよ。今でも下のサイトでパワポの資料が読めるけど、こんな資料を使ったプレゼンは、非の打ち所がない完璧な内容だと思うよ。今までとは次元の違う原発だと誰もが信じるだろう。
www.jsm.or.jp/branch/news/H26/pdf/Westinghouse.pdf

(質問者)確かに、東芝が買収した当時は、選択と集中の勝利、とか、三菱重工が逃した魚は大きかった、とか、東芝を褒める記事をやたらとニュース記事で見かけた記憶が、僕もあります。それが、何でこんなことになっちゃったんでしょうか。

(相田)全くだよな‥‥。


3.AP1000の最重要部品を作った会社とは?

(質問者)ところで、AP1000の部品は何処で作ってるんですか?WECは原子炉は作れないんですよね?全部東芝なんですか?

(相田)部品ごとに違っていて、中心の炉内構造物はWECが担当して作るらしい。WECもある程度の物は作れるし、信頼できる他のメーカーに外注とかするんだろう。それを覆う圧力容器(Pressure Vessel)の製造は、我らが日本製鋼所室蘭工場の担当だ。その外側の原子炉格納容器を作ったのは、石川島播磨重工(IHI)だ。IHIは東芝が原発を作る時の機器製造を、毎回サポートすることで知られているよね。東芝の担当は原子炉本体以外の、蒸気タービンと発電機が今回は主らしい。東芝はPWRの製造経験がないから、最初は見て勉強するんだろうね。

(質問者)東芝とIHIと日本製鋼所ですか。そろって三井系列の会社ですよね。WECの原子炉を作るのに、三井グループが勢ぞろいするとは、何とも皮肉ですよね。その結果が思い切りズッコケるとは‥‥三菱はどう思うでしょうかね?

(相田)悔しさと、ザマーミロが、合わさってるんじゃないか。

(質問者)やっぱりそう思います?それはそうと、PWRといえば、BWRには付いていない蒸気発生器(steam generater, SG)は、どこの会社が作ったのですか?東芝もIHIもBWRの製造経験しかないから、SGは作れないですよね?

(相田)いい質問だ。そのヒントはAP1000の構造を見ればわかるよ。AP1000の構造図にはSGが2個しかないだろう?でもWECが開発したオリジナルのPWRには、SGが4基以上ある筈だ。三菱重工の原子炉がそうだろう?

(質問者)確かにAP1000のSGは2個だけですね、それも普通より大きめのが。そうすると、これはWECの技術ではないと?

(相田)PWR原発のオリジナルはWECだけど、アメリカには他にもPWRを作っていた会社があったよね。一つはバブコック&ウィルコックス、あのスリーマイル島原発を作った会社で有名な。そしてもう一つのPWRのメーカーが‥‥

(質問者)コンバッション・エンジニアリング(CE)です。確か韓国のSystem80+が、CEの技術を元にしてるんですよね。そういえばCE製のSGはWEC製よりも大きいと聞きました。三菱重工がアメリカの原発修理でトラブったのが、作った経験が無いCE製の大型SGの修理をやったせいだ、と記事で見ました。じゃあ、AP1000のSGはCEの技術だと‥‥

(相田)その通り。構造図の端に、CEの技術を活用したと小さく書かれている。色々あってCEもWECに吸収されてしまったんだよね、以前に。AP1000のコストを下げるために、SGを大型化して部品点数を減らしたみたいだ。

(質問者)待って下さい。CEはもうとっくに無くなってますから、そのSGを作れる会社といったら、日本でもアメリカでもなく、もしかして‥‥

(相田)そう、韓国の斗山(ドゥーサン)だ。韓国の三菱重工と言われている重工メーカーだ。SGの素材のパイプ(インコネルというニッケル合金)は住友金属が作ってるけどね。

(質問者)ああ、とうとう韓国までAP1000に加わってるんですよね。確かに三菱重工がいなかったら、あとは韓国しかないですよね。アレバとシーメンスには流石に頼れないし‥‥


4.福島事故のせいで工事が遅れたの?

(質問者)さて、ここからが問題の、建設工事で大赤字が出た理由についてなんですが‥‥

(相田)あちこちニュースで盛り上がってるけど、まだはっきりしない処もある。日本の話を混ぜるとわかりにくいので、取り敢えずアメリカでの出来事だけを、時系列にまとめてみたよ。


 2006 東芝がWECを買収、同年NRCよりAP1000の設計認証(FDA)
 2008 WECがジョージア州ボーグル、サウスカロライナ州VCサマー原発の
    受注(合計4基)、同年、施工においてショーと契約
 2009 ~ 2011 この期間にNRCより設計認証の度重なる変更。WECは対応に追われる。
 2009 8月にNRCよりボーグルの初期サイト許可(Early Site Permit)発行、限定条件での工事に着工
 2011 9月 ショーが東芝にWEの持株20%引取りを要求
 2011 12月 NRCによる最終設計承認
2012 NRCによりボーグル(2月)、VCサマー(3月)原発の建設運転認可(COL、予定より1年遅れ)
2012 7月 CB&Iによりショーは買収
2012 秋 ショーによるWE持株20%の買取オプション、東芝に売却
2012 11月 ボーグル原発の追加費用(9億ドル)に関してWECと電力会社間で訴訟
2013 3月 ボーグル3号機、基礎工事を正式開始、6月格納容器組立開始(14ケ月遅れ)
2015 12月 WECがS&Wを買収、S&Wの建設工事をフルアー社に変更
2016 10月 フルアーより工事の修正見積もりがWECに報告され、7000億円の赤字が表面化


(相田)これを見ると、WECを買収してから08年に4基のAP1000を受注するまでは、平和に進んでみたいだね。雲行きが怪しくなるのは受注の後からで、NRC(米国原子力規制委員会)が、AP1000の設計認証についての修正をWECに要求し始めるんだ。9.11テロ事件をきっかけに、旅客機が衝突しても建屋が壊れないようにしろ、とかの安全性を高める要求が繰り返し来たらしい。別に設計を直すだけならいいけれど、問題はAP1000の設計が完成しないと、受注した原発の正式な工事着工が出来ないことなんだ。COL(Combined Construction and Operating License、建設運転一括許可)というんだけど、新しい原発のを建設して運転してもよろしいです、という許可が、AP1000の設計認証が終わらないともらえないんだ。なぜなら、COLを発行するのも設計認証するのも同じNRCだからなんだ。設計認証が終って最初のCOLが貰えたのが、結局2012年初頭で、予定より1年遅れたらしい。

(質問者)NRCって、日本の原子力規制委員会のモデルになった組織ですよね。福島事故の後に出来た。

(相田) 日本の方は、技術の話はそっちのけで、電力会社や研究機関のアラ探ししてるようにしか思えないけどね。田中委員長が「もんじゅの運営組織として原子力機構はふさわしくない」とか偉そうに言ってたけど、アンタが原研(今の原子力機構の前身の組織)の所長だったくせに、今更何言ってるんだ、と私は呆れたよ。自分が所長だった組織にダメ出ししたりして、昔の自分の管理責任を責めてるだけじゃん、アホかこのオッサン、とか思ったけどね。

(質問者)はいはい、わかりました。田中委員長のあの発言には裏の事情があるみたいですけどね。話がそれたので戻しますが、NRCは06年に一度AP1000の設計認可を出してるんですよね。それで安心したWECが、発電所の建設を受注した後から、いやもう一度設計認証をやり直そう、ってNRCから待ったが掛かったということですね。WECからすると、受注した後から言わなくても、てな感じで、同情の余地もありそうですね。

(相田)仕方ないからWECも言われるまま、粛々と設計を直したみたいだけど、工事が遅れた分は、赤字になって跳ね返って来るんだよね。それでCOLが出た1年後に、正式な工事が始まって基礎のコンクリートを大量に流し込むことになる。ただしこの時点でスケジュールは14ケ月の遅れに広がっている(Wikipediaによる)。2009年の夏から、NRCから安全と許された範囲の工事を少しずつやってたみたいだけど、焼け石に水だったようだ。ようやく正式工事に入れたものの、2015年10月になると完成予定の遅れは、当初予定の3年後まで更に増えていたんだ。

〔完成予定時期の遅れ(2015年10月時点)〕
ボーグル3号 2016(当初予定) → 2019(6月)
ボーグル4号 2017(当初予定) → 2020(6月)
VCサマー2号 2016(当初予定) → 2019(8月)
VCサマー3号 2018(当初予定) → 2020(8月)

(質問者)やればやるほど完成予定日が伸びてゆくんですね‥‥。それと、新聞の記事とかに、福島原発事故の影響でNRCが規制を強化したことが、工事着工が遅れた原因だと、盛んに書いてますが、そうなんですか?

(相田)毎日新聞なんかが、福島事故のせいでAP1000の工事が更に遅れた、とか書いてるので、私もそうかなと考えたんだけど、2011年の11月にNRCは最終設計を承認してるんだよね。震災から2年くらい遅れてたら影響あるかな、と思えるけど、年内に設計認証が出てるということは、福島はあまり関係なかったんじゃないか、という気がするな。詳しくはわからないけど。

(質問者)何でも福島事故のせいにしたがる、いつもの左翼バイアスが働いてるんでしょうかね、マスコミの皆さん方。


5、赤字が膨らむ訳

(質問者)正式工事の開始時点で遅れが14ケ月だったのが、それから2年工事を続けた後で更に3年の遅れになるということは、工事がよっぽど下手だったんでしょうか?

(相田)そう言わざるを得ないだろうな。NRCの認証の遅れよりも工事の不手際の方が、遅れへの影響が大きいんじゃないか。そもそも発電所の建設工事の方は、WECだけではなくて、建設工事の専門会社を別に連れて来て、協力して対応しているんだ。コンソーシアムというんだけど、今回の工事でWECとコンソーシアムを組んだのが、ストーン&ウェブスター(S&W)という会社だ。

(質問者)出ましたね。問題の核心が。

(相田)実はS&Wはショーという建設会社の子会社で、ショーが後ろでS&Wをフォローしながら建設を進める仕組みだった。ショーという会社は東芝がWECを買収した時に、株の20%を一緒に買ったんだよね。知ってると思うけど。WECとS&Wがコンソーシアムを組んで、東芝とショーがそれをバックアップするという体制だった。08年に4基のプラントを受注した時にはね。

(質問者)でもさっきの時系列では、12年にショーは持っているWECの株を東芝に売っちゃったんですよね、ストックオプションとかいう約束で。

(相田)そうなんだ。時系列で見てもわかるけど、どうもショーの対応が腰が引けている感じなんだな。もともとショーの創業は1987で、最初はちっちゃな配管屋だったのが買収を繰り返しながら成長して、2000年に老舗のエンジニアリング会社のS&Wを買収したことで知名度を上げたらしい。S&Wの方が実績は遥かに上だったのが、原発建設が下火になって経営破綻した処を上手くショーが買収したみたいだ。だから、ショーそのものは原発の建設をやった経験は無かったんだよね。

 ブルームバーグの記事によると、NRCの検査官の中にもショーの施工技術に疑いを持つ人がいたらしい。検査官がWECの工場を視察した際に、ショーによる格納容器の据付が悪く、300トンの鋼材が落下しそうになっていたり、溶接が不適切だったのを見つけて、州政府に報告している。そもそも震災があったとはいえ、COLが出る以前の2011年9月に、ショーは持株を東芝に買い取るように要請してるんだよな。当時の東芝の佐々木社長が、この段階でどういうことだ、と激怒したらしけど、怒る気持ちはわかるな。福島事故が起こる前に、自分の会社の技術だと、とても完成までおぼつかないと覚悟してたんじゃないか、ショーは。

(質問者)東芝が組んだ相手が悪すぎたと。他に何ともならなかったんでしょうか?

(相田)東電があんなじゃ無かったら、アドバイスもらったり、東電系列の施工会社の連中を大勢アメリカに連れて行ったりとか、協力が得られたかもしれないけど 、そんな状況じゃないしな。東電と東芝のタッグは強力だから、いざという時の助けになる筈だったのが‥‥東芝には間が悪すぎるとしか、言いようがないな。

それで、色々あったんだろうけど、正式な工事が始まる前の2012年の9月に、今度はショーがシカゴ・ブリッジ&アイアン(CB&I)という、別の大手の建設会社に買収されてしまい、ほぼ同時期に、WECの持株20%を東芝にオプションで売却するんだよね。CB&Iの意向かもしれないけど、今度は全く遠慮がない。工事が始まる前にショーは白旗あげたようなものだよね。

(質問者)この頃には、日本でも東芝の不正経理の問題が騒がれ出しましたよね。東芝も現地の状況まで、きちんと目が行き届かなかったように思えますね。

(相田)こんな感じんで、正式工場が始まった後でも、日本でもアメリカ現地でもゴタゴタしている中で時間が過ぎて、2015年の12月に、WECがS&Wをショーの親会社になったCB&Iから買収する。建設工程の遅れによる赤字を、施工側と電力会社のどちらが被るか、訴訟合戦になりつつあったのを、東芝が嫌がり電力会社側の要望を飲んだ、とか言われているが、詳しい事情は不明だ。コンソーシアムの相手そのものを買収する訳だから、これからは事実上WECだけで原発4基の建設責任を負うことになる。ところがこの時の契約の中に、電力会社側の「固定価格オプション」という「爆弾」があるのをWECが見逃してしまったのが、決定的だったんだな。

 ここでCB&Iという会社とショーとの関係なども、詳しい話が全くわからない。相当に凄いことが隠れていそうだけど、これからの東芝の説明を待つしかない。

 ここから東芝も、現地の作業効率を上げようと、日本から原発建設の経験者達を指導員でアメリカに送ったり、色々やったようだ。だけども、あまりスピードが上がらない。S&W任せだと埒があかないと思ったのか、新たにフルアーという会社に建設担当を替えて、費用を再見積もりさせていたところ、去年の10月にフルアーから出てきた金額が、何と7000億円の追加費用だったという。

(質問者)なんか、俄かには信じられない展開ですよね。東芝がアタフタしてる間に、アメリカ側が密かに作戦を立てながら、罠に堕ちるのを待ち構えていたような感じがします。WEC側にも裏切り者とかいそうですよね、憶測ですけど。

(相田)わからない事が多すぎるけど、何があってもおかしくないと思えるよね。


6.モジュール構造の弱点

(相田)ついでにいうと、施工会社だけではなく、AP1000の設計自体にも工事が遅れる原因があったらしい。それがどうも、ウォール・ストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズ等のアメリカの記事によると、モジュール構造のせいらしい。

(質問者)あのコスト削減の切り札になる筈だった、モジュール構造ですか?

(相田)そうだ。どういう事かというと、今回は4基のAP1000を同時に作るため、モジュールを4個まとめて工場で作ることになる。ところが同じモジュール4個が完成した後で、不具合がある事がわかったらしいんだ。そうするとモジュール4個を全部修理する必要が出てくる。修理出来ればまだいいが、部品を溶接でガチガチに付けてたりしたら、修理も効かなくて、モジュール4個を全部作り直す事もあり得るよね。これまでの作り方だと、1個の部品を交換して済む話が、モジュール構造では4倍以上の手間ひまがかかってしまうことが、実際に作り始めてから、ようやくわかったみたいなんだ。

(質問者)確かに、言われてみればその通りですけど、何だか間抜けですよね。

(相田)結局モジュール構造というのはもろ刃の剣で、ある程度製品を作った実績がないと、使ってはいけない技術だったんだね。完全に設計図面と作り方が決まってしまった後なら、ドンドン行けるけど、今回みたいな初物の場合は、想定外の不具合とかも出てくる訳で、逆にコストばかりが増えてしまう。やっぱり、最初から原発4基をまとめて作るのは、無理があったんだ。まずは少々赤字が出ても 、まずは1台だけきちんと作ってみて、技術的な問題を洗い出すべきだったと思う。そうしたら、ショーの技術が使い物にならなくても、ダメージが小さくて済んだ筈だよね。


7.日本はこの失敗を生かせ

(質問者)こうなる前に東芝はどうすれば良かったんでしょうか?

(相田)さっきも言ったように、最初からAP1000を4基も作らずに、まずは受注を1つだけにして、きちんと完成させるべきだったと思う。そしたら赤字の額も単純にいうと1/4で済むから、半導体とか医療機器とかの稼ぎ頭を売却しなくても、東芝は何とかなったんじゃない?建設相手としてショーがヘタレで使えないのも、早めにわかるしさ。それで問題点を色々とあぶりだして、解決策を打った後なら、受注数を増やしても大丈夫だよね。極めてハッピーな結末だよ。

 でも、最初に6000億円でWECを買収してしまい、数千億円の「のれん」を背負っちゃった。なので、初っぱなから華々しく受注を増やさないと、「のれん」を損失として計上しなければならなくなる。それを東芝は怖れたんだろう。ただし技術的な方法としては邪道だったということだよね。技術は正直だよ。

(質問者)今回の事件の全体について、相田さんはどう思います?

(相田)まだわからない事が多いんだけど、経済事件としては、21世紀前半の歴史に残る出来事だと思える。東芝が倒産すると決まった訳ではないけど、以前の山一証券や長銀の倒産の時よりも、展開があまりにもドラマチック過ぎるよね。

 でもこうなるのは、当たり前といえばそれまでだよな。新型の原発を試作機も作らずに、いきなり実機に持って行けば、トラブルが色々起きるのは、当然想定すべきだよ。だから、今回の失敗は実に貴重な、有益な経験とデータが取れたと、前向きに考えるべきだと思うよ、つらいけどさ。

(質問者)でも、東芝の普通の社員の人達は、とてもそんな風には達観できないんじゃないですか?結局のところは、東芝がアメリカにいいようにやられて、金を奪われた、という事で終わるんでしょうか?

(相田)事実としては そうだけど、見方を換えれば、日本のお金を使って最新型の原発4基をアメリカにプレゼントした、とも言えるよね。安倍総理がこの間トランプとゴルフをしながら約束したみたいだけど、アメリカのインフラ事業に日本は全面的に協力するんだろ?そのお金を、貴重な日本の年金資金を使う前に、東芝のお金で前払いしましたよ、と言う訳さ。現地の建設業者達も色々経験させたし、次はもう少し上手くやれますよ、とか付け加えてもいいだろ?

 東芝の赤字だろうが何だろうが、日本の金をアメリカのインフラ建設に使ったのは事実さ。これから安倍がトランプと交渉する時の、貴重なカードの一つにはなるよね。交渉の仕方にもよるけど。

 その意味では、東芝と日本政府は4基のAP1000を責任を持って、きちんと完成させるべきだと思う。今更WECを破産申請するべきだ、との意見も出てるみたいだけど、そしたらアメリカの電力会社が、待ってましたと契約不履行で裁判を起こして、大金を巻き上げられて終わりだよ。今更契約を覆すのは不可能だし、原発も作りかけのままでほったらかしで、怨みだけが残されて最悪だ。

 半導体とかその他のまだまだ使える技術や人材は、会社の名前が変わってもまだまだやれる、と前向きに考えるべきだ。それしかない。

 次に総理がアメリカに行くときは、世耕経済産業大臣と、名前は知らないけど外務大臣と3 人連れて、向こうはトランプとイヴァンカとその旦那の3人が出て来て、みんなで今度はカジノで遊びながら、東芝を差し出すから頼むよ、とか、安倍が念押しして来ればいいんじゃないか?掛ける金は公費はマズイから、自分持ちで百万円までとかさ?

(質問者)オチがそれですか‥‥‥

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2月25日
相田英男 拝

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